転生先で動く推しカプのスケベを見て興奮していたら友人と妙な関係になった話

小村辰馬

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【番外編】訓練学校でできた友人が可愛くてたまらない話 -2-

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フェリシアが好意を寄せているのは、どうやらドベルグ王国第二王太子、マルクス殿下のようだった。
思い返せば、心当たりは多々ある。
俺が初めてフェリシアと出会った入学セレモニーでも、あいつは恍惚とした表情で殿下を見つめていた。またある時は薬学の講義中。ふと隣の席のフェリシアを見やると、奴のノートにはページいっぱいに殿下の似絵が描かれていた。何やら殿下の周囲に花は飛んでいたし輝きも散りばめられていたが、悔しいことに大層上手かった。
他にも鞄には城下町で非公式に販売されていたらしいマルクス殿下キーホルダー、常時どこからともなく取り出される自作らしいマルクス殿下人形等、フェリシアが彼に夢中なのは火を見るよりも明らかだった。

「でね、でね! マルクス様は市井の様子にもご興味を持たれていて、週末にはこっそりお一人で見聞に赴かれてるらしいんだよ!」
「へぇ」
「だからノア、今度一緒に城下町にーーいや! まさか偶然お会いできるなんて、思っちゃいないんだけどね! けど万が一にってこともあるし……マルクス様の御尊顔を一目拝めたら、勉強も訓練も頑張れちゃうというか、もうそれだけで十数年は生きられるというか……!!」

瞳を潤ませ頬を紅潮させながら興奮気味にそんな事を言われようものなら、こんなのもう認めざるを得ないじゃないか。
俺に対しては決して見せないフェリシアの「女」の表情は、悔しいことにとびきり可愛い。それはもう、見ているこちらまで頬が緩んでしまいそうなほどに。懸想人について嬉々として語るフェリシアは、俺の知り得る限りの中で一等魅力的に見えた。
ならば俺の取るべき行動は唯一つ。相手はあの眉目秀麗な天下の王太子殿下。対してはこちらは異性として意識すらされていない、平民卒の凡庸な同級生だ。報われたいなど、夢空事はハナから念頭に無かった。
俺はただ、あいつの笑顔を傍で見ていられれば、それで十分だったのだ。

「で。結局どっちが本命なわけ?」
「は?」

食堂で唐突に尋ねられ、思わず眉が顰む。
いつの間にか横へ腰掛けていたのは、クラスでフェリシアを挟んで隣の席のリヒトだ。
リヒトの視線を追うと、商品の受け取り口で何やらもたついている二人の女生徒が見えた。
またこの類の話か。

「くだらねーこと聞くなよな」
「いやいやお前、これは我が校内において、看過できない由々しき問題よ!? こら呑気に茶を啜るんじゃない!」

持っていたカップを強奪され、俺の顔面へ飲みかけの茶が飛び散ろうとリヒトはお構いなしで捲し立てる。

「フェリシア……は置いといて、全校生徒の憧れの的、あのアシュリーヌさんまで懐柔するなど……! 言語道断!! どんな爵位持ちの美男子であろうとどこ吹く風だったアシュリーヌさんが、何でお前にだけ心を開いているのか、今日こそ聞かせてもらうからな!!」

奪い取った俺の茶を勝手に飲み干した果てに、勢いよくテーブルへカップを叩き置いたリヒトは鼻息荒く俺へ詰め寄った。
いや何勝手に俺の茶を飲んでやがるんだ。

昼食を配給係から受け取りながら談笑する、フェリシアとアシュリーヌへ視線をやる。

「何でも何も、事の発端はフェリシアなんだがなぁ……」

アシュリーヌという女生徒は、入学当初から何かと話題の中心にいる人物だった。
なんでも俺と同じく平民の出らしく、その上お貴族様達を差し置いて主席での入学だそうだ。それだけでも異例の事態であったのに、加えて彼女の容姿だ。審美眼の鈍い自分から見ても、滅多に見ない器量良しだと分かる程度には、アシュリーヌは目を引く雰囲気を纏った女生徒だった。
だからと言ってその容姿に惹かれて、蝶よ花よと持て囃す者達はなんとも浅薄というかなんというか。高位貴族達が我先にと、未だ人柄も知り得ていないであろう彼女に言い寄る姿は、いっそ滑稽にも見えた。
クラスメイトでもない俺ですら、その光景が日常茶飯事だと捉えていた程だ。同性である貴族のお嬢様方には、殊更悪目立ちして見えていたことだろう。
程無くして、アシュリーヌが彼女達に嫌がらせを受ける様子を、校内で頻繁に見かけるようになった。
ある時は廊下で足を引っ掛けられては転ばされ、またある時は私物を隠され、その嫌がらせの数々は同じクラスでない自分の目にも付く程だった。
かと言ってそこそこの爵位持ちである彼女達を、大手を振って諫めるアシュリーヌの取り巻きは皆無に等しく、仮にいたとしてもそれが貴族のお嬢様方の機嫌を損ねてしまい、嫌がらせをより陰湿且つ苛烈なものにさせるだけだった。
お貴族様には逆らわないに限る。渋い顔でその光景を眺めていた俺ですら、事なかれを貫いていたのだが……
ある日、教室移動をしていた時のことだ。

「フェリシア」
「……」
「おーい、聞こえてんだろ。授業遅れんぞ」
「……」
「ふぇーりーしーあー」
「ノアよ。あれが見えんのかね」

突然渡り廊下の柱の影に隠れたフェリシアが、ひょこりと再び顔を出す。大業な動作で中庭の方向を指し示すフェリシアの指を目で追うと、そこには既に手遅れと言わんばかりに盛大に頭から紅茶をぶっかけられた、巷で噂の特待生、アシュリーヌがいた。彼女の向かいにおわすは、学年でも羽振りを利かせている伯爵令嬢とその取り巻きだ。
……おいおいおい。いくらなんでも、あれはやりすぎなんじゃねーか。頭どころか、制服や彼女が手荷物教科書まで紅茶に浸されている。というか、紅茶は冷めたものだったのだろうか。
紅茶に塗れたアシュリーヌを前に、伯爵令嬢達は上機嫌な様子でクスクスと笑い合っている。

「あれ、クラスの奴らがよく噂してる首席の子だよな。俺と同じ平民卒の。ひっでーことしやがる」
「そうなんですよ。勿論どんな姿になってもアシュリーヌちゃんの美しさが損なわれることはないし、濡れたアシュリーヌちゃんもまたアンニュイな美しさに満ちてるんだけども。やっぱり推しには笑っていてほしいというか、正規√とはいえ推しが虐められるのを黙って見ているだけなのは、胸が張り裂けそうになるんだよね」

未だに柱の陰に隠れたまま、アシュリーヌ達の様子を伺うフェリシアを見やる。
フェリシアが何を言っているのかはよくわからんが、こいつもまた、お貴族どものアシュリーヌに対する所業に思う所があるのだろう。普段俺以外の生徒と積極的に交流する素振りを見せないが、やはり誰かが誰かに虐げられている様子は、見ていて気持ちの良いものではないしな。

とはいえ、流石に静観する範疇を超えたお貴族どもの所業だが、ここで割って入った所で、一体俺に何が出来るというのだろう。身分の垣根を超え、同じ学舎で過ごす者とはいえ、あくまでそれは建前だ。蓋を開ければ、ここは未だ根深く残る階級社会。爵位を持たない俺の声など、あのお貴族サマ方には虫の羽音よりもちっぽけなものとして聞こえることだろう。無視されるだけならまだ良いものの、貴族へ楯突いた平民として彼女達の機嫌を損ねようものなら、俺の校内での立場さえ危ういかもしれない。実際にそれだけの権力が、貴族とはいえ一生徒にあるのかは定かでは無いが。
兎にも角にも、血反吐を吐く思いを経て、漸く竜騎士になる足掛かりを得たのだ。面識も無い女生徒のために、人生を棒に振る必要は無いだろう。
しかし……

フェリシアが、俺に意味深な視線を送り続けて来るんだよなぁ。

「……」
「じー……」
「……フェリシアさんよ」
「なにかな」
「いや、なんかめっちゃ見られてる気がするのは俺の気のせいだろうか」
「ん、気のせい気のせい。じーー」
「いやいやいや」

俺がどれだけ、お前の一挙一動に敏感になってると思ってんだ。気のせいな訳あるか。
しかしこれは暗に、俺にアシュリーヌを助けに行ってほしいということなんだろうな。
フェリシアの生家も決して小さくは無いが、だからこそ変にあの貴族令嬢達の反感を買い、家同士に軋轢を生みたくないのかもしれない。貴族は貴族で色々と大変なのだろう。

「じーーーー」
「ああもう! わかったわかった。ちょっと行ってくるから」
「! ほんと!? ……いや別に私は、これまで遠目に拝むに留めていた存在のアシュリーヌちゃんに認知されるのは、心臓に悪いだとか、もしここで虐めを止めたことにより歴史が歪んで、今後の展開が変わったらどうしようとか、そんな事を考えてた訳じゃなくてね!」

何やらフェリシアがブツブツと話しているが、視線に耐えかねて踵を返してしまった俺には聞き取れず。というか、あんな上目遣いで見られ続けて耐えられる訳がない。心臓に悪いわ。

「あ、待ってノア! これ! 一緒に渡したげて!」

フェリシアから渡されたのは、女生徒用のジャケットだった。

「これお前のか? いつの間に……」
「さっきノアが一生懸命アシュリーヌちゃん達の方を見ていた隙に」
「あの一瞬で寄宿舎まで行ったのかよ!? その脚力いつもの訓練で出せよな!?」
「あと諸事情で私の教科書はお貸しできないので、ノアの教科書を持ってきました」
「いやもうどっから突っ込むべきか分かんねーや」

そうこうしているうちに、いつの間にか貴族令嬢達は消えていて。俺は良い格好しつつも、半ばフェリシアに懇願される形でアシュリーヌにジャケットと教科書を貸したのだった。

「ーーそんな感じで、ただ初めて嫌がらせのフォローをしたのが俺達だっただけだ」
「は~なんだよ結局お咎め無しだったなら、俺も率先してアシュリーヌさんを助けてればよかった~~。そしたら彼女の隣には今頃俺が……」
「そういった不純な動機がある時点で、あいつは靡かないとは思うけどな」
「カーーッあいつだって! あいつだって!!」

ペッペッと唾を吐く素振りを見せながら、リヒトは昼食に頼んでいたオムライスを口内へ掻き込んだ。
まあこいつも男爵家の三男で、権力は然程強くはない。高位貴族からのしっぺ返しを恐れて、保身に走るのも無理もない。俺だってフェリシアがいなかったらそうしていただろう。

あれを機に、アシュリーヌは俺達と頻繁に行動を共にするようになった。未だに数々の虐めからの手助けを感謝されるが、俺には胸を張って彼女からの言葉を受け止める資格も、リヒトに白い目を向ける資格も無い。
結局の所俺も、ただ想い人に良いところを見せたくて彼女の意志を汲んだのだから。

その後、因果応報か、俺はアシュリーヌを助けたことによる手痛いしっぺ返しを喰らうことになる。
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