超有名歌い手の私は静かに暮らしたい

サラダ菜

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38.二人でお買い物 その1

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「あ、ここ…!」

「嬉しいだろ」

「うれしいっ!」

楽器店の前に行きたい店があると言われ、大人しくてこてこと着いていった先の看板を目にして私は目を輝かせた。
色とりどりの飲み物のイラストと、黒いつぶつぶ。
ひ、久しぶりのタピオカだ…!

「あ、でも、いいのかな…」

「あ?なにが」

「み、みんな頑張って準備してくれてるのに、私だけ息抜きしちゃって…」

「夏菜はいっつも張り切ってるだろ。たまにはいーんだよ」

湊くんがそっぽを向いて告げた一言に心が暖かくなる。

少しでもみんなの力になりたい。
いつまでもヘタレな自分を変えたい。
そんな気持ちから、手持ち無沙汰のときは周りに指示をあおいだり、一生懸命教室の様子を伺って自分にできることは無いか考えたりしていたけど、それを湊くんが見てくれていたなんて思わなかった。
恥ずかしいけど、それ以上に嬉しい。

「湊くん…あ、ありがとう」

「…頼んでくるからそこらへんで待っとけ!」

湊くんが注文をしてくれている間、私はこっそり八神くんに『ありがとう』とメッセージを送っておいた。
すると数秒も経たないうちに猫が親指を立てているスタンプが送られてきたけど、今日は通しでリハーサルをするって言っていたような。
…またこっそりサボってるのかな。



「はあ、生き返る…」

「それ、タピオカ飲みながら言うことじゃねえだろ」

楽器店に向かう道すがら、私たちはタピオカを片手に炎天下の下歩き続けていた。
くくくと笑っている湊くんにつられて自分も笑ってしまう。
最近は文化祭の準備と練習があって忙しかったから、顔を突き合わせて笑うなんて久しぶりかもしれない。

「あっ!」

「わ、なんだよいきなり」

笑っている湊くんを見ていたらあることを思い出して、咄嗟に大声を上げた。

「な、なんで、曲、わ、私の…!」

文化祭の出し物に自分のオリジナル曲が起用されていた件について抗議しようと思って、焦りすぎて自分でも何を言っているか分からなくなってしまった。
だけどそんな私の性格をよく分かっている湊くんは、私の言葉の意味を理解してくれたらしい。
特に何か聞き返されることもなく会話が続く。

「嫌なわけ?」

「あ、え?い、嫌というか、恥ずかしいと言いますか…」

「ならいーだろ」

湊くんはタピオカをぽこぽこと口の中に吸い込みながら、何でもないことのように言い放った。

「まだ夏菜の曲知らねえ奴だっているだろ」

「え?」

「あ、ここだ。入るぞ」

楽器店に入っていく湊くんの後ろを急いで着いていきながら、顔が赤くなっていくのを感じた。
湊くん、もしかして文化祭でラギの曲を売り出そうとしてくれているのかな。
前に湊くんのことを意地悪だと言っていた自分を殴りたい。
いや、意地悪なのは意地悪なんだけど、部分的に意地悪ではないというか。
意地悪という言葉がゲシュタルト崩壊を起こしそうになって目を回していると、湊くんはいつの間にかビニール袋を片手に目の前に立っていた。

「お前フラフラしてないか?」

「はっ!だ、大丈夫です!」

「…ならいいけど」

明らかにいぶかしんでいる湊くん。
私は思っていたことが悟られないよう極力明るく振る舞った。
「湊くんがどの程度意地悪か考えていました」なんて答えた日には私の命は無くなっているだろう。
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