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『香澄..........』
暗いジメジメした牢の中でラジルドの頭に浮かぶのは香澄の事だけ。
手足を拘束されて口には猿轡をされてラジルドはなす術も無く項垂れていた。
『総ての事から絶対に守ると誓ったのに....』
拘束されて1週間が経った。このままではラジルドが可愛そうだと何度か拘束を外す試みがなされたがあえなく撃沈。ラジルドは最初よりも一層強い拘束をされる事となった。
今日も心配して色々な人が面会に来たが、ラジルドは何も話さない。
ただ唯一、天界との連絡が取れる事務官とは話す。香澄の様子を聞く為だ。
ラジルドが調整係をやっていたポジションは今は仲の良かったダジが担当している。今朝も恒例の調整の時間にダジが天界での香澄の様子を聞いていた。
「香澄ちゃんを魔界に返していただけませんか?」
「またその話~?だから無理だと思うって~、コッチの上層部はこの件でピリピリしてるしね~、これ以上問題が大きくなったらトップの話し合いになっちゃうよ~、まぁ、それはそれで面白そうだけどね~」
ハハハと笑うのは天界の事務官のシャルラ、香澄を連れて行った人物。
シャルラは一件物凄くチャラい雰囲気を醸し出している。口調も人を小馬鹿にした様な感じだがコイツが切れ者だ。
「ラジルドちゃん、相当参っちゃってる感じ~?」
「はい、しかし、今回何の為に香澄ちゃんは天界に連れていかれたのか理由だけでも...」
「さぁね~、僕らにはさーっぱり解らない理由なんだろうね~」
「シャルラさんにも解らないんですか?」
「ラジルドちゃん、仕事が全く手につかない感じ~?」
「.......」
「可哀想だけどね~うーん...あんまり可哀想じゃないかもだけどぉ~」
ハハハって笑うシャルラ。
「目を離すと天界に乗り込んで行きますよ...あの人」
「消滅しちゃうじゃ~ん!怖いね~、香澄ちゃんの事本当に愛しちゃってるんだ~まぁ、修行最終段階の子だしね~。この修行終わったら彼女は晴れて天界人の予定みたいだからね~」
「え?」
「ダジちゃん知らなかったのぉ~?そりゃ~ラジルドちゃん問責だね~香澄ちゃんは天界で元気に過ごしてますって言っといて~」
ハハハとまたシャルラが笑った。目が笑ってないのがちょっと怖いが...。
「じゃぁ、今日の予定はもぉいいね~、んじゃまた明日~」
そう言って連絡が切れた。
修行最終段階...。何じゃそりゃ!
ダジは頭の中で色んな仮説を立て出した。そしてそれを一旦頭の片隅に置きやるとやるべき仕事を片付け始めた。
ダジは今、仕事が一段落して午後2時を回った頃ラジルドも牢の前にいた。ラジルドは待っていましたとばかりにダジに近づき
「香澄の様子は...」
と聞いて来た。
「香澄ちゃん、元気だって言ってた」
「そうか...」
「香澄ちゃんを早く魔界に返す様に言ってみたんだけど...難しいだろうと答えが返ってきたよ」
その言葉聞いてラジルドの顔が曇る。
「なぁ、ラジルド...正直に答えて欲しいんだけど、香澄ちゃんは何で魔界に降りて来たか知ってるか?」
「いや...」
ダジはそこで『やっぱり...』と思った。ラジルドは何か知っている。香澄が魔界に降りて来た理由を。
「香澄ちゃんは修行最終段階だったそうだ。考えて見たらそうだよな。香澄ちゃんは10歳でコッチに来てるんだ」
人間は何回も生まれ変わってその度に修行を重ねていく。修行をする事で人間が出来上がって行くのだ。人には性格が色々あるが、人間が出来ている人ほど修行を重ねて来た人で、そしていよいよ最終段階に入ると修行の多少の誤差を調節する為に0歳~10歳の間で転生して、それが終わったら永遠の命を頂いて自分の魂の故郷に帰り幸せに暮らす事が出来る。
「香澄がコッチに来たのは13歳だ」
ラジルドが唸るように言った。
「そこを誤魔化したのラジルドなんじゃないのか?」
ダジがすかさず言う。
「ラジルド、このまま香澄ちゃんを天界に置くべきだと思う。このままだと...」
「うるせぇーよダジ。お前に何が解るんだよ」
ダジはラジルドを見てゾッとした。全身から黒いオーラが出まくりで見た事も無いラジルドがそこに立っていた。
「いいよ、もう。使えない女なんていらねぇーよ、こっから出せ!もう冷静だって」
ダジは鍵を開けるのを戸惑った。
知っているラジルドとは全く違う雰囲気のラジルドがそこに立っていたのだ。
「面倒くせぇ事になる前に出せ!」
ダジはラジルドの迫力に負けた。鍵を開け、ラジルドの拘束を解くと
「一旦家に帰るから。心配しなくても迎えに天界とか行かねぇーし、しばらく謹慎して、それから仕事に出る事にするから...」
「ラジルド....本当に天界に行くなよ」
「クドイって」
そう言うラジルドは本当に『ラジルドか?』と思わせる様な顔つきだった。般若顔だったラジルドでもまだラジルドらしかった気がする。
ラジルドは後ろ手に手をヒラヒラさせて歩いて行く。
ダジは牢を開けたことを少し後悔した。
「おかえりなさいませ」
久しぶりに帰って来た家主は帰ってくるなり何も言わず部屋に閉じ篭ってしまった。執事のアザンは直ぐに風呂を用意させて食事を用意させる。
「消化の良いものを...」
そう指示を出した後、帰って来て直ぐに部屋に閉じ篭ったラジルドにドア越しに話し掛けた。
「ラジルド様、お風呂の用意が出来ました」
部屋から出て来た主人は凄くやつれていて汚かった。手に書類を持っていて、それをアザンに渡すと
「処分しておいて」
そう言ってお風呂に入って行った。
アザンは封書に入っていた書類に目を通して目を見開いた。『売買契約書』と書いてあった書類はラジルドが香澄の為に買った家の物だった。
いよいよこのお屋敷で一緒に住まわれるのだろうか...と考えたがそんな雰囲気には全く見えない。別れたのだろうか...『まさか、あんなに溺愛していた香澄様と別れるなんてありえない』そう思い直して考えを打ち消した。
5年前、「ちょくちょくは顔を出す様にするけど、もうコッチに住むことはないかもしれない」そう言われてラジルドと小さなお客様の居なくなったこの屋敷は、今ではメイドと料理長と自分の3人しかおらず、毎日がもの寂しい雰囲気に包まれていた。
それでもいつ帰ってきても不自由のない様に維持して来た。
ワーク家に仕えて500年は過ぎているアザン。何時でも優しかった前当主に報いるためにもラジルドに誠心誠意お支えしたいと考えている。
そうこう考えていたらラジルドが風呂から出て来た。
「アザン、処分は任せるから...全部捨てていい」
そう言ったラジルドの表情が凄くやり切れなくて思わず
「香澄様とは...」
と聞いてしまった。アザンはすかさず
「申し訳ありません」と頭を下げたが「いや、いいよ」と言ったラジルドが「もう終わったから」と言った。
別れたと言う事だろうか...あんなに大事にしていたのに。アザンは香澄の事を思い浮かべて寂しい気持ちになっていた。
次の日アザンはラジルドと香澄の住んでいた小さな屋敷に行った。
ドアも窓も開け放された屋敷の中は物取りでも入ったのか酷い惨状になっていてアザンは一旦戸締りをして帰ることにした。
その後、パーシックに連絡を取った。パーシックも何も知らない様子で同様にビックリしていたので「ラジルド様にはどうか内密に」と一言付け加えて屋敷に戻った。
親友のパーシックすらも香澄と別れた事を知らない...。どうした事かと思ったが出勤していないラジルドの様子も心配だった。
ずっと部屋に篭ってて出てこないラジルドは多分夜になると窓から出て行ってるのだろうと当たりを付けているが...あの、何もかも諦めてしまった顔を見ているとなんともやり切れない気持ちになってくる。
ラジルドがあんなに屈託もなく笑う様になったのは本当に最近の事。
...思えばここ10年くらいの話だ。
それまでのラジルドは笑顔は確かに絶やさないがどこか冷めていて、顔に笑顔をくっつけた様な嘘っぽい笑い方をする人だった。
大きな声で怒鳴ったり、泣いたり喚いたり、感情を決して表に出さない人だった。
ラジルドの両親は今から300年前に起きた魔界での争いに巻き込まれて消滅してしまった。飛派と地派の些細な諍いが大きな争いに発展したのだった。ワーク家は黒羽族と言って、黒羽族はどちらにも加担せずにいた。が、それが悪かった。
黒羽族は天使の末裔、天使が魔界に落ちて魔界人となった子孫と言われていた。その為か力が大きく、黒羽族が本気で闘ったら魔界で勝てるものはいないであろうとまで言われていたのだった。
飛派にしてみたら黒羽族は羽があるので空の派閥だと思っていた。地派にしてみれば、羽があると言っても黒羽族で飛んでいる者は滅多におらず、地上で生活している者と何ら変わりなく生活していたので地の派閥だと考えていた。
両派閥とも黒羽族頼りのこの戦い。黒羽族がどちらにも加担しないとなった途端、矛先が黒羽族に向き出したのだった。
城で親衛隊の隊長であったラジルドの父は命令により軍を率いて争いを鎮圧する為に出向いたが、そのまま帰らぬ人となった。
母も産まれたばかりのラジルドを置いて当時のメイドだった女に殺られた。そのすぐ後に黒羽族は逃げるように通達が来たが遅かった。ラジルドの母は黒羽族が狙われている事を知らなかったのだ。アザンは幼いまだハイハイも出来ないラジルドを連れて直ぐに屋敷を飛び出した。
そして、田舎の信頼出来る友人にラジルドを託し屋敷に戻った。
戻った後はアザンも悲惨な目にあったが殺されはしなかった。その後争いは天界が介入する事となり 魔界の特殊部隊出動と言う形で鎮圧され、ラジルド以外の黒羽族の全滅と言う形で終りを告げた。
ラジルドが屋敷に再び戻って来たのは15歳の成人を過ぎてからの事だった。ずっと田舎で育っていた為か初めは都会に馴染めず、家に閉じ篭ってばかりだった。
大人しく、あまり話さないラジルドに城勤めが決まり今の地位まで出世する事は並大抵の努力ではなかった。始めは黒羽族という事を隠す為に羽を広げる事も出来なかったラジルド。今でも黒羽族という事は出来るだけ知らせずに生きている。成人したと言ってもまだまだ子供。この先何百年も何千年も生きて行くに当たって『親』という存在はとても大切な支え。
それなのに頼りたい親はおらず、当主として生きていかなければいけなかったプレッシャーは図りきれず、多分、生きていく中で『色んな事を諦める』という事を覚えたのだろうと思う。そして、嘘っぽい笑みを顔に貼り付けて、どんな事があっても感情を表に出さない超人の様な魔人が出来上がって行ったのだろうと思う。
香澄が魔界に来てからラジルドは本当の意味で笑うという事を覚えたし、感情を表に出す様になったと思う。香澄は何処に行ってしまったのだろうか...アザンは頭を抱えた。
暗いジメジメした牢の中でラジルドの頭に浮かぶのは香澄の事だけ。
手足を拘束されて口には猿轡をされてラジルドはなす術も無く項垂れていた。
『総ての事から絶対に守ると誓ったのに....』
拘束されて1週間が経った。このままではラジルドが可愛そうだと何度か拘束を外す試みがなされたがあえなく撃沈。ラジルドは最初よりも一層強い拘束をされる事となった。
今日も心配して色々な人が面会に来たが、ラジルドは何も話さない。
ただ唯一、天界との連絡が取れる事務官とは話す。香澄の様子を聞く為だ。
ラジルドが調整係をやっていたポジションは今は仲の良かったダジが担当している。今朝も恒例の調整の時間にダジが天界での香澄の様子を聞いていた。
「香澄ちゃんを魔界に返していただけませんか?」
「またその話~?だから無理だと思うって~、コッチの上層部はこの件でピリピリしてるしね~、これ以上問題が大きくなったらトップの話し合いになっちゃうよ~、まぁ、それはそれで面白そうだけどね~」
ハハハと笑うのは天界の事務官のシャルラ、香澄を連れて行った人物。
シャルラは一件物凄くチャラい雰囲気を醸し出している。口調も人を小馬鹿にした様な感じだがコイツが切れ者だ。
「ラジルドちゃん、相当参っちゃってる感じ~?」
「はい、しかし、今回何の為に香澄ちゃんは天界に連れていかれたのか理由だけでも...」
「さぁね~、僕らにはさーっぱり解らない理由なんだろうね~」
「シャルラさんにも解らないんですか?」
「ラジルドちゃん、仕事が全く手につかない感じ~?」
「.......」
「可哀想だけどね~うーん...あんまり可哀想じゃないかもだけどぉ~」
ハハハって笑うシャルラ。
「目を離すと天界に乗り込んで行きますよ...あの人」
「消滅しちゃうじゃ~ん!怖いね~、香澄ちゃんの事本当に愛しちゃってるんだ~まぁ、修行最終段階の子だしね~。この修行終わったら彼女は晴れて天界人の予定みたいだからね~」
「え?」
「ダジちゃん知らなかったのぉ~?そりゃ~ラジルドちゃん問責だね~香澄ちゃんは天界で元気に過ごしてますって言っといて~」
ハハハとまたシャルラが笑った。目が笑ってないのがちょっと怖いが...。
「じゃぁ、今日の予定はもぉいいね~、んじゃまた明日~」
そう言って連絡が切れた。
修行最終段階...。何じゃそりゃ!
ダジは頭の中で色んな仮説を立て出した。そしてそれを一旦頭の片隅に置きやるとやるべき仕事を片付け始めた。
ダジは今、仕事が一段落して午後2時を回った頃ラジルドも牢の前にいた。ラジルドは待っていましたとばかりにダジに近づき
「香澄の様子は...」
と聞いて来た。
「香澄ちゃん、元気だって言ってた」
「そうか...」
「香澄ちゃんを早く魔界に返す様に言ってみたんだけど...難しいだろうと答えが返ってきたよ」
その言葉聞いてラジルドの顔が曇る。
「なぁ、ラジルド...正直に答えて欲しいんだけど、香澄ちゃんは何で魔界に降りて来たか知ってるか?」
「いや...」
ダジはそこで『やっぱり...』と思った。ラジルドは何か知っている。香澄が魔界に降りて来た理由を。
「香澄ちゃんは修行最終段階だったそうだ。考えて見たらそうだよな。香澄ちゃんは10歳でコッチに来てるんだ」
人間は何回も生まれ変わってその度に修行を重ねていく。修行をする事で人間が出来上がって行くのだ。人には性格が色々あるが、人間が出来ている人ほど修行を重ねて来た人で、そしていよいよ最終段階に入ると修行の多少の誤差を調節する為に0歳~10歳の間で転生して、それが終わったら永遠の命を頂いて自分の魂の故郷に帰り幸せに暮らす事が出来る。
「香澄がコッチに来たのは13歳だ」
ラジルドが唸るように言った。
「そこを誤魔化したのラジルドなんじゃないのか?」
ダジがすかさず言う。
「ラジルド、このまま香澄ちゃんを天界に置くべきだと思う。このままだと...」
「うるせぇーよダジ。お前に何が解るんだよ」
ダジはラジルドを見てゾッとした。全身から黒いオーラが出まくりで見た事も無いラジルドがそこに立っていた。
「いいよ、もう。使えない女なんていらねぇーよ、こっから出せ!もう冷静だって」
ダジは鍵を開けるのを戸惑った。
知っているラジルドとは全く違う雰囲気のラジルドがそこに立っていたのだ。
「面倒くせぇ事になる前に出せ!」
ダジはラジルドの迫力に負けた。鍵を開け、ラジルドの拘束を解くと
「一旦家に帰るから。心配しなくても迎えに天界とか行かねぇーし、しばらく謹慎して、それから仕事に出る事にするから...」
「ラジルド....本当に天界に行くなよ」
「クドイって」
そう言うラジルドは本当に『ラジルドか?』と思わせる様な顔つきだった。般若顔だったラジルドでもまだラジルドらしかった気がする。
ラジルドは後ろ手に手をヒラヒラさせて歩いて行く。
ダジは牢を開けたことを少し後悔した。
「おかえりなさいませ」
久しぶりに帰って来た家主は帰ってくるなり何も言わず部屋に閉じ篭ってしまった。執事のアザンは直ぐに風呂を用意させて食事を用意させる。
「消化の良いものを...」
そう指示を出した後、帰って来て直ぐに部屋に閉じ篭ったラジルドにドア越しに話し掛けた。
「ラジルド様、お風呂の用意が出来ました」
部屋から出て来た主人は凄くやつれていて汚かった。手に書類を持っていて、それをアザンに渡すと
「処分しておいて」
そう言ってお風呂に入って行った。
アザンは封書に入っていた書類に目を通して目を見開いた。『売買契約書』と書いてあった書類はラジルドが香澄の為に買った家の物だった。
いよいよこのお屋敷で一緒に住まわれるのだろうか...と考えたがそんな雰囲気には全く見えない。別れたのだろうか...『まさか、あんなに溺愛していた香澄様と別れるなんてありえない』そう思い直して考えを打ち消した。
5年前、「ちょくちょくは顔を出す様にするけど、もうコッチに住むことはないかもしれない」そう言われてラジルドと小さなお客様の居なくなったこの屋敷は、今ではメイドと料理長と自分の3人しかおらず、毎日がもの寂しい雰囲気に包まれていた。
それでもいつ帰ってきても不自由のない様に維持して来た。
ワーク家に仕えて500年は過ぎているアザン。何時でも優しかった前当主に報いるためにもラジルドに誠心誠意お支えしたいと考えている。
そうこう考えていたらラジルドが風呂から出て来た。
「アザン、処分は任せるから...全部捨てていい」
そう言ったラジルドの表情が凄くやり切れなくて思わず
「香澄様とは...」
と聞いてしまった。アザンはすかさず
「申し訳ありません」と頭を下げたが「いや、いいよ」と言ったラジルドが「もう終わったから」と言った。
別れたと言う事だろうか...あんなに大事にしていたのに。アザンは香澄の事を思い浮かべて寂しい気持ちになっていた。
次の日アザンはラジルドと香澄の住んでいた小さな屋敷に行った。
ドアも窓も開け放された屋敷の中は物取りでも入ったのか酷い惨状になっていてアザンは一旦戸締りをして帰ることにした。
その後、パーシックに連絡を取った。パーシックも何も知らない様子で同様にビックリしていたので「ラジルド様にはどうか内密に」と一言付け加えて屋敷に戻った。
親友のパーシックすらも香澄と別れた事を知らない...。どうした事かと思ったが出勤していないラジルドの様子も心配だった。
ずっと部屋に篭ってて出てこないラジルドは多分夜になると窓から出て行ってるのだろうと当たりを付けているが...あの、何もかも諦めてしまった顔を見ているとなんともやり切れない気持ちになってくる。
ラジルドがあんなに屈託もなく笑う様になったのは本当に最近の事。
...思えばここ10年くらいの話だ。
それまでのラジルドは笑顔は確かに絶やさないがどこか冷めていて、顔に笑顔をくっつけた様な嘘っぽい笑い方をする人だった。
大きな声で怒鳴ったり、泣いたり喚いたり、感情を決して表に出さない人だった。
ラジルドの両親は今から300年前に起きた魔界での争いに巻き込まれて消滅してしまった。飛派と地派の些細な諍いが大きな争いに発展したのだった。ワーク家は黒羽族と言って、黒羽族はどちらにも加担せずにいた。が、それが悪かった。
黒羽族は天使の末裔、天使が魔界に落ちて魔界人となった子孫と言われていた。その為か力が大きく、黒羽族が本気で闘ったら魔界で勝てるものはいないであろうとまで言われていたのだった。
飛派にしてみたら黒羽族は羽があるので空の派閥だと思っていた。地派にしてみれば、羽があると言っても黒羽族で飛んでいる者は滅多におらず、地上で生活している者と何ら変わりなく生活していたので地の派閥だと考えていた。
両派閥とも黒羽族頼りのこの戦い。黒羽族がどちらにも加担しないとなった途端、矛先が黒羽族に向き出したのだった。
城で親衛隊の隊長であったラジルドの父は命令により軍を率いて争いを鎮圧する為に出向いたが、そのまま帰らぬ人となった。
母も産まれたばかりのラジルドを置いて当時のメイドだった女に殺られた。そのすぐ後に黒羽族は逃げるように通達が来たが遅かった。ラジルドの母は黒羽族が狙われている事を知らなかったのだ。アザンは幼いまだハイハイも出来ないラジルドを連れて直ぐに屋敷を飛び出した。
そして、田舎の信頼出来る友人にラジルドを託し屋敷に戻った。
戻った後はアザンも悲惨な目にあったが殺されはしなかった。その後争いは天界が介入する事となり 魔界の特殊部隊出動と言う形で鎮圧され、ラジルド以外の黒羽族の全滅と言う形で終りを告げた。
ラジルドが屋敷に再び戻って来たのは15歳の成人を過ぎてからの事だった。ずっと田舎で育っていた為か初めは都会に馴染めず、家に閉じ篭ってばかりだった。
大人しく、あまり話さないラジルドに城勤めが決まり今の地位まで出世する事は並大抵の努力ではなかった。始めは黒羽族という事を隠す為に羽を広げる事も出来なかったラジルド。今でも黒羽族という事は出来るだけ知らせずに生きている。成人したと言ってもまだまだ子供。この先何百年も何千年も生きて行くに当たって『親』という存在はとても大切な支え。
それなのに頼りたい親はおらず、当主として生きていかなければいけなかったプレッシャーは図りきれず、多分、生きていく中で『色んな事を諦める』という事を覚えたのだろうと思う。そして、嘘っぽい笑みを顔に貼り付けて、どんな事があっても感情を表に出さない超人の様な魔人が出来上がって行ったのだろうと思う。
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