熱血隊長を雄にしてみせます!!

小村辰馬

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盗賊団の調査の任務から三週間が経過したが、私は未だ騎士団へ籍を置いていた。正直除籍されるのも覚悟のうえだったけれど、その後私の元へは何の辞令も届かず、平穏な毎日を過ごしている。
ただ一部を除いては。

「あ、ジーク隊長だ」

兵舎の廊下を同僚と歩いていると、正面からジーク隊長と数人の騎士の方がこちらへ向かって歩いて来るのが見えた。
あちらも私達に気付いたらしく、そこそこの距離の中視線がかち合う。そして、逸らされた。それはもうあからさまに、首が180度は回転したのではというほどに。

「た、隊長?!」
「き、急用を思い出した! 諸君は先に軍議室へと向かっていてくれっ!!」

踵を返すなりどたばたと嵐のように元来た方向へ駆けて行ってしまった隊長に、騎士達も同僚もポカンと呆けている。

「ねえ、隊長最近ずっとあんなだよね。やっぱりあんた達あの任務で何かあったんじゃ……」
「う~ん……」

ここの所ずっとこの調子で避けられている。これまた正直者な隊長は、私と遭遇する度これでもかという程に挙動不審になるものだから、いい加減同僚を誤魔化すのも厳しくなってきた。

あの気絶後、目覚めた時には体はいつの間にかすっかり綺麗にされており、隊長は何事も無かったかのように私に接してくれた……と言うのは、先程のように妙にぎこちない挙動不審な態度だったから語弊があるかもしれないけれど。行為に対して言及する事もなく、ただ淡々と任務を完了させて私達は兵舎へと帰還した。
それからと言うもの、隊長はずっとあの調子で私を見かけるなり脱兎の如く逃亡してしまうので、これはそう言う事なのだろうなと流石の私も察した。
そりゃそもそもが治療の一環で私に触れてくれたに過ぎないし、私と隊長は部下と上官の関係で、身分だってかけ離れているし。一夜の過ちとてしまうのが最善なのだ。
隊長の沽券に関わるだろうから、私は協力してくれた同僚にすら事の顛末を話さずにいた。覚悟のうえとは言え、しかしああも露骨に態度に出されると居た堪れなくもある。
これまであれだけ四六時中べったりだったのがこの有様だから、騎士団の中でも既にちょっとした噂になっているらしい。隊長が良い意味でも悪い意味でも有名人なのが仇になったな……。

数日後の出勤日の朝、私は自室で一枚の羊皮紙を見つめ、深呼吸をした。
気持ちは固まった。あとはこれを団長に渡せば全てが終わる。
宿舎の廊下を歩きながら、窓の外に広がる訓練場や見慣れた騎士団兵舎を眺める。色んなことがあったなぁ。応接室で血塗れの隊長と初めて出会って、頼んでもいないのに訓練場へしょっ中引き摺られて、そこら中で血を流しながらぶっ倒れている隊長を医務室へ連れて行って、二人っきりになれたと思っても常にお国や団長や陛下達の話ばかりで。
カラカラと気持ち良く笑う隊長の笑顔が脳裏に浮かぶ。
どうしようもなく色気の無い関係だったけれど、最後に思い出を作れてよかった。結果として隊長の気持ちも、知ることができたし。

ちょっぴり目頭が熱くなるのを無視しながら、私は兵舎へ通じる渡り廊下の角を曲がった。

「うおっっ?!」
「きゃっっ?!」

同じくこちらへ向かっていたらしい何者かと衝突し、私はその場に盛大に倒れ込んだ。

「いたたたた……」
「っ……すまん! 無事だろう……か」

目の前に大きな手が差し出されたので、有り難くそれを受け取る。そしてお互いの姿を視認して、同時に沈黙した。だってそこにいたのは、ここ数日脳内の大部分を占めていた想い人その人だったのだから。

「ジーク隊長……」
「……み、ミリアか! 久しいな! 始業時刻にはまだ早いかと思うが……」
「私はちょっと団長に用事が……隊長こそその格好、一体どうしたんです」

目の前に佇む隊長は普段の騎士団の制服でも鎧姿でもなく、要人との会合や謁見時、パーティ等有事の際にごく偶に着ているのを見かける美しく仕立てられた礼服だった。こんな時になんだがその姿はまるで物語の中の王子様のようで、思わず見惚れてしまった。

「お、オレはだな……ーーん? これはなんだ?」
「あっ! そ、それは……!」

何やら言い淀む隊長が私から視線を外すと、床に落ちた畳まれた羊皮紙を目に留めた。己の右手を確認し、先程の衝撃で落としてしまったことを悟る。

「『辞表』…………じひょう!?  だと!?!?」
「……」
「ミリア、辞表って、なっ、は、えっ!?」
「……隊長、私……」
「やはり孕んだのかッ?!」
「…………はいっ?!」

腹を括って自分の想いを吐露しようとしたら、予想外のことを言われて素っ頓狂な声をあげてしまった。

「ちがっ……ちがいます! 確かにちょっと不安でしたけど、きちんと月のものはきましたし、それが原因じゃ……ってなに言わせるんですかっ!」
「ち、違うのか!? あれだけその、してしまったから、オレはてっきり……では何が原因なんだっ!? 何か悩みがあるならオレが……」
「ご自覚無いんですか?」

急に慌てふためき出す隊長にちょっぴり苛ついてしまった私は、ジト目で彼を見つめた。
こういう鈍いところもまた好きだと思ってしまうのだから、本当に救いようがない。

「……いや、ある。無い訳がない。故に、オレは今日その話をお前にしにきたのだ」
「えっ」

隊長が用があったのは、私?
今度こそ隊長の手を握り、彼に支えられながら立ち上がる。そのまま手を握られたまま、頭一つ分以上は高い隊長の顔を見上げる。いつになく真剣な表情に、全身の血が一気に沸き立った。

「ミリア、オレと結婚してくれ」
「………………へっ!?」

いま、今何と?! けっ、けけけけっこんって聞こえたような……?
あまりにも突拍子も無い単語に隊長を仰ぎ見るも、彼も私と同様に耳まで紅潮させて、私の反応を凝視している。
こ、これは聞き間違いでも冗談でも、ない。

「ま、待ってください! それはいくらなんでもすっ飛ばし過ぎ、というか何でそんな急に」
「急などではないぞ! この数週間、決意してからというものずっと下準備を進めていたのだ! 父上達も説得済みだし、お前の故郷の家族へも挨拶は済ませてある!」
「いやそういう問題じゃなくて! 過程とかそういう……というか、もうそこまで話が進んでいるんですかっ?!」

色々とツッコミ所が満載で、頭が爆ぜてしまいそうだ。何でこの人はこうも、いつだって突拍子の無いことをしでかすのだろうか。
握られていない方の手で己の胸に手を当て、ゆっくりと深呼吸をする。

「あの、責任だとか、そういうことでしたら私、結局身重でも無いですし、隊長が我が身を犠牲にする必要は何も無いんですよ?」
「! む、無論、それもある。結果子はできていなかったが……部下であり恋仲でもない、その上薬で正気じゃないお前をあそこまで乱暴に抱いてしまい、我に返って騎士の風波にも置けぬことをしてしまったと頭を抱えた」
「そんな……! というか、あれはむしろ私の方が責任問題に問われるべきというか……」
「でも、それだけではない」

握られた手に力を込められて、また心臓が大きく脈打つ。
鋭くて力強い、大好きな隊長の金色の瞳が、今は見たこともないほど熱っぽく、甘い色をしていた。

「あの夜からお前の乱れた反応が、姿が、表情が、頭から離れんのだ。一等信頼できる、妹のような、愛い部下だと思っていた。そんなお前があんな風に快楽を求めて、まるで恋人と接するようにオレへ縋り付いてくる」

するりと、握っていた手を解かれたかと思うと今度は長い指を絡ませて、大きな手でまた私の手を逃すまいと力強く包み込んでくる。
今目の前にいるのは、本当にあのジーク隊長なのか……?
全身の血管が爆発しそうだ。最早沸騰してしまいそうなほどに私の顔面は今真っ赤になっていることだろう。

「乱れるお前を見る度に普段オレを支えてくれる姿がちらついて、それもまたどうしようもなく興奮を掻き立てた。それから事が終わった後、最初に思ったのがお前に嫌われたくないという事だったのだ」

一度視線を逸らし、また私を力強く見据えられる。気分はもう、肉食獣に捕食される草食動物のようだ。

「これまで通りオレの側でオレを支えてほしい。困ったように笑う、いつもの愛らしい笑顔を見せてほしい。でも、あの夜のような快楽に溺れる姿も見たい。そう思ったら、もう、居ても経ってもいられなかった」
「……やたら私を避けていたのは、何故なんですか」
「あ、あれは、その、お前の顔を見たらあの夜のことを思い出して、反応しそうになるからだ。……傷付けていたのなら謝る。すまない」

ほんとうにこの人は……
本来ならば呆れる所も愛しくて仕方がない。ずっと憧れてやまなかった愛する人からの信じられない言葉の数々に、最早にやけそうになるのを抑えられない。

「ジーク隊長」
「な、なんだ」
「私のこと、好きですか」
「! ……うむ。好きだ」

耳まで真っ赤になりながらも、流石は隊長。真っ直ぐ私の瞳を見据えて清々しいほど正直に答えてくれる。それが同僚間の親愛でも友愛でも無いことは、火を見るよりも明らかで。私は感慨深さにちょっと泣きそうになった。

「私も、隊長のことが好きです」
「!! そ、そうか!」
「もうずっとずっと前から隊長のことが大好きなんです」
「そうかそうかっ!」
「なので、これまで何度もアプローチを無視されて、実はちょっぴり、いやすごく傷付いてました」
「そ、そうだったのか……」

握られた隊長の手にもう片手を添え、ぎゅっと握りしめる。隊長の手があまりにも大き過ぎて、全然覆いきれないけれど。

「だからその分、これからはいっぱい愛を注いでほしいです。……今度はほんとに、赤ちゃん作りましょうね」

そうして私達は晴れて騎士団名物のおしどり夫婦となった訳だが、あの時の告白をこっそり聞いていた騎士達がいたらしい。
彼らがしっかりと噂を流してくれたお陰で、ジーク隊長の数々の噂に、夜の獣っぷりが追加された事は言うまでもない。

<END>
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