余命一年のおれの話

サラダ菜

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残り六か月

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せんせー襲撃事件から一か月が経って、おれはせんせーの家にフツーに順応してた。

当たり前だけど、1Kのおれのアパートと3LDKのせんせーのタワマンじゃ居心地が全然違う。家具は豪華だし、風呂はでけーし、家事しなくていーし、最高のオンパレード。家賃もタダだから秒でバイト辞めてやろうかとも思ったけど、それはおれのミジンコ並みの良心が痛んだからやめた。

そんなわけで、半ば誘拐みたいに連れてこられたけど今の暮らしに不満はない。一日中ゲームして、腹減ったらデリバリーサービス注文して、寝たいときに寝て、マジで最高だ。

正直、最初はせんせーのことまあまあ警戒してた。てか、おれの立場に立ってみたら誰だって警戒するだろ、フツー。いつか尻でも揉まれるんじゃねーか、最悪処女喪失するんじゃねーかとか思ってたけど、まあ、今んところは大丈夫っぽい。ウザ絡みしてくるのはダルいけど、この家で至れり尽くせりしてっから、そんくらいは我慢してやる。

「海くん」
「おぁあっ!?び、っくりした……!!!」
「ぼーっとしてましたよ。体調悪いんですか?」
「ぼーっとしてだけだよ!てかびっくりさせんな!」

っぶね、口から心臓飛び出たかと思った。なぜかせんせーはいっつも気配を消して俺に近づいてくる。忍者の末裔かってくらい忍んでくるから毎回ビビる。ムカついたから背後から差し出された棒アイスをひったくってやった。感謝とかしねーから。

「今日は何してましたか?」
「バイト」
「楽しかったですか?」
「フツー」

せんせーはソファに埋まってるおれの隣に腰かけてきて、相変わらず無表情のまんま色々聞いてくる。おれはアイスを頬張りながら端的に答える。何が面白いのかわからんけど、毎日毎日定期的に行われるこのやり取りは正直ダルい。アンタは保健室の先生かよ。てかおれ今テレビ見てるからほっといて。

「体調はいかがですか?」
「フツー」
「何か必要なものはありますか?」
「ない」

そうですか、って呟いてせんせーはそれっきり喋らなくなった。やけにだだっ広いリビングには、バラエティー番組の安っぽい笑い声だけが響いてる。

ちなみに、せんせーから必要なもの聞かれて「ない」って答えたのは、一回痛い目を見てるからだ。いや、最初はラッキーって思ったよ?だから、ここぞとばかりにブランドもんのスニーカーとか、新作ゲームとかめちゃくちゃ注文してやったし。そしたら次の日には郵送できっちり全部届いた。ヤバくね?ガチで鳥肌とまらんかった。ここまでするか?フツー。
それだけじゃなくて、この人ゴールドカードとか平気で持たせようとしてくる。いや、ガチでキモいって。さすがのおれでも拒否った。

「……」

視線だけをこっそりせんせーの方にやると、ムカつくほど整った横顔。まばたきも全然しないし、時々この人ロボットなんじゃないかって思うときすらある。
なんかムカつくしイタズラでもするか。

「!」
「……ぶはっ!」

ちょいちょいと肩を叩いて、振り返ったせんせーの頬にはおれの人差し指がキレーにめり込んだ。その瞬間、おれ大爆笑。今時こんな古典的な引っ掛けに引っかかるやつ中々おらん。

「っあははははは!!」
「はじめに仕掛けてきたのは海くんですから」
「ちょっなに……あっははははは!!やめっははは!!」

じりじり近づいてきたせんせーにおれは貞操の危機を感じたけど、脇腹をこしょぐられただけだった。処女喪失よりはましかって安心したけど、そいえばおれ、くすぐりに死ぬほど弱いんだった。やめろって言いたくても、それより先に自分の笑い声が出てくるし、せんせーは大人げなく延々とくすぐってくるしでマジで最悪。笑いすぎて生理的な涙がぽろっと出てくると、やっとせんせーの手が止まった。

「はぁ……」
「……」

汗だっくだくになって涙を流してるおれと、そのおれに馬乗りになってるせんせー。あれ、この状況ヤバいんじゃね?やっぱ貞操の危機じゃね?とか思って冷や汗垂らしたけど、せんせーはおれの体を上から下までじーっと見つめたあと、無言でソファに座り直してた。

「ねえ」
「はい」
「せんせーでもえっちな気分になることってあんの?」

奇跡的に床に零れなかったアイスをぱくっと含む。いや、突然なによとか思うかもしんないけど、気になるもんは気になるんだもんよ。だってこの人、家にいるとメシ食うか、おれにウザ絡みするか、論文読むかの三択で、一緒に住んでるはずなのに謎すぎる。なんて言えばいいんかな、肝心なとこが見えないっつーか、壁があるっつーか。
けど、女ってこういうミステリアス?な雰囲気の男が好きなんだろーな。

「ねえってば」
「……」
「わーった、じゃあなにオカズにしてんのか教えてよ」

せんせーは無言のまんま。なんだよ、ノリ悪いな。別にいいじゃん男同士なんだし。どうせ女子高生とかそっち系だろ?知らんけど。
……あ、まって、おれ気付いちゃったかもしんない。

「せんせーのオカズ、もしかしておれだったり」

自分でも言うのもなんだけど、おれはまあまあゲスい笑みを浮かべてたと思う。絶対そうだろ。じゃなきゃ余命数ヶ月でよく分からん素性の男を家に連れ込むメリットが無いだろ。風呂あがって上半身裸でウロウロしてるおれのカッコとか見て夜な夜なオカズにしてんだろ。えっち。
てかさ、いかにも完璧ですーって感じのこの人が、ハタチの男オカズにしてるって考えたら超おもろい。性癖歪みすぎだろ。

「わ、分かった!分かったから!それだけはヤダって!!」

にゅい、と無言で伸びてきた腕を必死で掴んで抵抗する。この人、一回こしょぐりだすとおれが泣くまで止めてくんないからな。マジでタチ悪い。
てかフツーに質問はぐらかされたし。絶対クロだろこんなん。とか思いながらも、追及してまた攻撃されたらたまったもんじゃないから、余計なこと言うのはやめた。

「どうしますか」
「え?」
「僕が、キミをオカズしていると言ったら」

突然のカミングアウトにおれの時が止まった。せんせーはおれと手を絡めたまんまじっと目を見つめてくる。
なにこれ、超おもろい展開になってきたじゃん。今度ウザ絡みしてきたら「おれのことネタにオナってるヤツが何言ってんだ」つって反論できんじゃん。真面目な顔しといて年下好きのホモとか救えねーな。キモいわー。つか変態だろ。
とか、とか、色々言いたいことはあんだけど。

「あ、え」

肝心のおれの口が全く機能してない。咥えてたアイスの棒はとっくの昔に床に落ちてる。
フツーにからかってやればいいだけなのに、なんか、金魚みたいにぱくぱく口が動くだけで言葉が出てこない。挙句の果てに、この人がおれのこと考えてオナってるとこが勝手に頭に浮かんでくるし。いやいやいや、キモいって。

「冗談です」

絡まった手がパッと離れてった。アンタでも冗談とか言うのかよ、つーかキモい冗談言うなよ、はは。
てか、あっつ。この部屋暖房かかりすぎだろ。テーブルに置いといたスマホを持って急いで立ち上がった。

「海くん?」
「……」
「もう寝るんですか」
「……」
「最近ますます寒さが増していますから、暖房をかけてから「うるせー!ばーか!!」

クッションを投げつけると、せんせーは目を丸くしてた。あーなんだこれ、めっちゃムカつく。甘いもん食いすぎたみたいに胃が変な感じする。
空気が読めないせんせーの大丈夫ですか攻撃を全部無視して、思いっきり部屋のドアを閉めてやった。居候のくせに態度が大きい?知らん!勝手に連れて来たのはアイツだ!

「うっざ」

せんせーが用意してくれた、いかにも高そーなベッドに寝転がって悪態をつく。気晴らしに最近あんましやってないゲームでもやるかーってスマホ開いて、新着メッセージを見た瞬間おれは固まった。

『彼氏できたからもう会えない』

差出人はマナちゃんから。おれは今日一の深いため息をついてシーツに顔を埋める。最悪。めちゃくちゃ体の相性よかったのに。残り六か月、最後の頼みの綱のセフレだったのに。
返事もしないで電源ボタンを押して、近くの棚の上にスマホを伏せる。ついでにそこに置かれたリモコンで部屋の電気を消して、ぎゅっと目をつむった。

マナちゃんともう会えないとか辛すぎる。カラオケとか言ったし、買い物デートとかしたし、それに……くそ、なんで、マナちゃんよりもせんせーのタチ悪い冗談が頭に浮かんでくるんだよ。うぜーな。あー、なんだこれ。
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