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総力戦
前田の後悔
しおりを挟む――約10年前
前田が本部長補佐をしていた頃。
「本部長補佐、失礼します!」
「おお、どうした?」
「先程本部より派遣された捜査官三名が、
華狩にやられました…」
「なんだと!?ほんの数十分前に出発したのに…」
補佐室に、連絡役の捜査官が焦って走ってきた。
この数十分前、ある町に華狩と思われる怪しい人物が現れたとの通報を受け、連絡室から自由警備課 派遣捜査係に出動依頼を出した。
出動した捜査官たちは、三人とも優れた能力の持ち主で、華狩や龍華会を数多く逮捕してきた人材。
そんな信頼のある部下たちが華狩に命を奪われるなど、前田も唖然とするほど驚いていた。
「相当な強者ということか。
分かった。俺が行く」
「本部長には相談しなくてよいのですか?」
「そんな時間はない。
自由警備課の他の班にも出動要請を頼む!」
「あ!ちょっと!前田さん!」
半ば強引に、本部長補佐でありながら本部長へ報告もせず、現場の第一責任者としての役割を果たすため、前田は一目散に現場へ急行した。
本当のところ、本部長補佐はその行動を本部長へ相談、報告が必須である。
しかしこの緊急事態に、相談する余裕は無かった。
車をかなり飛ばして向かった目的地。
到着して前田がすぐに目にしたのは、血だらけで細い路地に横たわる捜査官の姿だった。
それぞれ利き手首には、濃紺の桜。
それも血に染まっていた。
三人は既に息が無く、大量に出血していた。
「間に合わなかったか…くそ!!」
「華捜の方ですか!犯人はあちらに逃げました!」
悲しみに浸る暇はない。
一刻も早く犯人を捕まえなければいけないという一心で前田は走っていく。
しばらく走ると、血痕がとある屋敷に向かって続いていた。
屋敷に近づくとそこから声がする。
前田は忍び足で玄関の近くまで行き、柱の影に隠れて会話を聞いた。
「落ち着いて!話をしましょう」
「うるさい…お前は知らないだろう。
俺がどんなに苦労してあの仕事に就いたのか。
そんなお前に出世の道も奪われて、
黙っていられるか!!」
「もうやめてください!
夫があなたに何をしたと言うのですか!」
中には三人、怪しい男、家主、家主の妻が居るようだ。
恐らく怪しい男は刃物かなにかを持って脅しているのだろう。
先程の血痕がこの屋敷の中まで続いている。
間違いなく捜査官を殺したのも彼だということだ。
「何をしたか?ここまで言っても分からんのか。
お前が邪魔だ。ただそれだけなんだよ」
「すみません…どうか、命だけは!!」
妻のすすり泣く声と、家主の必死な叫びを聞き、前田の抑えていた感情が爆発した。
隠れていた場所から一気に飛び出し、男のいる部屋に駆け込んだ。
「チッ、また華捜か…
どいつもこいつも邪魔しやがって」
「俺の部下を殺したのはお前だな。
それに罪のない人を傷つけようとするなんて、
救いようのないクズだ」
「お前なんかが来たって俺に勝てるわけが無い。
これでも俺を捕まえられるか?」
男は不敵な笑みを浮かべると家主の妻の首に刃物を当て人質にとった。
捕まえようと下手に近づけば、その刃は首に突き刺さるだろう。
罪のない人を傷つけるのは絶対に許されない。
どんな時も人命優先なのだ。
前田はこの夫婦の命を守りながら、必死に闘かった。
だがやはりそこらの下っ端よりもこの男は強く、特別に使用を許可された刀で立ち向かったが男を斬ることができない。
「言っただろう?俺は強い。
雑魚に付き合うほど暇じゃない」
「なにっ…!」
疲れ果てた前田は畳にうずくまって声を出すのがやっとだった。
するとそこに男の仲間が数人で押し寄せ、夫婦の手足を縛った。
あっという間の出来事に、前田は対応しきれない。
そして男は瓶に入った睡眠薬入りの液体を前田に飲ませ、夫婦を拐っていった。
前田が目を覚ました頃には、男たちも夫婦もそこには居なかった。
ただ応援要請で駆けつけた捜査官たちと地元の住民が外で騒がしくしているだけ。
前田は屋敷から出て、呆然とした。
気力も体力も無く、ただ雨の降り出しそうな空を見つめることしかできなかった。
その後、前田は本部長に相談や報告をせず無断で行動したことで処罰を受け、本部長補佐を解任、自由警備課に配属されることとなった。
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