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あなたは俺だけの物です
⑦
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「っ!な、なに」
環さんの首元に手を回すと、首を絞められるとでも思っているのか小刻みに震えている。
それでも、俺の目を見つめて帰らないという強い意思を見せる環さんにまた苛立ちが募る。
首元のネックレスを外して、吐き捨てるように台詞を告げた。
「俺、環さんに飽きました」
「……え?」
「物覚え悪いし、いつも泣いてばかりでつまらないし、正直もういいかなって」
「それ、本当か…?」
「噓です、とでも言ってほしいんですか」
勢いよく首を横に振る環さんを見て心を痛める自分に反吐が出る。
馬鹿だな。
このまま関係を続けたいと言われるとでも思っていたのか。
「わっ、ま、待てっ」
「明日から、俺たちは『上司と部下』ですから。変に期待しないでくださいね」
「そんなこと…!」
「本川先輩と上手くいくといいですね。おやすみなさい」
「え、ま、まっ…」
環さんに鞄を持たせて強引に玄関の外へと押し出し、ドアが閉じた瞬間俺はズルズルと床に座り込んだ。
「最悪…」
もはや何が最悪なのかすら分からない。
環さんに恋をしてしまったことか。
そんなこととは露知らず何度も犯してしまったことか。
それとも、惨めに頬を濡らしていることか。
今まで通りの関係を貫く選択肢だってあった。
だけど、どうしてもそれだけはできなかった。
身体だけじゃ意味がない。
環さんの心もほしい。
それだけは絶対に叶わないと分かっているからこそ、彼女を手放す選択をした。
俺から解放された環さんは本川の元へと言ってしまうのだろうか。
アイツはクズだと知っているからなんとか阻止したいが、俺にそんな権利はない。
むしろ、環さんから見れば俺の方がクズ人間だ。
「あー…」
好きだ。
あの鋭い目、いつもきっちりと纏まっている髪、スラッとした四肢、かなり難があるあの性格、その他諸々。
どれをとっても可愛らしい。
頭を撫でると嫌そうにしているところすらも可愛い。
セックスを抜きにしても、あの人は十分魅力的なんだ。
おもむろに立ち上がって、ふらふらと真っ暗なリビングへと向かった。
こんな俺を村田が見たら心配するだろうか。それとも嘲笑うだろうか。
いっそ嘲笑ってくれた方がいい。
人生はイージーモードだと思っていた。
まるで人生の二週目をプレイしているような感覚が節々にあった。
一度学習すれば大抵のことは頭に入っていくし、対人関係で困ることも何一つとしてなかった。
「羨ましい」と言われることもあったが、俺に言わせればみんなの方がよっぽど幸せで、人間らしい人生を送っていると思っていた。
テーブルの裏の棚にある焼酎をおもむろに持ち、口をつけて一気に飲み干す。
今はただ酒に強い体が恨めしい。
考えたくなくても、環さんの顔が勝手に脳裏に浮かんでくる。
焼酎があっという間に無くなって、日本酒に手をつけると「酒の飲み過ぎはよくない。体調管理は社会人の基本だ」と声をかけてくる環さんが脳裏に現れる。
脳内の環さんの声を無視して一気に酒を煽ると「私にも少しくれないか」と少し上目遣いをしながら酒を要求してくる。
ガチャン、と深夜にはそぐわない轟音が鳴った。酒瓶が割れて破片が一面に飛び散っている。
無性に苛立つ。
あの人を忘れたくて酒を飲んでいるのに、あの人のことばかり考えてしまう。
思春期の中学生のような思想に心底吐き気を覚える。
結局その日は一睡もできないまま次の日を迎えた。
環さんの首元に手を回すと、首を絞められるとでも思っているのか小刻みに震えている。
それでも、俺の目を見つめて帰らないという強い意思を見せる環さんにまた苛立ちが募る。
首元のネックレスを外して、吐き捨てるように台詞を告げた。
「俺、環さんに飽きました」
「……え?」
「物覚え悪いし、いつも泣いてばかりでつまらないし、正直もういいかなって」
「それ、本当か…?」
「噓です、とでも言ってほしいんですか」
勢いよく首を横に振る環さんを見て心を痛める自分に反吐が出る。
馬鹿だな。
このまま関係を続けたいと言われるとでも思っていたのか。
「わっ、ま、待てっ」
「明日から、俺たちは『上司と部下』ですから。変に期待しないでくださいね」
「そんなこと…!」
「本川先輩と上手くいくといいですね。おやすみなさい」
「え、ま、まっ…」
環さんに鞄を持たせて強引に玄関の外へと押し出し、ドアが閉じた瞬間俺はズルズルと床に座り込んだ。
「最悪…」
もはや何が最悪なのかすら分からない。
環さんに恋をしてしまったことか。
そんなこととは露知らず何度も犯してしまったことか。
それとも、惨めに頬を濡らしていることか。
今まで通りの関係を貫く選択肢だってあった。
だけど、どうしてもそれだけはできなかった。
身体だけじゃ意味がない。
環さんの心もほしい。
それだけは絶対に叶わないと分かっているからこそ、彼女を手放す選択をした。
俺から解放された環さんは本川の元へと言ってしまうのだろうか。
アイツはクズだと知っているからなんとか阻止したいが、俺にそんな権利はない。
むしろ、環さんから見れば俺の方がクズ人間だ。
「あー…」
好きだ。
あの鋭い目、いつもきっちりと纏まっている髪、スラッとした四肢、かなり難があるあの性格、その他諸々。
どれをとっても可愛らしい。
頭を撫でると嫌そうにしているところすらも可愛い。
セックスを抜きにしても、あの人は十分魅力的なんだ。
おもむろに立ち上がって、ふらふらと真っ暗なリビングへと向かった。
こんな俺を村田が見たら心配するだろうか。それとも嘲笑うだろうか。
いっそ嘲笑ってくれた方がいい。
人生はイージーモードだと思っていた。
まるで人生の二週目をプレイしているような感覚が節々にあった。
一度学習すれば大抵のことは頭に入っていくし、対人関係で困ることも何一つとしてなかった。
「羨ましい」と言われることもあったが、俺に言わせればみんなの方がよっぽど幸せで、人間らしい人生を送っていると思っていた。
テーブルの裏の棚にある焼酎をおもむろに持ち、口をつけて一気に飲み干す。
今はただ酒に強い体が恨めしい。
考えたくなくても、環さんの顔が勝手に脳裏に浮かんでくる。
焼酎があっという間に無くなって、日本酒に手をつけると「酒の飲み過ぎはよくない。体調管理は社会人の基本だ」と声をかけてくる環さんが脳裏に現れる。
脳内の環さんの声を無視して一気に酒を煽ると「私にも少しくれないか」と少し上目遣いをしながら酒を要求してくる。
ガチャン、と深夜にはそぐわない轟音が鳴った。酒瓶が割れて破片が一面に飛び散っている。
無性に苛立つ。
あの人を忘れたくて酒を飲んでいるのに、あの人のことばかり考えてしまう。
思春期の中学生のような思想に心底吐き気を覚える。
結局その日は一睡もできないまま次の日を迎えた。
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