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くるくる

どういうこと?

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「何で何で?」
どうした、私のパソコンよ。
「何で立ち上げたばかりで、すぐに点検になるかな?」
これも、自動でどうにかしてくださいよ。

電子機器の発展は目まぐるしいんでしょ?
「何でスタートした段階で、アップデートになるのよ?おーい!」
物に罪はないと思うけれど、思わずノートパソコンを叩きたくなる。

「何、さっきから楽しそうに?」
はしゃいでいるわけではないのに、そういうことを言うのがイラっとする。
パソコンのメンテと重なり、文句も出てこない。

「無視?」
無視したい。
でも、したら面倒だ。
多分。

体感で知っている。
「はいはい、うるさくてごめん」
からかう声に、感情のない声で謝罪する。
「今度は流すか」
あ、もう面倒スイッチが入っている。

遅かったか。
でももう良いや。
くるくるしている小さな青い輪。
それを見ていても、動きそうのない気配にすでに心が折れた。

じゃ、相手にしない。
もう良いや。
一気に気分が断ち切られた。
座って「いざ!」って思っていたのに、すぐ椅子から立ち上がる。

「どこに?」
「ちょっとそこまでー」
それに適当に相槌を返し、キッチンに行く。

避難。
色んな意味で。
勇気ある撤退も時には必要。

「今日中にやろうと思ったのに」
そうよ、折角まとめたい方向が決まったのに。
思いついた時に、形にできないのはストレスが大きい。
資料だけと向き合う時間は、もういらない。

…なのに。
何で、ツールが使えない?
出鼻を挫くとは、まさにこのこと。
もう、心が折れた隙間を埋めるのは、大好きな白ワイン。
最近巡り合った、箱で売っているドイツワイン。

3Lも入っているのに、何とお安さの1,000円というのが驚き。
箱のワインは今まで、あまりハマらなかったのにこれはど真ん中。
それは、水のように飲みますよ。
でも今は昼前。
そう、多分おやつ時と言われる時間。

でも、飲みますよ。
だって、折れた心をどうにか繋ぐためだから。
氷を入れると、尚よろし。

1杯をあっさり飲み終え、おかわりに手を伸ばす。
「何してんのかと思えば、さっき『今日は夕方まで頑張る』って言ってたのに?」
来たか。
何で来るかな?
もう、良いや。
「何?わざわざ絡まれに来たの?」

私は、ちゃんと距離を取ったよ?
2杯目を確保し、椅子に座り直す。
私は距離を取ったのに、来たのは君じゃん。
だから、もう気にしない。

そんな私に構わず、君は溜め息を付く。
「頑張るって、張り切っていたのに?」
同じこと、2回言わないで良いから。
繋ぎかけた心が、また挫けそう。
「…もう良いよ。メンテ終わるまで休憩」

「休憩で、アルコールは違うんじゃない?」
ド正論。
本当に、仰る通りで。

「じゃ、パソコンどうにかしてよ」
「俺のパソコンじゃないのに?」
「私のパソコンだけど、動かないんだから仕方ないじゃん」

そう、仕方ないじゃん。
だけど、メンテと知っていたのに、先に時間を作らなかったのは自分のせい。
そう。
全部自分のせい。
現実逃避をしていても仕方ない。

「もう、分かっているから、君は仕事を続けたら?絡んでごめん」
これ以上、八つ当たりしないから。
逃げたまえ。

家にいると、こういうことで煮詰まる。
一緒にいると、良いことも悪いことも。
あの、くるくると同じ。

巡り巡っても、終わりがない。
終わりが来るのを、待つしかない時間。
小さいグラスだから、2杯目もすぐに空になった。

さて、じゃ1回パソコンを見てくるか。
絡んでも、良いことはない。
それに、何も生まない。

ボーっとしていると、手からグラスが抜かれた。
本当に、世話を焼くな。
いつもはそうじゃないのに。
むしろ、お互いに“自分の時間を大事に”がスローガンの共同生活なのに。

「氷は?」
「へ?」
「半分くらい?」
思ってもみなかった言葉に、ポカンとする。

「何で?」
「仕事の効率化アップに、適度な休憩は有効だし」
一緒に暮らすようになって、こういう所が変化した。
頭が固いだけだったのに、随分変わるものだな。

しみじみしてしまう。
「良いの?まだ就業中なのに?」
「俺は飲まないし」
あ、やっぱり。

「ありがとう」
ポロリと出た言葉。
「珍し」
「何が?」
「素直に感謝するのが」

何を?
たまには、本当にたまに、素直に感謝することもありますよ。
時々なら…。

「そっちこそ、珍しいじゃん」
思わず出る言葉。
「何が?」
「気に入らないと思っているのに、何でお酒を飲ませるの?」

私が言う言葉に、思わずと言った様子で「フッ」と笑う仕草。
あ、こういう所。
やっぱり、好きなんだな。
「好きだなぁ…」
「何だよ、急に?」

私が、好きで好きで仕方がなかったのに、いつの間にか付き合ってくれて、一緒にいるこの生活。
近付き過ぎないように、私が気を付けないとこの関係は破綻すると思っているのに。
過干渉は、この人が嫌うことなのに。

「仕方ないだろ?情が出たら」
思っていない返答に、滲んでいた涙がスッと引く。
「情?そういう時は嘘でも『俺も好き』でしょ?」
「嘘で言う言葉に、意味はないだろ?」

「もう!頭が固いな」
「それはどうも」
「折角、気分が上がって昼はパスタにでもしようと思っていたのに」
「良いね」
私の提案に、ようやく機嫌が直ったように笑う。

「何味が良い?」
「和風」
和風か、なら具はシンプルで良いもんね。
「りょ!」
「返事なら、『ハイ』で良いだろ?何ですぐに省略する?」

「あー、もう面倒」
「はいはい、ごめん」
「軽い」
「誰かさんのマネ」

忘れていた、イラっとが返ってくる。
「もう!」
怒っていても、慣れてしまったことですぐに鎮火する。
新しいワインを手に、私も席を立つ。
「じゃ、戻りますか?」

「休憩終了?」
「とりあえずはね」
だから、お昼準備まで少し頑張りましょう。
だから、メンテナンスは終了していて。

あの、くるくるに付き合うのは、もうしばらく勘弁だから。
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