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Bar33本目:港町ルダオ(2)
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「七妃、お待たせ。準備出来たらお昼食べに行こうか」
「お帰り善哉っ! あーしはいつでも大丈夫だよっ!」
風の力を使ったヴィヴィさんとの交信を終えて部屋に戻ると、何故かは知らないけどご機嫌になっている七妃が俺を出迎えた。この短時間に、何が有ったと言うのか。
「さっきはゴメンねっ。ちょっと過敏になっちゃった」
そう言って、頭を掻きながらアハハと笑う。
「善哉が、……あの善哉君が私をそんな目で見るなんて事は無い筈なのにね」
心からの信頼が痛い。俺だって中学の時よりも多分に年頃の男で、好きな七妃にそのような邪心を抱かないかと言えば、答えは圧倒的に否。
ある部分は意識して見ない様にしているだけで。
「ごめんね、善哉とは変な空気になりたくないのに」
俺だって、そんなのは御免だ。
「でも、別に無理して明るく振舞おうとしなくても良いんだぞ? 自然にしてくれるのが一番だ」
「ううん、無理はしてないよっ! もうあの時の皆に会う事も無いし、当時のあーしを知っているのも善哉だけだしね。開き直ったのっ!」
「そうか、なら良いんだ」
全く裏は感じさせない笑顔を、七妃は俺に向けた。
これがホラージャンルの俺を主役とした話だったら、『後は、善哉さえ居なくなれば……』ってその笑顔が歪む処なんだろうけど、そんな事にはならない。
その時はもしかしたら、俺が被害妄想に駆られているのかも知れないな。
「んー、このお魚、口の中でとろける~っ」
宿の人に聞いたおすすめの食堂。
人気のメニューは港町らしく海鮮丼だったので2人で注文し、七妃は一口食べるなり、その綺麗な顔を口の中の魚張りに蕩けさせた。
俺も箸でご飯の上の刺身を口に放り込む。成る程、これは良い物だ。
ただ、メニューに書いてあった魚の種類が俺達の知っている鮪や鮭や鯖やとなっていたけど、店内の生簀に居る魚はどう見てもそれらとは顔が違う。
ちゃんとこの世界の言葉を覚えて現地語で何と言うのかを見るのも、魔王を倒した後の楽しみの1つになりそうだ。
俺も七妃も、丼を持ち上げて一気に掻き込む。余りの美味しさに、勿体無いなんて思ってゆっくり味わって食べる方が勿体無いと思えた。
「ふー、美味しかったっ。ごちそうさまでしたっ!」
「ご馳走様」
2人揃って空になった丼をテーブルに置いて、手を合わせた。
「ところでさ、善哉」
「ん? 何?」
湯呑のお茶で一息吐いた七妃が、穏やかな表情で話を切り出した。
「さっき、あーしが部屋で本を読んでた時、独りで何してたの? 本当に全然時間が掛かってなかったけど」
その全然掛かってない時間の中で、七妃は気持ちを切り替えていたけどな。俺としてはその方が吃驚した。
「ああ、風の力を使って、ヴィヴィさんと連絡取ってたんだ。明後日には着くらしいよ」
「へえ、あーし達の方が先に着いたんだね。……って、風ちゃん、そんな事も出来んのっ?! あーし、聞いてないよっ?!」
「これに関しては、電話みたいな遣り取りが出来ないかと思って俺から訊いたからな。実際は相手の許可が必要で間に風が入って伝えてくれるから、メッセージアプリみたいな感じだけど」
「はぁー、なるほど……」
簡単に説明すると、七妃は感嘆の声を上げた。
そして暫く虚空を見上げた儘、僅かに口を動かし続ける。……あ、これ、試してるな。
「――本当だ! 善哉、よくこれに気付いたね! 凄い凄い!」
暫く経ってから、七妃は身を乗り出して俺を賞賛した。
……やっぱり試してたか。
「さっき俺が連絡を取ったばかりだし、余り連絡をしても向こうに迷惑だろ」
「んーん? 今は移動中だからって、楽しくお話ししたよ」
「そうか」
……俺とは、事務的な連絡だけだったのに。
「明後日ヴィヴィさん達が着いたら、そのまま出航なのかな?」
「どうかな。飽く迄もヴィヴィさん達や出港の手続き次第だけど、少し休んで欲しい気もする」
「ねー。到着次第とか、大変だよね。改めての準備とかも有るだろうし」
何の気無く店の入り口に目を遣ると、今更ながら席が空くのを待っている客が居る事に気付いた。
いつのまにやらそんなに混んでいたのか。
「そろそろ水着でも見に行くか?」
「うん、行くっ!」
食堂を出て、見掛けていた水着を売っている店に行く。
店内を見てみると他の衣料品は売っておらず、水着に特化した店だった。砂浜海岸を擁する港町だからだろうか。
さて、肝心の水着を見た七妃のテンションだが……。
「……可愛くない……」
さっきまでの盛り上がりが嘘の様にダダ下がっていた。
いや、男の俺でもこれは無いと思う。
男の水着と言えば、普通にブーメランやショーパンなんかのイメージだったが、店内に飾られている水着は男女問わず、袖付きの全身を包むタイプだったからだ。何なら足首や手首まで生地がある分、普段着よりも露出は少ない。
ヴァリエーションの1つとしてこのタイプが有るのなら別に批判はしないし他のタイプを選ぶだけなのだけど、これしか無いのはどうなのかと思う。この世界に、少なくとも形而上の神を崇めるタイプ宗教は存在しない様だし『肌を出すべからず』の様な教義による物でも無いだろう。
若しかしたら、俺達が知らないだけで王による勅令でも有るのだろうか。
……と、これで魔王退治後へのモチベーションが下がってしまうのは困る。
「他の人に確認してみてさ、水着に規定が無い様だったら作り直せば良いよ、七妃に似合うやつ」
「……うん、そうしよ、あーしに似合うやつ……」
提案してみるが、七妃のテンションは死んだ儘だ。
「俺も今更こんなのを着て泳げる気がしないし、問題が無い様だったら改造するからさ、一緒に水着のトレンド作ろうぜ!」
「善哉もっ?! うんっ、作ろうぜっ!」
何故か急にテンションが復活した七妃であった。
//////
ヴィヴィさん達は当初話していた通り、その2日後にルダオの港町に到着した。
「お待たせ。実際に会うのは久し振りね」
出迎えた俺達にヴィヴィさんが言った。七妃がハグしに言ったのを、優しく受け止めて。
「私達2組が着いてあなた達を入れて3組になったから門兵さんが確認をしてくれたけど、船は明日の朝に出してくれるそうよ」
「そうですか」
ヴィヴィさんの報告に、足が震え出す。
これが武者震いってやつか。
「どうした兄ちゃん、怖くて震えてるのか?」
以前乗合馬車で一緒に戦った、スキンヘッドのお兄さんが声を掛けて来た。
あの時は暗がりで良く分からなかったけど、立派な髭には白髪が混じっているし、それなりに年が行っていそうな気もする。
「恐怖じゃ無いです。武者震いです」
言ってから気付いたけど、この世界に『武者』なんて言葉は有るんだろうか。どう考えても日本発信の言葉だし。
「そうかそうか。俺も魔王との決戦が楽しみで、この手が唸ってやがるよ」
豪快に笑うスキンヘッドのお兄さん、グァルドさん。
話は通じているし、察するに、この世界での似た言葉に翻訳されていると云う事だろう。
「皆で力を合わせて頑張ろうぜ!」
俺達の様子を見守っていたアルーズさんも、力強い言葉をくれた。
――いよいよだ。
船で海を渡っていよいよ、魔王と対峙する時。
負ける訳にはいかない。この世界の人々の笑顔を守る為、……何より、七妃の笑顔を守る為に――。
……そう言えば、前に考えていた『異世界からの転移者を集める』と云うのは、例え風を使った交信に応えてくれたとしても、船に乗るのには王の勅命を受けた証の地図が必要だから、今回は無理そうだな。
「お帰り善哉っ! あーしはいつでも大丈夫だよっ!」
風の力を使ったヴィヴィさんとの交信を終えて部屋に戻ると、何故かは知らないけどご機嫌になっている七妃が俺を出迎えた。この短時間に、何が有ったと言うのか。
「さっきはゴメンねっ。ちょっと過敏になっちゃった」
そう言って、頭を掻きながらアハハと笑う。
「善哉が、……あの善哉君が私をそんな目で見るなんて事は無い筈なのにね」
心からの信頼が痛い。俺だって中学の時よりも多分に年頃の男で、好きな七妃にそのような邪心を抱かないかと言えば、答えは圧倒的に否。
ある部分は意識して見ない様にしているだけで。
「ごめんね、善哉とは変な空気になりたくないのに」
俺だって、そんなのは御免だ。
「でも、別に無理して明るく振舞おうとしなくても良いんだぞ? 自然にしてくれるのが一番だ」
「ううん、無理はしてないよっ! もうあの時の皆に会う事も無いし、当時のあーしを知っているのも善哉だけだしね。開き直ったのっ!」
「そうか、なら良いんだ」
全く裏は感じさせない笑顔を、七妃は俺に向けた。
これがホラージャンルの俺を主役とした話だったら、『後は、善哉さえ居なくなれば……』ってその笑顔が歪む処なんだろうけど、そんな事にはならない。
その時はもしかしたら、俺が被害妄想に駆られているのかも知れないな。
「んー、このお魚、口の中でとろける~っ」
宿の人に聞いたおすすめの食堂。
人気のメニューは港町らしく海鮮丼だったので2人で注文し、七妃は一口食べるなり、その綺麗な顔を口の中の魚張りに蕩けさせた。
俺も箸でご飯の上の刺身を口に放り込む。成る程、これは良い物だ。
ただ、メニューに書いてあった魚の種類が俺達の知っている鮪や鮭や鯖やとなっていたけど、店内の生簀に居る魚はどう見てもそれらとは顔が違う。
ちゃんとこの世界の言葉を覚えて現地語で何と言うのかを見るのも、魔王を倒した後の楽しみの1つになりそうだ。
俺も七妃も、丼を持ち上げて一気に掻き込む。余りの美味しさに、勿体無いなんて思ってゆっくり味わって食べる方が勿体無いと思えた。
「ふー、美味しかったっ。ごちそうさまでしたっ!」
「ご馳走様」
2人揃って空になった丼をテーブルに置いて、手を合わせた。
「ところでさ、善哉」
「ん? 何?」
湯呑のお茶で一息吐いた七妃が、穏やかな表情で話を切り出した。
「さっき、あーしが部屋で本を読んでた時、独りで何してたの? 本当に全然時間が掛かってなかったけど」
その全然掛かってない時間の中で、七妃は気持ちを切り替えていたけどな。俺としてはその方が吃驚した。
「ああ、風の力を使って、ヴィヴィさんと連絡取ってたんだ。明後日には着くらしいよ」
「へえ、あーし達の方が先に着いたんだね。……って、風ちゃん、そんな事も出来んのっ?! あーし、聞いてないよっ?!」
「これに関しては、電話みたいな遣り取りが出来ないかと思って俺から訊いたからな。実際は相手の許可が必要で間に風が入って伝えてくれるから、メッセージアプリみたいな感じだけど」
「はぁー、なるほど……」
簡単に説明すると、七妃は感嘆の声を上げた。
そして暫く虚空を見上げた儘、僅かに口を動かし続ける。……あ、これ、試してるな。
「――本当だ! 善哉、よくこれに気付いたね! 凄い凄い!」
暫く経ってから、七妃は身を乗り出して俺を賞賛した。
……やっぱり試してたか。
「さっき俺が連絡を取ったばかりだし、余り連絡をしても向こうに迷惑だろ」
「んーん? 今は移動中だからって、楽しくお話ししたよ」
「そうか」
……俺とは、事務的な連絡だけだったのに。
「明後日ヴィヴィさん達が着いたら、そのまま出航なのかな?」
「どうかな。飽く迄もヴィヴィさん達や出港の手続き次第だけど、少し休んで欲しい気もする」
「ねー。到着次第とか、大変だよね。改めての準備とかも有るだろうし」
何の気無く店の入り口に目を遣ると、今更ながら席が空くのを待っている客が居る事に気付いた。
いつのまにやらそんなに混んでいたのか。
「そろそろ水着でも見に行くか?」
「うん、行くっ!」
食堂を出て、見掛けていた水着を売っている店に行く。
店内を見てみると他の衣料品は売っておらず、水着に特化した店だった。砂浜海岸を擁する港町だからだろうか。
さて、肝心の水着を見た七妃のテンションだが……。
「……可愛くない……」
さっきまでの盛り上がりが嘘の様にダダ下がっていた。
いや、男の俺でもこれは無いと思う。
男の水着と言えば、普通にブーメランやショーパンなんかのイメージだったが、店内に飾られている水着は男女問わず、袖付きの全身を包むタイプだったからだ。何なら足首や手首まで生地がある分、普段着よりも露出は少ない。
ヴァリエーションの1つとしてこのタイプが有るのなら別に批判はしないし他のタイプを選ぶだけなのだけど、これしか無いのはどうなのかと思う。この世界に、少なくとも形而上の神を崇めるタイプ宗教は存在しない様だし『肌を出すべからず』の様な教義による物でも無いだろう。
若しかしたら、俺達が知らないだけで王による勅令でも有るのだろうか。
……と、これで魔王退治後へのモチベーションが下がってしまうのは困る。
「他の人に確認してみてさ、水着に規定が無い様だったら作り直せば良いよ、七妃に似合うやつ」
「……うん、そうしよ、あーしに似合うやつ……」
提案してみるが、七妃のテンションは死んだ儘だ。
「俺も今更こんなのを着て泳げる気がしないし、問題が無い様だったら改造するからさ、一緒に水着のトレンド作ろうぜ!」
「善哉もっ?! うんっ、作ろうぜっ!」
何故か急にテンションが復活した七妃であった。
//////
ヴィヴィさん達は当初話していた通り、その2日後にルダオの港町に到着した。
「お待たせ。実際に会うのは久し振りね」
出迎えた俺達にヴィヴィさんが言った。七妃がハグしに言ったのを、優しく受け止めて。
「私達2組が着いてあなた達を入れて3組になったから門兵さんが確認をしてくれたけど、船は明日の朝に出してくれるそうよ」
「そうですか」
ヴィヴィさんの報告に、足が震え出す。
これが武者震いってやつか。
「どうした兄ちゃん、怖くて震えてるのか?」
以前乗合馬車で一緒に戦った、スキンヘッドのお兄さんが声を掛けて来た。
あの時は暗がりで良く分からなかったけど、立派な髭には白髪が混じっているし、それなりに年が行っていそうな気もする。
「恐怖じゃ無いです。武者震いです」
言ってから気付いたけど、この世界に『武者』なんて言葉は有るんだろうか。どう考えても日本発信の言葉だし。
「そうかそうか。俺も魔王との決戦が楽しみで、この手が唸ってやがるよ」
豪快に笑うスキンヘッドのお兄さん、グァルドさん。
話は通じているし、察するに、この世界での似た言葉に翻訳されていると云う事だろう。
「皆で力を合わせて頑張ろうぜ!」
俺達の様子を見守っていたアルーズさんも、力強い言葉をくれた。
――いよいよだ。
船で海を渡っていよいよ、魔王と対峙する時。
負ける訳にはいかない。この世界の人々の笑顔を守る為、……何より、七妃の笑顔を守る為に――。
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