子どもって

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侵入者

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昨夜、誰かに教室のガラスが割られたこと。割られたのは学童の隣の教室だったこと。そこから誰かが学校に入り、すぐにいなくなったこと。
今も警察が調べているので、迷惑にならないように、と言っていた。
分かっていることは、全て話してくれたんだろうが、基の方が気になった。羽賀の話を聞いている姿は、いつかの背中に重なる。自分の存在をないように、回りに気付かれないように、息もしないでそこにいるように見えた。
朝の会の終わりには、校長先生が校内放送をしていた。
今、警察の人が調べてくれて、みんなが安全に過ごせるよう、先生たちも見ています。ガラスが飛んでいるかもしれないので、側には行かないように、って言っていた。

1時間目が始まっても、基の様子はおかしいままだった。
話を聞いていないことが多く、聞かれたことにも何も答えない。羽賀が探るように聞いても、みんなからじろじろ見られることで、余計に挙動不審になっていた。
3時間目が終わる頃には、羽賀も呆れて特に何も言わなかった。
「中くん」
昨日廊下に呼ばれたように、羽賀に呼ばれた。
「何?」
羽賀はしゃがみこみ、目線が同じになる。
「基くん、昨日注意された後から、その、あんな風にぼんやりしていた?」
昨日、赤い目で「バイバイ」と言っていた基が思い出される。
「ううん、昨日の帰り道では、笑っていたけど」

告げると、羽賀は溜め息をつく。自分も聞きたいことを、そっと聞く。
「ね?ガラスってたくさん割れたの?」
問いかけると、羽賀は気まずそうに笑う。子どもには言えないことが決まっているのかもしれない。
「うん、ごめん」
言うと頭を撫でられた。
「今も、調べてもらっているから、心配しないでね?」
羽賀の言葉に頷く。
本当は、特に心配していない。会話は終わらせた方が良いと思ったので、それ以上は聞かなかった。

4時間目、図工の時間。画用紙に絵を描くことを言われたが、基は何も描いていなかった。
好きな物を描いて良いらしいが、基はぼんやりしているだけだった。
やっぱり放っておけなくて、側に行く。
「基、描きたいものとかないの?」
真っ白な画用紙に向かって、じっとしている基に話しかけた。

「好きなものって、先生は言っていたよ?ぼくはお母さん描いたんだ」
元の画用紙には、ピンクや黄色がたくさん塗られ、自分の母親がそこにいた。
「ウチは、椿のお下がりの自転車」
静の画用紙には、おさがりだけど、形がカッコいいと静が気に入っている自転車が描かれていた。
「中くんは…?」
一通り2人の絵を見た基が、そうポツリと言った。
見せるのを少しためらったが、妙に嬉しそうな静に奪われた。

「ともだち、だってよ」
うまくはないけれど、今日学校に来れた元の姿を真ん中に、自分たちを描いた。静と自分と、そして基。
「…これ?ぼく?」
基が絵の中の基を指す。
「うん、似ていないけど」
基は、やっぱり泣きそうな顔で、鉛筆を握る。
描き始めた基の側から、そっと離れる。
絵の具で塗る時間は足りなかったけど、基はきちんと絵を提出していた。

「基くん、上手に描けたわね?お母さんとお兄ちゃんかな?」
羽賀に聞かれ、基はしっかり頷いた。
挙動不審さはなくなっていた。
ただ、相変わらず、動きはゆっくりで、考え事をしているように見えた。
給食の時間が終わって、歯磨き体操の音楽が流れる。静と元と流し台にいると、基が呼びに来た。
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