Soul

あくび

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『白い羽!』
香澄は目を見開いて見つめる。
「そんなに珍しい?」
男の人はそう言うと、スゥーっと降りてきて香澄の目の前に立った。
「ココはっ...」
「ん?ココは天界だよ。立ち話もなんだから部屋に帰ろうか...」
『天界???なんで?どうしてっ!』
男の人が香澄の手を取ろうとした。
「いやっ!触らないでっ!」
「んじゃ触らないよ」
男の人が両手を上げてホールドのポーズを取る。
「君がどんなに足掻いたってココは天界。魔界には行けないんだ。大人しく部屋に戻ろう」
「いやっ!話ならココでも出来るでしょ!私を魔界に返して!」
「じゃあ、ココで話をしよう」
男の人はニコニコ笑っていて余裕の態度だ。それがまた腹が立つ。
「魔界じゃこんな理不尽な事はしないわっ!私を魔界に返してっ!」
「理不尽ねぇ~...」
「私を探してる人がいるの。帰らないと心配する...」
ラジルドの顔が浮かぶ。必死になって探してるんじゃないか...そう思うと涙が溢れてきた。
「ラジルドは...まぁ心配してるけど大丈夫だよ。ちゃんと天界に来ている事も知ってるからね」
「え?」
『どういう事だろう...ラジルドは私が天界に来る事を許したって事?』
「天界に来た事を納得してる訳じゃないけど、まぁ一応知らせておいた」
男の人は頭をポリポリ掻きながらそう付け加えた。
「まぁ、ラジルドが納得していようがしていまいがそんな事はどうでもいいんだ。だいたい、もともとはあっちが先に攫って行ったんだからね」
その言葉に香澄が反応する。
「えっ?ちょっと待って...」
「だから、話も長くなるし部屋に戻らない?」
男の人は後ろを親指で指している。
香澄はもう頷くしかなかった。

香澄が寝ていた時の部屋に戻ると、男の人は
「俺の名前はカイト」
そう言って握手をする為に手を差し出した。けれど香澄は何と言っても魔界育ち。『知らない人とは話してはいけません』と言われ続けて来た香澄が安々と手を出す筈もなく、カイトの手は宙ぶらりんに浮いていた。
「握手ぐらいー」
と言ったカイトの話を折って香澄が話し始める。
「先に攫って行ったってどういう事ですか?」
「どういう事もこういう事もない。言葉の通りさ」
手のやり場に困ったカイトは苦笑いをしながらそのまま手を下ろした。
「私は天界に来るはずだったって事ですか?」
「そうだね。君は天界行きだった。魔界に行く理由がないからね」
「でもそれは決定の森が決めるのでしょう?」
「そう。決定の森が決める。それを待ち伏せして無理に連れて行ったのはあっちだ」
「それって通ってみないと解らないんだから無理に連れて行ったとは言えないですよね?」
カイトは少し黙った後
「世の中にはバランスって物があるんだ」
そう言った。
「魔界にも天界にも枠があって、それに合わせて人間の生き死にも決まって来る。例えば、Aさんが魔界にBさんが天界に行くと決まってたとする。その時、天界から修行を終えて人間界に行く事が決まった人がいたとして、じゃあ、死ぬのはAさんだと思う?Bさんだと思う?」
「.......」
「どっち?」
「Bさん...」
「正解。多少の誤差はあるけど、極端に言うとそういう事なんだ。あの時、君を無理やりラジルドが攫って行った事でバランスがちょっと歪んでしまった。ほんの少しの歪みを修正する為に今回魔界に行くはずだった人間が天界に来ている」
香澄は驚いた顔をしてカイトを見た。
「歪みは最初は君1人の事だったのに少しずつ少しずつズレてきて大きくなって来てしまった。その歪みを正す為に香澄に天界に来てもらったって言うのが一つ目の理由」
「理由は一つじゃないの?」
「そうだね。まだある。近頃、魔界からの転生の申請が頻繁に出ているって話を聞いた」
香澄はまた驚いた。
「それ...」
「間中 香澄。天界に来る予定だった者が魔界に行った事で起った歪みプラス、今度は無理に転生させる事での歪み。どうなると思う?」
「どうなるの?」
「こちらからの転生の人数によって人間の生死が決まる。魔界が減れば魔界に。天界が減れば天界に行くはずの人間が送られてくる。君の転生は魔界からだと思うだろうけど本当は天界だったとしたら...」
「天界の人数が増える...」
「そう。バランスがまた悪くなる。そしてそれが無理やり決行された物だったとしたら...」
「誰かが無理矢理死ぬ....って事?」
「正解」
「そんな...」
「無理に行えば死ぬはずじゃなかった人間が死んでしまう。魔界に行くはずだった人間が天界に来て、天界に行くはずだった人間が魔界に行く。さっき理不尽だって言ったけど、そっちの方がもっと理不尽だ」
確かにそうだ。香澄は息を飲んだ。そんな事になるだなんて思っても見なかった。知らなかったとはいえ自分の考えの無さに落ち込んでしまう。
「だから、天界に来て貰ったんだ。そして魔界に行くはずだった人間を魔界に返す。君は違和感を感じてなかったか?ラジルドから与えられた幸せにどっぷり浸かっていた?」
はっとしてカイトを見た。自分でもなんでそう思うのか解らなかった不安。
「君にはタグが付けられていてね。君が魔界に行ったのを訝しんだ天界の審査官が君が困ったら天界に直ぐに連絡が入る様に機転を利かしていたんだ」
「ラジルドもその事は....?」
「もちろん知っている。君は嫌な事は何も見ずに良い事ばかりを見て余計な事は何も知らずに本当に大事にされていたんだな」
香澄は唖然としていた。知らされてない事が多すぎる。
「ちょっと1人にして欲しいの。頭の中を整理しないと爆発しそう...」
「解った。ただ、魔界に帰るのは無しだ。いい?」
魔界に帰る.....その言葉を聞いてハッとする。
「短い時間もダメなの?多分、ラジルドが心配ーーー」
「ダメだ!」
強く言われて香澄は息を呑む。
「この話をすればラジルドは頭がいい人だから解ってくれるとー」
「ねぇ」
また話を折られた。
「君こそ解って欲しい。ラジルドは解ってやってるんだ」
香澄の目が見開く。
「いいか?ラジルドは魔界人だぞ、君が魔界人をどう見ているのか解らないが、君を思い通りにする位の事、魔界人には朝飯前だ」
さらに香澄の目が大きく見開いて涙が溢れる。
『何もかも嘘だったのだろうか?騙されてたのだろうか...何の為に?解らない。』
「とにかく魔界に行くのは無しだ。それを踏まえて頭ん中整理してくれるとありがたい」
カイトはそう言い残して部屋から出て行った。
『ラジルド.......』香澄は涙が溢れて止まらなかった。


**************************


その頃魔界では.....
お城に勤めている方たち総出でラジルドを止めております...ハイ。
これを巷では『大きなカブ』と呼んでおります...ハイ。

もともとラジルドは魔界では上位の方に入る魔力の持ち主だったりするので、止める方もなかなか大変でございます。
その上ラジルドが所構わずカメハメ波を撃ちまくるので(本当はそんな名前じゃないですが...)お城の中はパニック状態で医療班に、特殊部隊、隠密隊まで総出です...ハイ。
「お前がーーーー居なかったらぁーーーー香澄ちゃんかえってくるのぉーーーーー無駄になるんだってぇぇーーーーー」
そう言いながら体を張ってラジルドに抱きつきながら止めてるのはおなじみのダジです。
ラジルドの顔は般若になっています...。可愛い顔が台無しです。でもいい男は般若になってもいい男なんですね。
とうとう魔王様まで介入してくる大事になってしまいました。

魔王様は奥様のレイアミット様とのラブラブ時間を邪魔されて不機嫌でございまして...ちなみにレイアミット様は淫魔のご出身で御座います...ハイ。

魔王様はドカドカドカっと荒々しく事務官の執務室に現れたかと思いましたら、人差し指をヒョイヒョイと動かされまして、ラジルドをものの5秒もしない内に床に縫い止めて縛り上げてしまいました。
流石です...魔王様。これがうわさの秒殺なんですね。
「手間をかけさせるな!」
そう一言残されまして、またドカドカドカっとお部屋に帰られました...ハイ。

床に縫い止められてしまったラジルドは全く動けず、声も出せず...可哀想だけどこれ以上被害者を出す訳にもいかないので、そのまま魔力を封じ込める牢屋に連れて行かれる事になりました。
「ウーウーウーウー」
唸るしか出来ないラジルド。男泣きしてます。
「しばらくココに居て落ち着け」
同僚達にそう言われてましたが、すぐには難しそうですね...。
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