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総力戦
降りかかる試練
しおりを挟む外へ出て、深く呼吸をする前田。
何か、物思いにふけている様子だった。
「前田さん、ここには初めて来たのですか?」
「いや。久しぶりに来た。
だが…少し嫌な思い出があってな」
「そうでしたか…聞かないでおきます」
前田の表情は曇っていた。
それを見た銀壱は、この町が梅乃の故郷だということ、梅乃の両親が拐われたこと、それが何か関係しているのかもしれない、と直感で思った。
しかし今大事なのは、この町の人々を守ること。
銀壱は余計な感情を入れず、目の前のことに集中することにした。
二人は再び町を巡回していた。
住民の様子、怪しい人物がいないかを注意深く観察した。
するとどこからか、嗅いだことのある花の香りが漂ってきた。
「はっ!この香り…」
「間違いない、京の着物についていた香りだ」
「ここに来ているのですかね」
「その可能性は高い。
あいつなら、もしかしたら…!」
前田はそう言うと、体の向きをくるりと変え、梅乃のいる屋敷へ向かって走り出した。
慌てて銀壱も着いていく。
屋敷まで戻ってきたが、何も変化はないようだ。
念の為中に入って侵入者がいないか見てみることに。
「おかえりなさい。
巡回、問題ありませんでしたか?」
「早河、お前こそ何も無かったか?
誰かが入ってきたりとか…」
「ええ、ありません。
何か、あったのですか?」
梅乃は無事だった。そして侵入者も居ない。
屋敷に入ると、外で嗅いだ花の香りはしなかった。
優しい畳と木の匂いだけだ。
前田は過去のことを思い出し、何事にも警戒するようになっていた。
捜査官としては良い事なのだろうが、心が乱れていると警備に影響が出る。
ここはしっかりせねばならない。
「いや、何も無い。おかしいくらいにな」
「そうですか。平和で良かったです」
「だが、油断はするなよ。
なんだか嫌な予感がするんだ…」
「嫌な予感」とは何なのか、前田は口にしなかった。
梅乃や銀壱にはそれが何か、分かるような分からないような不思議な感覚だ。
だが三人とも、京のことは頭に浮かんでいた。
もしかしたらここにやってくるかもしれない、と。
京の本当の狙いは何か。
紫が憎んでいたのが梅乃の両親だとすると、梅乃を殺すのが目的なのか。
はたまた、梅の華墨を狙えというのが紫の指示ならば、それを確実に実行するだろう。
やがて太陽は落ち、夕方また巡回をした三人は屋敷で食事をした。
その後いつでも出動できるよう外着を着たまま、眠りにつこうとしていた。
そこでまた前田の無線機が鳴る。
「前田です」
「こちら九重班。
榛名班と合流し、華狩を追いましたが
こちらの怪我がひどく、捕り逃しました…」
「なんだって…!無事なのか!?」
「はい。今、本部車両により緊急搬送中です。
私は幸い傷が浅いのですが、
他の5人は…意識がありません」
「分かった。ご苦労だった。
警備には他の部署から応援をまわせ。
後はこっちで何とかする」
「了解」
榛名班と九重班、6人中5人が意識不明。
相当厄介な華狩なのだろうと前田は推測した。
恐らく複数犯だ。
今回はやはり、紫の指示にも力が入っているのかもしれない。
銀壱と梅乃は既に眠ってしまっていた。
起こさないように冷静を保ちながらも、前田は爪が食い込むほど拳を握りしめた。
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