超有名歌い手の私は静かに暮らしたい

サラダ菜

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27.久しぶりの湊くんは目に毒です

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…な、なんで、こんなことに。

「ほい、アイスティー」

「あ、ありがとう、ございます」

湊くんからプラスチックのコップを受け取って、ぺこりとお辞儀する。
コップの中に並々と注がれている茶色の液体を見て、そう言えばストレートティー飲めないんだった…!と注文ミスを後悔していると、机の上にガムシロップとミルクが二つずつ置かれた。
思考を読まれたことにびっくりしすぎて顔をバッと上げたら「あ?いらねえの?」となぜか喧嘩腰で言い寄られ、「いります!!!」と食い気味に答えた。

「お前絶対甘党だと思ったんだよな」

そうです甘党です。
だけどそんなことよりも、なんでそんなに近くに着席してくるんですか。
少しでも太股を動かしたら当たってしまうような距離なんですが。

「夏菜、緊張してんの?」

「はえっそそそそんなことはっ」

「っくく、どもりすぎ」

湊くんの顔が離れた隙を見計らって一生懸命酸素を取り入れる。
二週間ぶりくらいに間近で見る湊くんの顔はかっこよさに拍車がかかっていて、とてもじゃないけど直視できた代物じゃない。
屋上にいる間は色々なことが起こり過ぎて顔を意識する暇が無かったけど、こうして二人だけの空間の中にいると嫌でも気にしてしまう。
ほんのり漂ってくる湊くんの匂いとか、シャツから見える鎖骨とか、とか。
この人、こんなに色気むんむんだったっけ。

「んむぅっ」

「緊張、ほぐしてやろうか」

「んむー!んむむー!!」

私の頬を掴んで舌なめずりをしている湊くんの胸板を全力で押し返しながら首を振り続けた。
完全に捕食者の目をしている。怖すぎる。

「冗談だって」

手をパッと離してニコニコしている湊くんだけど、まだ瞳の奥がギラギラしているような気がして目を逸らす。
次は食べられる。
本能が警鐘を鳴らしまくっている。

「先に選べよ」

そう言って湊くんが手渡してきたのは少し重いタブレットのような機械。
どうやって触ればいいか分からず湊くんを見上げてSOSを出した。

「…もしかしてデンモク触ったことないとか言わないよな」

「で、デンモク?」

「………カラオケ、来たことないのか?」

「は、はい」

そう。
屋上での一件があったあの後、幸せを噛みしめながら帰宅しようとしていたところを突然湊くんに捉えられ、行き先も告げられぬままひたすら引きずられ、気付いたらカラオケ店に着いていたのだ。

カラオケへの憧れは昔からあった。
だけど、家には機材がそろっているからわざわざお店に行かなくてもいいし、友達とカラオケに行こうなんて話になったことも一度もない。

だから、これが私の人生初カラオケなのである。



湊くんは両手で頭を抱えながら項垂れて一向に動かない。
カラオケに来たことが無いって、そんなに珍しいのかな。

「現役高校生だぞ…カラオケが初めてって、そんあことあるか…?」

「あの、すみません…私…」

「…まあいい、むしろ連れてきて良かった」

「そういえば、なんでカラオケに…?」

「…」

ふと素朴な疑問を投げかけると、湊くんは私の持っていた機械を取り上げて何やら複雑な操作をしていた。
彼が下を向いていると、綺麗なオレンジ色の髪がさらりと落ちる。
髪の間から、少し赤くなっている耳が見えた。

「あっ」

聞き覚えのあるメロディーが流れだした。
これ、湊くんと初めて屋上で出会ったときに私が口ずさんでいた曲だ。
湊くんはマイクを手渡しながら笑いかけてくる。

「初めてのカラオケ、楽しめよ」

「でも、私人前で歌うなんて初めてで…!」

「ラギが何言ってんだよ」

ラギとして歌うときは基本録音してから動画にしているから、自分の歌声を直接誰かに聞かせたことは無い。
ラギとして活動しだしてからは歌声でバレるのが怖くて、音楽の歌の実習も手を抜いていた。
つまり、誰かの前で自分の好きな曲を本気で歌ったことが無いのだ。

どうしよう、もうすぐ曲が始まっちゃう。
私の歌声が直接誰かに、よりによって湊くんの耳に入るなんて恥ずかしい。

だけど、そんな気持ちとは裏腹に体は勝手にリズムを刻み始める。
イントロが終わり、Aメロが始まる。

「~♪」

喉を開いた瞬間全てがどうでもよくなった。

青春を感じさせるような素敵な歌詞に気持ちを乗せる。
自分が歌っているようで、そうではない感覚。
まるでこの曲の主人公が自分に乗り移っているかのような。

楽しい。
楽しい…!
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