54 / 63
総力戦
前田の後悔
しおりを挟む――約10年前
前田が本部長補佐をしていた頃。
「本部長補佐、失礼します!」
「おお、どうした?」
「先程本部より派遣された捜査官三名が、
華狩にやられました…」
「なんだと!?ほんの数十分前に出発したのに…」
補佐室に、連絡役の捜査官が焦って走ってきた。
この数十分前、ある町に華狩と思われる怪しい人物が現れたとの通報を受け、連絡室から自由警備課 派遣捜査係に出動依頼を出した。
出動した捜査官たちは、三人とも優れた能力の持ち主で、華狩や龍華会を数多く逮捕してきた人材。
そんな信頼のある部下たちが華狩に命を奪われるなど、前田も唖然とするほど驚いていた。
「相当な強者ということか。
分かった。俺が行く」
「本部長には相談しなくてよいのですか?」
「そんな時間はない。
自由警備課の他の班にも出動要請を頼む!」
「あ!ちょっと!前田さん!」
半ば強引に、本部長補佐でありながら本部長へ報告もせず、現場の第一責任者としての役割を果たすため、前田は一目散に現場へ急行した。
本当のところ、本部長補佐はその行動を本部長へ相談、報告が必須である。
しかしこの緊急事態に、相談する余裕は無かった。
車をかなり飛ばして向かった目的地。
到着して前田がすぐに目にしたのは、血だらけで細い路地に横たわる捜査官の姿だった。
それぞれ利き手首には、濃紺の桜。
それも血に染まっていた。
三人は既に息が無く、大量に出血していた。
「間に合わなかったか…くそ!!」
「華捜の方ですか!犯人はあちらに逃げました!」
悲しみに浸る暇はない。
一刻も早く犯人を捕まえなければいけないという一心で前田は走っていく。
しばらく走ると、血痕がとある屋敷に向かって続いていた。
屋敷に近づくとそこから声がする。
前田は忍び足で玄関の近くまで行き、柱の影に隠れて会話を聞いた。
「落ち着いて!話をしましょう」
「うるさい…お前は知らないだろう。
俺がどんなに苦労してあの仕事に就いたのか。
そんなお前に出世の道も奪われて、
黙っていられるか!!」
「もうやめてください!
夫があなたに何をしたと言うのですか!」
中には三人、怪しい男、家主、家主の妻が居るようだ。
恐らく怪しい男は刃物かなにかを持って脅しているのだろう。
先程の血痕がこの屋敷の中まで続いている。
間違いなく捜査官を殺したのも彼だということだ。
「何をしたか?ここまで言っても分からんのか。
お前が邪魔だ。ただそれだけなんだよ」
「すみません…どうか、命だけは!!」
妻のすすり泣く声と、家主の必死な叫びを聞き、前田の抑えていた感情が爆発した。
隠れていた場所から一気に飛び出し、男のいる部屋に駆け込んだ。
「チッ、また華捜か…
どいつもこいつも邪魔しやがって」
「俺の部下を殺したのはお前だな。
それに罪のない人を傷つけようとするなんて、
救いようのないクズだ」
「お前なんかが来たって俺に勝てるわけが無い。
これでも俺を捕まえられるか?」
男は不敵な笑みを浮かべると家主の妻の首に刃物を当て人質にとった。
捕まえようと下手に近づけば、その刃は首に突き刺さるだろう。
罪のない人を傷つけるのは絶対に許されない。
どんな時も人命優先なのだ。
前田はこの夫婦の命を守りながら、必死に闘かった。
だがやはりそこらの下っ端よりもこの男は強く、特別に使用を許可された刀で立ち向かったが男を斬ることができない。
「言っただろう?俺は強い。
雑魚に付き合うほど暇じゃない」
「なにっ…!」
疲れ果てた前田は畳にうずくまって声を出すのがやっとだった。
するとそこに男の仲間が数人で押し寄せ、夫婦の手足を縛った。
あっという間の出来事に、前田は対応しきれない。
そして男は瓶に入った睡眠薬入りの液体を前田に飲ませ、夫婦を拐っていった。
前田が目を覚ました頃には、男たちも夫婦もそこには居なかった。
ただ応援要請で駆けつけた捜査官たちと地元の住民が外で騒がしくしているだけ。
前田は屋敷から出て、呆然とした。
気力も体力も無く、ただ雨の降り出しそうな空を見つめることしかできなかった。
その後、前田は本部長に相談や報告をせず無断で行動したことで処罰を受け、本部長補佐を解任、自由警備課に配属されることとなった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
居酒屋の看板娘でしたが、歌の治癒魔法が覚醒して王女に戻されました〜幼い頃に出会った側近様と紡ぐ恋〜
丸顔ちゃん。
恋愛
生まれてすぐに誘拐され、死んだとされた王女──
その赤子は、実は平民街にひっそりと置き去りにされていた。
病弱な父に拾われ、居酒屋の看板娘として育ったミリア。
白い小花を髪に挿し、歌うことが大好きな少女。
自分の歌に“治癒の力”が宿っていることなど知らずに、
父と平民仲間に囲まれ、穏やかな日々を送っていた。
ある日、市場にお忍びで来ていた皇太子とその側近が、ミリアの歌声を耳にする。
皇太子は“王族にしかない魔力の波動”を感じ、
側近は幼い頃の祭りで出会った白い小花の少女を思い出し、胸がざわつく。
その直後、父が危篤に。
泣きながら歌ったミリアの声は奇跡を起こし、治癒魔法が覚醒する。
「どうして平民の私に魔力が……?」
やがて明かされる真実──
ミリアこそ、行方不明になっていた王女その人だった。
王宮に迎えられ、王女としての生活が始まる。
不安と戸惑いの中、そばにいてくれるのは、
幼い頃に一目惚れし、今も変わらず彼女を見つめる皇太子の側近。
「今度こそ、君を見失わない」
歌姫王女として成長していくミリアと、
彼女を支え続ける側近の、優しくて温かい恋の物語。
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
香死妃(かしひ)は香りに埋もれて謎を解く
液体猫
キャラ文芸
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞受賞しました(^_^)/
香を操り、死者の想いを知る一族がいる。そう囁かれたのは、ずっと昔の話だった。今ではその一族の生き残りすら見ず、誰もが彼ら、彼女たちの存在を忘れてしまっていた。
ある日のこと、一人の侍女が急死した。原因は不明で、解決されないまま月日が流れていき……
その事件を解決するために一人の青年が動き出す。その過程で出会った少女──香 麗然《コウ レイラン》──は、忘れ去られた一族の者だったと知った。
香 麗然《コウ レイラン》が後宮に現れた瞬間、事態は動いていく。
彼女は香りに秘められた事件を解決。ついでに、ぶっきらぼうな青年兵、幼い妃など。数多の人々を無自覚に誑かしていった。
テンパると田舎娘丸出しになる香 麗然《コウ レイラン》と謎だらけの青年兵がダッグを組み、数々の事件に挑んでいく。
後宮の闇、そして人々の想いを描く、後宮恋愛ミステリーです。
シリアス成分が少し多めとなっています。
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。
異世界カントリーライフ ~妖精たちと季節を楽しむ日々~
楠富 つかさ
ファンタジー
都会で忙しさに追われる日々を送っていた主人公は、ふと目を覚ますと異世界の田舎にいた。小さな家と畑、そして妖精たちに囲まれ、四季折々の自然に癒されるスローライフが始まる。時間に縛られず、野菜を育てたり、見知らぬスパイスで料理に挑戦したりと、心温まる日々を満喫する主人公。現代では得られなかった安らぎを感じながら、妖精たちと共に暮らす異世界で、新しい自分を見つける物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる