隻腕の聖女

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王の野望編

第15話

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シロエルが呪文を唱えている間だけ、それは現れた。
クモのような下半身の、背中に当たる部分が、
はっきりとわかるくらいに赤く光った。

使い魔達とは違い、球があるのではなく、
その瞬間だけ紋章のようなものが浮かんだのだ。

仮に、球を含めた弱点の正体が、魔力の源だとするならば、
魔力を使うときに活性化する(してしまう)という道理なのだろう。

魔力を使うことは、悪魔にとって弱点をさらすリスキーなことでもあったのだ。


私がシロエルの弱点を見つけたことに、気付いてか気付かずか、
シロエルは使い魔を残してまたどこかへ逃げて行ってしまった。

「イヴ、このままでは奴に逃げられる。
俺たちでここを抑えるから、お前ひとりであいつをやれるか?」
ガイツが片手で使い魔の攻撃をギリギリかわしながら言った。

「イヴ一人だと?無理に決まっている。
ここはいったん立て直そう。」
アリウスは敵を一匹一匹着実に仕留めながら冷静に答える。

私はこの機会を逃したら、もっと厄介になるような気がしていた。
シロエルの本当の姿を見た街の人達を、このまま生かしておくだろうか?
シロエルが警戒して他の十邪星を呼んでしまったら?
蜂の仕掛けだって、そうそう何度も引っかかってはくれないだろう。
そうなってしまったら手に負えない。

しかも、今度はシロエルを倒すどころか、
逆に私達がほかの十邪星達に命を狙われるかもしれない。
一人でこの状態なのに数人でやってこられたら?
最悪の事態だ。

「今、ここでやるしかないの。ここはお願いします。」
私は使い魔達の間を潜り抜けて、一人でシロエルを追いかけた。
アリウスやガイツの反応を伺う暇もなかった。
まさに必死だったのだ。

私は廊下に出てシロエルを追った。
追いながらシロエルを撃とうと左手に集中しようとしたが、うまくいかない。
まだ、そこまでうまく力を使えないようだ。

シロエルは、私に気付いて振り返りざまに、片手で火球を放った。
片手で放った火球は、人間の拳ほどしかなく、私はそれをくぐるようにして避けた。
シロエルは立ち止まって、今度は私に向かってきた。
私一人なら力押しで何とかなると思ったのだろう。

私は左手に意識を集中させた。左手が熱くなる。

しかし、シロエルの動きは予想以上に早く、
私の力が溜まりきる前にシロエルの鋭い脚が襲い掛かった。

シロエルの一撃が私の左肩を貫く。
私は痛みで叫び声をあげた。

「本当にちょろちょろと憎たらしいやつめ。
力の使い方もよく分からないくせに。」
シロエルは私を軽々と持ち上げて、目の前まで顔を近づけて言った。

次の瞬間、私は左肩にシロエルの足が刺さったまま、床に叩きつけられた。
体中に衝撃が走り、私はうめき声をあげた。

シロエルの足は、私を貫いたまま床に深く突き刺さって、
私は身動きが取れなくなってしまった。

「悪魔をなめるとどうなるか思い知らせてくれる。」
シロエルはもう一本の足を高く振り上げた。

もうダメだ、と思った時、
「貴様コソ、私をナメるな。」
私はあの禍々しい声を聞いた。
極度の神経の昂りのせいか、実際に耳で聞いたのか、
神託として受けたのかすらよく覚えていない。

その声の後、シロエルは急に悲鳴を上げて飛びのいた。
よく見ると、私の左肩に突き刺さっていた足の先端は、消え失せていた。

私の左手は、怪我をしたせいなのか、力のせいなのか、凄く熱く感じていた。
私は体中の感覚を半分失いながらも、立ち上がって左手をシロエルに突き出した。
それが、自分の意思なのかもよく分からない。
自分の体であって、自分の体ではない不思議な感覚だったからだ。
言うなれば、熱を感じる肌は私のものだったが、
動かしているのは"別の誰か"といった感じだ。

シロエルに突き出した左手はいつも以上に赤く輝いていた。
シロエルはその力の大きさを感じたのか、
顔を引きつらせながら後ずさりして、振り返ると逃げだした。

私は体中の全ての力が左手に吸い取られていくのを感じた。
足は、ただのつっかえ棒になりはて、
耳は、高い耳鳴りしか聞こえず、
目は、視界が霞んでシロエルさえも捉えていなかった。

私の命が、流れ出していく・・・。

このままでは危険だと思っていても、左手は無意識にどんどん力を吸い上げていく。

どれだけ時間が経ったのだろうか、それとも大して時間は経っていないのだろうか。
脳が全ての感覚を閉ざしてしまうその直前、左手に大きな衝撃が走り、
私は、子供が遊び終わって投げ捨てた人形のように後ろに吹き飛んだ。
何度か地面に叩きつけられたが、痛みもなければ声も出なかった。
天地の概念さえも忘れて、自分がどんな態勢でいるのかも分からなくなっていた。

もう、そのまま永い眠りに就いてしまいたかった・・・。
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