転移した世界で魔王を倒せって言われたから、あずきのアイスで無双します。

春似光

文字の大きさ
32 / 37

Bar32本目:港町ルダオ

しおりを挟む
 その後も立ち塞がる魔物を倒しながら、やっとの事で道中の最後の集落であるルダオの港町に着いた。

「あーっ! やっと着いたーっ! 何か、魔物が襲ってくる回数が増えて大変だったねっ!
 入り口で馬車を止め、風を浴びながら、七妃が大きく伸びをした。
「それだけ、魔王に近付いているって事だろうな。この街はよく無事でいられたな」
 魔物が小動物レベルだった頃なら兎も角、ヒト型が群れになって押し寄せたら、合戦の様相を呈して、城壁都市とは言え只ではいられなさそうな気もするが。
「ねっ、街の壁の周りを見て。間隔を空けてお城の兵隊さんが見張ってるみたいだよ。それにほら、所々に背の高い櫓が有るから、空からの侵入も防げそう」
 言われてみると、ウルクでのお触れの時に見た城の衛兵と同じ装備をしている人達が何人も等間隔に立ち、平原に睨みを利かせている。
 更に七妃の言う通り、城壁の上に更に櫓が幾つか有り、そこにも人の影が見える。
「成る程。只やられる訳では無く、対応はして来ているんだな」
「やあ、君達はウルク王の呼び掛けに答えて魔王を倒しに来てくれたのかい?」
 2人で感心していると、壁の内側に向かう扉の脇の小屋から出て来た1人の兵士が声を掛けて来た。
「あ、はい、そうですっ! こいつが勇者ゼンザイですっ!」
「だから違うだろっ。そもそも、未だ倒してないんだから勇者でも無いし」
「ははは。仲が良いんだね。君達はもしかして恋人同士でパーティを組んだのかい? それとも、ご夫婦?」
「「違います!」」
 不意に揶揄われて、声が揃う。これはあれだな、否定しながらも確信を持たせてしまうやつ。
「あー、申し訳無い。ずっと見張りをしていると、普通の会話が楽しくてね」
「まあ、良いですけど」
「マオーって、ここから海を渡った先に居るんですよね? どうやったら行けますか?」
 そう言いながらも満更でも無い俺の横で、七妃は兵士に平然とした顔で訊ねた。……何か悔しい。
「王都で、地図は受け取ったかな?」
「はいっ! 確か今は善哉ぜんざいが持ってるよね?」
「ああ、バッグは未だ荷台に置いてあるけど、その中に有るよ」
「ちゃんと持ってるんだね。王の呼び掛けに答えた者の証としてのその地図を持っている人達専用の船が有るから、それで海を越えてくれ」
 ……あの地図には、そんな意図も有ったのか。
 ウルクと魔王の居場所の間の簡単な地図でしか無くて他に用途は無いから、そう考えると納得だな。
 途中で地図を無くす場合なんかも考えられるけど、そう云った人達には魔王は倒せないと判断されるのかな。
「馬車は、ここに置いてくしか無いんですか?」
「いや、海岸の方まで行くと馬車用の道が用意してあるから、必要なら乗船前にそっちから回れば良いよ。繋ぐ所は正面のここにしかないんだけどね。面倒だけど、街の安全の為だから許して欲しい」
「許すも何も。皆さんのお陰で街の人が平和に暮らせるんだからっ! 毎日、ご苦労様です!」
 七妃が笑顔で敬礼をする。……この兵士、今、涙が出てなかったか?
「ふ、船の出航はある程度人数が集まってからだからな。今日はまだ出せそうに無いから、宿でも取って休むが良い。私は、仕事に戻るっ!」
「はーい、色々有難う御座いましたっ! 町の平和も大事ですけど、無理しないで下さいねっ!」
「……分かった。街への扉は開けておくから、馬車を繋いだらその儘入ると良い。宿は、通りを真っ直ぐに言った右側に在るから」
 それだけ言い残して、親切な兵士は小屋の中へと戻って行った。
 王都とは頻繁に行き来出来る距離でも無いし、この街に常駐している人員だけで回しているのだろうか。
 そうだとしたら、頭が下がる思いだ。

「じゃあ黒風、またな」
「ブルルルル」
 荷台からバッグを取り出し、静かに餌箱の飼葉を食べ始めた黒風に言い残して、七妃と2人、街に入った。
 壁をくぐると、一気に港町らしく潮風がその香りを主張し始めた。
「んー、気持ち良いねっ!」
「ああ。この世界に来る前もここ何年かは海に行けて無かったし」
「ねー、あーしもだよー。高1の夏も皆ではプールにしか行かなかったしっ」
 これは友達の有無に関わらず、俺達が住んでいた所からは泳げる様な海に行くまでに時間と交通費が結構掛かると云う事情が有ったからだ。それならばと、ついつい地元のプールで何度も遊ぶ方を選んでしまう。
「全部終わったら、海で思いっ切り遊ぼうな。……そう言えば、この世界の水着ってどんなのだろうな。なあ、七妃――」
「ちょっ、そんな目で見るなしっ! へんざいっ!」
 うわっ、また出たよ『へんざい』。
 俺としては普通に話を振っただけなんだけど、七妃なりの苦労も有ったんだろうか。
 ……いや、な、中学の時に。
「悪い、そんな心算じゃ無かったんだけど配慮が足りなかったな。後で俺一人で見に行ってみるわ」
「……あーしも行く」
「え?」
「……可愛い水着が有ったら、それが楽しみになって、マオーを倒すのにも気合が入りそうだし……」
 渋々と云った感じで、七妃は俺に同行を告げた。今の七妃が何を思っているのかは俺には分からないが、言っている事には間違いは無い。後に楽しみが待っている程、障害を乗り越えるのに気合が入ると云う物だ。
「うん。じゃあ、一緒に行こうな」
 七妃はコクリとゆっくり頷いた。

 宿の部屋で、先ずは一休み。
 七妃は窓側のベッドに腰掛けて、本を読んでいる。今読んでいるのは、確かガクルで買った物だ。殆どは荷台に置いた儘だけど、この道中、手持ちの書籍も多くなった。
(風さん、居るか)
 そんな七妃の背中から目を逸らした俺は、風に呼び掛ける。
『勿論だよ、ヨシヤ君。居なかったら、君達は生きて行けないでしょ?』
(間違い無いな)
 正論だ。風が居なければ、そこは人の生存を拒む真空の空間だ。
 ――けど、そんな事を話したくて呼び掛けた訳じゃ無い。
(前に言っていた様に、コンタクトを取りたいんだけど良いか?)
『うん、前も言ったけど、相手が僕と話せる人ならね。誰と取りたいの?』
(えっと、ヴィヴィさんかな)
『分かった。……えっと、ここよりも外の方が力が少なくて済むけど』
 風がいよいよ電波の様な事を言い出した。
 風が籠る室内より、風通しの良い処の方が風を使うのに力が少なくて済むと云うのは、確かにそうなのかとも思う。どうやら、この使い方の時は、俺と話している風が相手の所にひょっこりと現れると云う訳でも無さそうだ。
 ただ電波と違うのは、聞き取り難いと云う事は無くてその代わりに力が多く必要だと云う事だろう。
「七妃、ちょっとだけ外に行って来る。すぐ戻るから」
「分かった。戻って来たら、ご飯行こうね」
 おや、と思った。てっきり、『りっ!』とでも来ると思ったのに。
「ああ、そうしよう」
 相槌を返して、部屋を出た。

 宿の外壁そとかべに凭れて、再び風に呼び掛ける。
『ここなら良いね。何て伝えれば良い?』
(俺達は港町のルダオに着きました、ヴィヴィさん達は何処ですか、かな)
『うん、分かった。伝えるね』
 ……今自分で言って気付いたけど、居場所の確認位なら風に相手の許可を取って貰って風に訊くのでも良いのか。
『ヨシヤ君、ヴィヴィちゃん達は明後日にでも着くって。アルーズ君達も一緒だよ』
(成る程)
 俺達も結構のんびり来た様な気はするが、乗合馬車や路線馬車を使うと、時間の制約がある分だけ多めに掛かっているのかも知れない。
(じゃあ序に、人数がある程度揃わないと船が出ない様なので待っています、急ぐ必要は無いので安全第一で来て下さい、とも伝えてくれるか?)
『分かった!』
 これだと留守番電話サービスか、はたまたラインか。風の応対を省いて相手に話し掛ける様にすれば電話の様な双方向性の形になるけど、風と話すのも嫌いじゃ無いからこの儘で良い。
『伝えておいたよ! 頷いてた!』
 既読スルーかな。……いや、スタンプか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された『ただの浄化係』、実は国中の魔石を満たしていた精霊姫でした〜今さら戻れと言われても、隣国のイケメン皇帝が離してくれません〜

ハリネズミの肉球
ファンタジー
「おい、城の噴水が止まったぞ!?」 「街の井戸も空っぽです!」 無能な王太子による身勝手な婚約破棄。 そして不毛の砂漠が広がる隣国への追放。だが、愚かな奴らは知らなかった。主人公・ルリアが国境を越えた瞬間、祖国中の「水の魔石」がただの石ころに変わることを! ルリアは、触れるだけで無尽蔵に水魔力を作り出す『水精霊の愛し子』。 追放先の干ばつに苦しむ隣国で、彼女がその力を使えば……不毛の土地が瞬く間に黄金のオアシスへ大進化!? 優しいイケメン皇帝に溺愛されながら、ルリアは隣国を世界一の繁栄国家へと導いていく。 一方、水が完全に枯渇し大パニックに陥る祖国。 「ルリアを連れ戻せ!」と焦る王太子に待っていたのは、かつて見下していた隣国からの圧倒的な経済・水源制裁だった——! 今、最高にスカッとする大逆転劇が幕を開ける! ※本作品は、人工知能の生成する文章の力をお借りしつつも、最終的な仕上げにあたっては著者自身の手により丁寧な加筆・修正を施した作品です。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。 敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。 この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。 「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」 無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。 正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

処理中です...