枝垂れ桜

あくび

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鬼になった仁は綺麗だった。
角は1本生えて、身体に唐草模様の様な刺青が現れる。目は興奮からか赤くなり、水色だった髪の毛は赤く染まる。
逸物は天に向かってそそり立ち、由花をふやかす手や唇は優しくて甘く、時折獣の様に「グルル...」と喉を鳴らす。
仁はノックアウトだった。由花の身体は良すぎた。何度も何度も由花の体の中で放出した。由花の中は何かが絡みつく様な吸い付く様な感じで仕切りに射精を促すかの様に収縮を繰り返し、丁度雁首に当たる所はざらついて壁は柔らかく、とにかく最高だった。
初めてが空也だったかと思うと腹立たしく、空也に嫉妬してその度に由花に噛み付き 由花の身体は噛み跡だらけになり青く内出血している。
これを知っている空也は さぞかし手放した事を後悔しているだろうと仁は思った。
現に 由花を返す様に何度も空也から要請が来ていた。
手放せる訳がない...しかし由花は元の世界に戻りたがっている。
どうしたものか...と思案する仁だったが手立てが思い付かず時は過ぎた。

何度かの発情期を迎えた。
由花はココに来てとても幸せだった。
仁は由花の事をとても大切にしてくれた。

仁は子供が産まれる前に由花を色んな所に連れて行った。

綺麗な景色、季節の花々、美味しい食べ物...思い付く限りの思い出を作った。
中でも由花のお気に入りは樹齢1000年を超える『鬼束』の枝垂れ桜だった。
3月になると咲き始める樹齢1000年の大木は花を付けるととても綺麗で圧巻だった。
「毎年見に来たい」
そうやって儚げに笑う由花を見て仁は由花を抱きしめた。
子供なんて出来なければいい...。
でもその思いとは裏腹に発情期はやって来る。発情期が来るとどうしても抑えが効かないし、だからと言って他の女も抱けない。
仁も風来の跡取り。
絶対に子孫を残さなければならない。
しきりに周りからは純血の力のある子孫を求めて意見されたが、由花を大事にしている仁の姿を見ている者は何も言えなかった。
仁の唯一気の抜ける場所は あの城の片隅に小さく建つ民家だった。
小さい時から聞き分けが良く、我が儘を決して通さなかった仁が初めて言った我が儘が由花の存在だった。仁の父も母も由花の存在には感謝をしていた。
真面目で 堅物で 笑っていてもどことなく冷めている我が子の未来を1番心配していたのは両親だった。
仁が精通して、初めての発情期の時にあてがわれた鬼の印象が良くなかったのか、それ以来発情期になると姿を消していた我が子は何処でどうしていたのかは知らない。
ただ由花を見つけて来てからは仁は変わった。
大声で笑い、政にも積極的になりますます男振りに拍車がかかった。ただ 色んな鬼女が色目を使っても仁はなびく事はなかった。

6月...梅雨の時期に入り、毎日が鬱陶しくなる季節に由花は妊娠した。
仁が一番に恐れている事が起こった。
喜んでいる由花を見ながら素直に喜べない仁がいた。
「仁?...嬉しくない?」
由花からそう言われて抱き締める手に力がこもる。
「仁、寂しい?」
そう言った由花の首筋に甘える様に顔を埋めた。
「大きい子供ね」
そう言って笑う由花に「由は帰りたい?」と聞いた。
「帰りたく無くても帰らなきゃ行けないんでしょ。こっちに来た時も無理矢理だった。帰る時も無理矢理...」
「そうだね...ごめん...」
「仁、仁には私が居なくても今度は子供が一緒に居るよ」
そう言われて仁はハッとする。
そうだ。由花は子供を産んでも残して去って行かなければいけないのだ。
「私ね、こっちの世界に来て不幸だと思っていたけど、仁に会って幸せで、来てよかったって思ってるよ」「それにね、仁の子供が産めて幸せだよ」
そう言って由花は笑っていた。
「来年の桜は見れないね...」
由花は笑いながら涙を流していた。


それから8ヶ月後の2月に由花は子供を産んだ。
「女の子なら美咲、男なら剛ってつけてね」
「うん」
「残して行くのは心配だけど...」
「うん」
「仁が...」
「俺が?」
「そう、ちゃんと頭首らしく子孫を残さないとダメだよ」
「うん...」
「仁、私の本当の名前はね、由花って言うの」
「ゆいか...?」
「そう。拠り所の花って意味」
「拠り所...」
「子供には毎年あの桜を見せて欲しい...」
「解った...」
「私もあの桜を探すから」
「.....」
「何時でも心は側に居る。仁、私を忘れないで」
「忘れるもんか!」
「仁...本当にありがとう。愛してる」

そして、可愛い女の子を産み落とし由花は消えて行った。
可愛い黒髪の小さい小さい角が生えた女の子を抱いて仁は「美咲」と言って子供を抱き締めた。


由花は倒れる前の姿で我に帰った。
今までの事は夢だったのだろうか...と思う程 何も変わりなくこちらの世界に戻って来たので何がどうなっているのか混乱していた。

混乱したまま家に帰ると 変わらぬ我が家と「おかえり」と言う母の姿に何も言えず、2階の自分の部屋に駆け上がって座り込んでしまった。
心臓の鼓動が早い...
さっきのは...鬼の世界の話は夢だったんだろうか。
そんな時、手に握り込んでいる物の存在に気が付いた。
そっと指を開けてみると、仁が御守りだと言って握らせてくれたとんぼ玉の硝子細工の勾玉だった。2人でお祭りに行った時に屋台で「可愛い」と言って手に取った物を仁が思い出に買ってくれた物だった。

由花は涙が止まらなかった。
理不尽過ぎて、でも当たる所は何処にも無くて...
泣くしか出来ない自分が情けなくて、逢いたくて、側に居たくて...声を上げてワンワン泣いた。

インターネットで樹齢1000年を超える枝垂れ桜を探した。
それはすぐに見つかった。
風景は少し違うが確実にあの桜だった。由花は居ても立ってもいられずそこに足を運んだ。
桜の木を見上げて泣いた。
もう逢えないあの人の事を思って泣いた。
残して来た我が子を心配して泣き崩れた。

そして両親が反対するのを振り切って大学を辞めて この桜があるこの地に引っ越して来た。

毎年咲く桜を見上げて、今この時を愛しいあの人と子供が一緒に見ていると思うだけで気持ちが落ち着く。心は側に居る。


「仁、私を忘れないで...」
「忘れるもんか!」


仁...。貴方も桜を見ていますか?

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