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Bar27本目:From the Past to the Future
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「高茶屋、もう風と話せる様になったんだな」
宿のお姉さんが紹介してくれた食堂で朝ご飯を食べながら、テーブルの向かいで美味しそうに食を進める七妃に声を掛けた。
この食堂は残念ながらモーニングサービスは無かったけど、朝定食が有って、パンとサラダとハムとドリンクのセットでお得に楽しめている。
ドリンク代だけの所謂モーニングが無いのは、小さい村だから他に競合店も無くてサービスで人を集める必要が無いからだろう。これはまあ仕方が無い。
食べ終わったら、仕事に出るのだろう。朝早くから、食堂は賑わっている。
「うん、本読んで、主役のミモリちゃんみたいにやってみたら出来たよ。あーしもって事は、善哉も?」
「昨日の、露天風呂に入ってる時にな」
だから、俺の方が早いと言えば早いんだけど、魔法の本を読み始めたのは俺の方が先だから、追い越された感は半端無い。
「へへっ、追い付いちゃった」
ただ、舌を出してこんなに可愛く言われると、悪態の一つさえも吐く気が失せてしまう。
「流石だな」
「ちょっ、どうしたの善哉っ! 熱でもあるのっ?!」
失礼な。俺がどう云う人間かは――。
「なんてね。善哉が優しい人だって事は、あーし、知ってるから」
――若しかして俺、心、読まれてる?
「ううん。『知ってる』って言うと、ちょっと違うかな。『ちゃんと覚えてる』からっ!」
「そうか、何か照れるな」
それは詰まり、中学の時に学校内での高茶屋七妃の立場を支えていた事。
別にあんな事、いつまでも覚えてなくても良いんだけどな。余りに余りで黙って見ていられなくて口を挟んでしまって、結果、乗り掛かった舟を最後まで降りずに遣り通しただけの事だし。
「善哉は照れ隠しに『黙って見ていられなくて』とか『乗り掛かった舟』とか言うんだろうけど、あーし、本当に感謝してるんだからねっ! アレが無かったら、高校で変わろうとも思わなかっただろうしっ」
……本当に心、読まれてない?
でも、そうか。そんなに感謝してくれているのなら、茶化すのは無しだな。
「あれは、あの時の高茶屋が素直に、俺が出した手を掴んでくれたから上手く行っただけだ。それに、高校に入って実際に変われたのは、高茶屋自身の力だからな。俺は全部、切っ掛けに過ぎないよ」
これは紛れも無い、俺の本心。
中学の時の高茶屋はその対処法が分からなかっただけで、高茶屋七妃は俺なんかよりよっぽど強いと、今でも確信している。
「んっ、ありがと、善哉。あーしら、本当はこの世界に来るずっと前から、力を合わせてたんだね」
この騒がしい食堂の中で、そう言って俺に笑顔を見せる七妃の周りだけ、静謐な空気に包まれている様で……。
――この際自分の中ではっきりとしておこう。
俺は、……高茶屋七妃が好きだ。
ただ、少なくとも魔王を倒すまでは、この気持ちを知られる訳にはいかない。
七妃に、楽しく旅をして貰う為に。
2人で、気兼ねなく旅を続ける為に。
「そうだな。……っと、ごちそうさま。高茶屋も早く食べないと、黒風が寂しがるんじゃないか?」
自分の皿を空にしてしまった俺は、七妃の意識を黒風に向けた。
黒風の事も有るけど、早く出れば、その分遠くまで進む事が出来る。当然の事だ。
「あー、そだねっ。急いで食べるから、待っててっ!」
「焦って、喉に詰まらせるなよ」
「そんなバカにしないでよっ。あーしだってねぇ、――うっ!」
「七妃っ?!」
「――なーんちゃってっ! あれれれれぇ? またあーしの事、名前で呼んだぁ? 善哉君?」
……また嵌められた。
「いや、焦った時は、どう考えても『高茶屋』より『七妃』の方が呼び易いだろ」
「良いよ」
「……え?」
「もういっそ、『七妃』で良いよって言ったのっ! 最近、少し慣れて来たし」
慣れて来たにしては頬が真っ赤だけど、大丈夫かな。
まあでも、本人が良いと言うのを無碍にするのもな。
「分かった。じゃあ今後は七妃って呼ばせて貰うよ」
緊急時以外は、俺の頬も染まるけど。
「じゃあ七妃も、俺の事を」
「善哉は善哉っ!」
「え、でも……」
「あーしはこっちの方が慣れてて呼び易いから良いのっ!」
本当はちゃんと名前で呼んで欲しくも有るけど、気軽に呼べると言われてしまうと『名前で呼んで』と云うのに意味が籠り過ぎてしまう。
……態とじゃあるまいな。
「じゃあ、それでいいや。七妃、黒風」
「あっ、そだねっ! 今度こそ急ぐっ!」
と云う事は、さっきは急いでなかったのか。
食堂を出て宿の部屋で荷物を取り、チェックアウト。
「お泊り頂き、有り難う御座いました。またお近くにお越しの際は、是非お立ち寄り下さい」
「うんっ! お風呂気持ち良かったし、また来るねっ!」
「でも混浴風呂にはお2人では入られなかったのですね。湯浴み着が1……」
「ありがとねっ! またっ!」
何故か知らないけど、七妃はお姉さんの話が終わらない内に俺の背中を押して宿を出た。
お姉さん、今何を言い掛けたんだ? 気になるけど、戻ろうにも七妃の力が強くて押されるがままだ。
……まあ、それは別に良い。それより黒風の方が気に掛かる。
昨夜乾草のお代わりは多めに入れておいた心算だけど、足りたかな。
「お待たせ、黒風ちゃんっ!」
七妃が呼び掛けると、黒風は嬉しそうに鼻を鳴らした。お前、昨夜はそんな顔しなかっただろうに。
黒風が七妃と戯れている間に餌箱を見ると少し残っていたので、元々そうだった様に箱を空にする為に乾草を回収して、荷台の奥に纏めて積んであるのとは別に、入り口脇に置いておいた。混ぜても良いかも知れないけど、気分的な問題。
「ねっ、善哉、地図見せてっ!」
「ああ」
バッグから地図を取り出し、七妃と一緒に覗き込む。……あと、黒風も一緒に。
「今日はどの辺りまで行けるかなっ?」
「昨日移動したのがこれ位だから――」
王都から今居る村までの距離を親指と人差し指で作り、そのまま移動する。
「――特に長時間の足止めを喰らう事が無ければ、ここまで行けるかな」
人差し指の先にあるのは、『リオレ』と云う少し大きめの街。乾草とか、ここで補充出来るかも知れない。
「んっ、そだね。今日の御者は交代でやってみる?」
「そうしてみるか」
順番に休憩を取って行くスタイルには早目に慣れておいた方が良いし、荷台で疲れを取る為に不足している物が分かれば、リオレで補充する事が出来る。
「ぢゃ、あーしが先に行くから、善哉は荷台で休んでてねっ!」
「頼んだぞ、黒風」
「ブルル」
身体を撫でながら言うと、黒風は鼻息で返事をしながら頷いた。うん、頼もしい。
「ちょっ、あーしはっ?!」
「悪い悪い、冗談だよ」
……冗談だから、そんなに悲しそうな顔をしないで欲しい。
「もう、善哉の意地悪っ! 善悪っ!!」
膨らませてる頬は可愛いけど、それは語呂が悪いな。善いのか悪いのかも分からなくなってるし。――と言うかそれならいっそ、『善悪』の方が良いのでは。掛かってはいないけど。
「ちょっ、それはやめてくれ」
「ぢゃ、あーしに言う事は?」
「頼りにしてるぞ、七妃」
「……や、そんな直球は、照れる……」
……それはこっちだって……。
ブインブインと風を切る音が聞こえたかと思ったら、黒風が頭を何度も横に振っていた。
「ごめんごめん、黒風ちゃん。さっ行こっかっ!」
七妃が杭に止めていた手綱を外してそのまま颯爽と御者台に乗ったので、慌てて俺も荷台に乗り込む。
「ぢゃあ行くよ、善哉、黒風ちゃんっ!」
「おうっ!」
「ブヒヒッ!」
そうして俺達は、北に向かう旅を再開した。
宿のお姉さんが紹介してくれた食堂で朝ご飯を食べながら、テーブルの向かいで美味しそうに食を進める七妃に声を掛けた。
この食堂は残念ながらモーニングサービスは無かったけど、朝定食が有って、パンとサラダとハムとドリンクのセットでお得に楽しめている。
ドリンク代だけの所謂モーニングが無いのは、小さい村だから他に競合店も無くてサービスで人を集める必要が無いからだろう。これはまあ仕方が無い。
食べ終わったら、仕事に出るのだろう。朝早くから、食堂は賑わっている。
「うん、本読んで、主役のミモリちゃんみたいにやってみたら出来たよ。あーしもって事は、善哉も?」
「昨日の、露天風呂に入ってる時にな」
だから、俺の方が早いと言えば早いんだけど、魔法の本を読み始めたのは俺の方が先だから、追い越された感は半端無い。
「へへっ、追い付いちゃった」
ただ、舌を出してこんなに可愛く言われると、悪態の一つさえも吐く気が失せてしまう。
「流石だな」
「ちょっ、どうしたの善哉っ! 熱でもあるのっ?!」
失礼な。俺がどう云う人間かは――。
「なんてね。善哉が優しい人だって事は、あーし、知ってるから」
――若しかして俺、心、読まれてる?
「ううん。『知ってる』って言うと、ちょっと違うかな。『ちゃんと覚えてる』からっ!」
「そうか、何か照れるな」
それは詰まり、中学の時に学校内での高茶屋七妃の立場を支えていた事。
別にあんな事、いつまでも覚えてなくても良いんだけどな。余りに余りで黙って見ていられなくて口を挟んでしまって、結果、乗り掛かった舟を最後まで降りずに遣り通しただけの事だし。
「善哉は照れ隠しに『黙って見ていられなくて』とか『乗り掛かった舟』とか言うんだろうけど、あーし、本当に感謝してるんだからねっ! アレが無かったら、高校で変わろうとも思わなかっただろうしっ」
……本当に心、読まれてない?
でも、そうか。そんなに感謝してくれているのなら、茶化すのは無しだな。
「あれは、あの時の高茶屋が素直に、俺が出した手を掴んでくれたから上手く行っただけだ。それに、高校に入って実際に変われたのは、高茶屋自身の力だからな。俺は全部、切っ掛けに過ぎないよ」
これは紛れも無い、俺の本心。
中学の時の高茶屋はその対処法が分からなかっただけで、高茶屋七妃は俺なんかよりよっぽど強いと、今でも確信している。
「んっ、ありがと、善哉。あーしら、本当はこの世界に来るずっと前から、力を合わせてたんだね」
この騒がしい食堂の中で、そう言って俺に笑顔を見せる七妃の周りだけ、静謐な空気に包まれている様で……。
――この際自分の中ではっきりとしておこう。
俺は、……高茶屋七妃が好きだ。
ただ、少なくとも魔王を倒すまでは、この気持ちを知られる訳にはいかない。
七妃に、楽しく旅をして貰う為に。
2人で、気兼ねなく旅を続ける為に。
「そうだな。……っと、ごちそうさま。高茶屋も早く食べないと、黒風が寂しがるんじゃないか?」
自分の皿を空にしてしまった俺は、七妃の意識を黒風に向けた。
黒風の事も有るけど、早く出れば、その分遠くまで進む事が出来る。当然の事だ。
「あー、そだねっ。急いで食べるから、待っててっ!」
「焦って、喉に詰まらせるなよ」
「そんなバカにしないでよっ。あーしだってねぇ、――うっ!」
「七妃っ?!」
「――なーんちゃってっ! あれれれれぇ? またあーしの事、名前で呼んだぁ? 善哉君?」
……また嵌められた。
「いや、焦った時は、どう考えても『高茶屋』より『七妃』の方が呼び易いだろ」
「良いよ」
「……え?」
「もういっそ、『七妃』で良いよって言ったのっ! 最近、少し慣れて来たし」
慣れて来たにしては頬が真っ赤だけど、大丈夫かな。
まあでも、本人が良いと言うのを無碍にするのもな。
「分かった。じゃあ今後は七妃って呼ばせて貰うよ」
緊急時以外は、俺の頬も染まるけど。
「じゃあ七妃も、俺の事を」
「善哉は善哉っ!」
「え、でも……」
「あーしはこっちの方が慣れてて呼び易いから良いのっ!」
本当はちゃんと名前で呼んで欲しくも有るけど、気軽に呼べると言われてしまうと『名前で呼んで』と云うのに意味が籠り過ぎてしまう。
……態とじゃあるまいな。
「じゃあ、それでいいや。七妃、黒風」
「あっ、そだねっ! 今度こそ急ぐっ!」
と云う事は、さっきは急いでなかったのか。
食堂を出て宿の部屋で荷物を取り、チェックアウト。
「お泊り頂き、有り難う御座いました。またお近くにお越しの際は、是非お立ち寄り下さい」
「うんっ! お風呂気持ち良かったし、また来るねっ!」
「でも混浴風呂にはお2人では入られなかったのですね。湯浴み着が1……」
「ありがとねっ! またっ!」
何故か知らないけど、七妃はお姉さんの話が終わらない内に俺の背中を押して宿を出た。
お姉さん、今何を言い掛けたんだ? 気になるけど、戻ろうにも七妃の力が強くて押されるがままだ。
……まあ、それは別に良い。それより黒風の方が気に掛かる。
昨夜乾草のお代わりは多めに入れておいた心算だけど、足りたかな。
「お待たせ、黒風ちゃんっ!」
七妃が呼び掛けると、黒風は嬉しそうに鼻を鳴らした。お前、昨夜はそんな顔しなかっただろうに。
黒風が七妃と戯れている間に餌箱を見ると少し残っていたので、元々そうだった様に箱を空にする為に乾草を回収して、荷台の奥に纏めて積んであるのとは別に、入り口脇に置いておいた。混ぜても良いかも知れないけど、気分的な問題。
「ねっ、善哉、地図見せてっ!」
「ああ」
バッグから地図を取り出し、七妃と一緒に覗き込む。……あと、黒風も一緒に。
「今日はどの辺りまで行けるかなっ?」
「昨日移動したのがこれ位だから――」
王都から今居る村までの距離を親指と人差し指で作り、そのまま移動する。
「――特に長時間の足止めを喰らう事が無ければ、ここまで行けるかな」
人差し指の先にあるのは、『リオレ』と云う少し大きめの街。乾草とか、ここで補充出来るかも知れない。
「んっ、そだね。今日の御者は交代でやってみる?」
「そうしてみるか」
順番に休憩を取って行くスタイルには早目に慣れておいた方が良いし、荷台で疲れを取る為に不足している物が分かれば、リオレで補充する事が出来る。
「ぢゃ、あーしが先に行くから、善哉は荷台で休んでてねっ!」
「頼んだぞ、黒風」
「ブルル」
身体を撫でながら言うと、黒風は鼻息で返事をしながら頷いた。うん、頼もしい。
「ちょっ、あーしはっ?!」
「悪い悪い、冗談だよ」
……冗談だから、そんなに悲しそうな顔をしないで欲しい。
「もう、善哉の意地悪っ! 善悪っ!!」
膨らませてる頬は可愛いけど、それは語呂が悪いな。善いのか悪いのかも分からなくなってるし。――と言うかそれならいっそ、『善悪』の方が良いのでは。掛かってはいないけど。
「ちょっ、それはやめてくれ」
「ぢゃ、あーしに言う事は?」
「頼りにしてるぞ、七妃」
「……や、そんな直球は、照れる……」
……それはこっちだって……。
ブインブインと風を切る音が聞こえたかと思ったら、黒風が頭を何度も横に振っていた。
「ごめんごめん、黒風ちゃん。さっ行こっかっ!」
七妃が杭に止めていた手綱を外してそのまま颯爽と御者台に乗ったので、慌てて俺も荷台に乗り込む。
「ぢゃあ行くよ、善哉、黒風ちゃんっ!」
「おうっ!」
「ブヒヒッ!」
そうして俺達は、北に向かう旅を再開した。
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