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天界は気候が穏やかだ。魔界では天気が良くても湿気が多く いきなり暴風雨になったり、風が突然吹き出したりと気候に波があったので、毎日毎日穏やかだな気候と穏やかな人達に包まれて「これが本当の幸せなんだなぁ~」と香澄は年甲斐もなく思っていた。
ラジルドが迎えに来てくれる気配は全くなかった。
「命をかけても守る」って言ってくれた言葉を信じているし、香澄はラジルドが必ず迎えに来てくれると思っている。
天界に来て1ヶ月。始めは見張りが付いていたが今では自由に城内であれば行き来出来る様になった。
香澄の毎日は勉強だった。本当は既に復活と言う儀式を迎えて天界人になっていないといけなかったらしいが、まだまだ先のようだ。天界人になれば天界で仕事を与えられて天界人として永遠の時を生きる。中には天界に飽きて人間界に降りて行く者もいるらしいし、魔界に行く人もいる...と聞いて、思わず家庭教師をしてくれている先生に根掘り葉掘り聞いてしまった。もちろんその先生は他の先生と入れ替わり、新しい先生はそんな事は一切教えてくれなかったし、香澄も1週間の外出禁止命令が出たので、今度聞く時はもうちょっと上手くやろうと心に誓った。
そんな中で黒羽族の歴史を学ぶ機会があった。
黒羽族は、天界人が魔界人に恋をして魔界に降りた事で出来た一族で本当は天界人の子孫なのだそうだ。絵を見た時にびっくりした。ラジルドがそこに居たから...。
でも先生は黒羽族は絶滅したと言った。香澄は言っていいものか悪いものか迷った挙句、前回の謹慎の例もあるし、余計な事を言えばまた先生に迷惑をかけるかもしれないと考え黙っている事にした。
黒羽族の黒い羽は、天界人の白い羽が魔界の気に当てられて黒くなった物だと先生が言った。
「先生、もし黒羽族が生きていたら黒い羽を見てみたいです」
香澄はそんな事を白々しいと自分で思いながら話した。
「残念だよね。言い伝えでは、黒羽族と天界人が結ばれれば救世主が現れると言われているらしいよ」
「救世主?...ですか?」
「うん。魔界と天界の融合みたいな物なのかな?あまり詳しい事は知らないけれど...」
「へぇ~」
「天界から魔界には行けるけれど、魔界の人達は天界には来れないからかな...」
「え?魔界から天界には来れないんですか?」
そこまで聞いて香澄は『ハッ』っとした。デットゾーンを越えてしまったらまた迷惑が掛かると思ったのだ。
上目遣いで先生を見る香澄を見て、先生が吹き出した。
「心配しなくても大丈夫ですよ。今は黒羽族の歴史の話ですし、魔界に行きたくて聞いてるわけじゃないでしょう?」
「はい.....」
香澄はそう言いながら胸が傷んだ。
『魔界人は天界に来れない』その話を聞いて愕然としていた。
これでラジルドが迎えに来てくれる確率は決定的に0になった。...いや、むしろ来て欲しくなかった。たとえラジルドに二度と会えなかったとしてもラジルドには生きていて貰いたい。
天界に来てから小さい部屋を与えられたが、居心地のよいその部屋はベットとテーブル以外に物がない。そんな小さな部屋の小さなベットの上で香澄はため息をついた。
『これからどうなって行くのだろう』
思う事は不安だらけだった。
初めてこの世界に来た時も不安で泣いてばかりいた。でも門番のおじさんしか居なかったので自分で色々考えて不安から乗り越えてきた。
魔界に来た時も不安だらけだった。あっちを見てもこっちを見ても怖いものだらけで不安プラス恐怖.....。でもラジルドがいた。ラジルドがいつも笑ってくれた。ラジルドが守ってくれた。ラジルドが優しかった...。そして愛をくれた。
思い出せば思い出すほど会いたい。
確かに彼は香澄に嘘をついたのかもしれない。もしかしたら騙したのかもしれない。でも、知りうる限り、香澄が望めば全力で叶えようとしてくれたし香澄を1ミリも苦しい悲しい辛い...と言った環境には近づけなかった。
毎日甘やかして、決して1人にはしなかった...。
思えば思うほど『自分は愛されていた』って感じる。良く解る。
「今更深い愛を感じても遅いよ...」
香澄は自分の情けなさに涙が出た。
なんで信じなかったんだろう。なんでラジルドの想いを疑問に思ったんだろう。
『私はラジルドの想いを見ていたのに...知っていたのに...与えられすぎて裏側を見ようとしたなんて...』
事実は目の前にあったのに...。
苦しくなって香澄は逃げるように部屋を出た。図書館にでも行って気持ちを落ち着かせよう...とそう思った。
基本的に勉強以外はする事が無く、香澄はよく図書館で本を読んでいた。今日は黒羽族の話でも探してみようと図書館に向かう。
気持ちを落ち着かせようと部屋を出たはずなのに、それでもやはりラジルドを追い掛けている自分のチグハグさに笑いが出た。
その時、ふと授業中に思った疑問が頭を過ぎった。
『みんなはラジルドが黒い羽を持っている事をなぜ知らないのだろう...』
考えてみたらラジルドが羽を広げて使った事はほんの数回しかなかった。数えられるくらいだ。香澄はそれを何の疑問にも思ってなかった。
ラジルドは羽は一番の弱点だって言ってた。羽を取られたら消滅すると...。
だから出さないのかと思っていたが...どうやら違う気がして来た。
そう考えながら、ラジルドが羽を広げた姿を思い出した。本当に綺麗だった。飛ぶ姿もかっこよかった...そこでまた思考が落ち込み出した事に気付いて、『ハッ』として、感情に浸る事をやめた。
『思い出に浸ってもいい事は無い。それよりも前を見よう!』
そう改めて考え直して図書館に向かってズンズン進む。
『今までだってどうにかなって来た。今からだってどうにでもなる!』
香澄は不安でも先が見えなくてもどうにかなるんだって事を自然と学んでいた。
黒羽族の話を探してると、比較的直ぐにそれらしい物は見つかったが絵本の類が多く、どれを見ても天界人はいい人で魔界人は悪者の類が多く、最後は天界人が世の中を救った...と言う形で締めくくられているので面白くなかった。
『魔界人にだっていい人は沢山いる!』それが今の香澄の自論だ。
香澄が魔界で過ごしている時、良い人ばかりと巡り会っていた。ラジルドがそういう面だけしか見せてなかったにしろ経験がないので魔界人=悪者の定義にどうしてもなれない。
『そりゃ悪い人もいるだろう。人間だっていい人だって悪い人だっている。天界も色んな人が居るはずだと思う。良い人だらけなはずがない!』
絵本にプリプリ怒ってる香澄だった。
そう思っていると、
「こんにちは、何を見てらっしゃるんですか?」
ハッと顔を上げると綺麗な顔立ちをした1人の女の人が話し掛けて来た。
「あっあの...」
「あ~絵本ですね。絵本は天界を学ぶのに解りやすくて良いですよ」
「あのっ..いやっ..あの..」
香澄はしどろもどろだった。
「黒羽族のお話ですね~、魔界に落ちた天使。好きなんですか?このお話」
「いやっ...好きって言うか...今日たまたま勉強したので」
「勉強?あー、まだ復活されてないんですね。何時の予定なんですか?」
「予定?」
香澄はキョトンとした。
「え?予定を聞かされてないの?」
「はい..あの....予定とかってあるんですか?」
「そうですね、だいたい2、3ヶ月位かな。天界での生活に慣れてきてある程度の心得を学んだら儀式があります...って言われませんでした?」
「いえ...言われてません」
「えー!おかしいな...そうだ!私の知ってる人に詳しい事が解る方がいるんですけど...一緒に聞きに行きませんか?」
「え?...あーはい。良いんですか?」
「良いと思いますよ。今、その方に頼まれて本を何冊か届けに行く所なんです。長老だから知り合えば口添えもしてくれるかもですよ」
今日の香澄はやっぱり心が弱ってたのかもしれない。
魔界人が天界に来れないって事を一生懸命考えない様にすればする程心が辛くなるって事を知らなかったから...。この日の香澄は『知らない人とは喋ってはいけません!』と言う言葉すら思い出せない程本当は傷ついていたのに、その事に気が付いてなかった。
女の人はリドルと言って復活して何百年も経っていると言っていた。
天界では殆どの人が修行を終えて復活している人で構成されていた。復活すると羽が貰える。俗に言う天使になれるのだ。そして、神に仕えて修行者の手助けをして行くのが殆どの仕事だ。
天界での修行は魔界みたいな過酷なものではない。ただ、人間界でやり残した事、人間界での反省などを踏まえて心の修行をして行く。
魂の合うもの達だけが集まる(修行の段階にも関係があるが)サポと言う集団で生活するのだが、それがアチコチに沢山あって、復活者は自分にあったサポで修行者のお世話をする。
次に行くテストの場は前回の反省も踏まえて「よし!次は白人男性でセレブで行ってみようかな」とか「私はやっぱりもう一度女性で同じ環境で人間界に行ってみる」等と言った就職活動みたいな会話もされている。自分の目標を決めて、目標達成の為に頑張る...と言った感じだと香澄は習った。
リドルは図書館を出て、キョロキョロしながら前に進んでいく。
香澄は着いて行きながら、背中の羽が左右に揺れているのが可愛いと思った。
普段生活している場所から北の方に随分と離れた所に案内されて、初めて見る光景で香澄の目はキラキラ輝いていた。
「ココは始めてきます」
「ココは長く務めていてもなかなか来れない場所だからね。香澄さんはラッキーだよ」
「へぇ~、なかなか来れない場所なんてあるんですね」
「そうだね。北のトーテンブル様、東のエッセ様、西のマリノターミ様、南のコウメ様の所には務めていないと一般人では会えないしなかなか行く機会がないよ」
「私がいる所は?」
「香澄さんがいる所は南になるよ。南はね 比較的出入りが自由な所なんだ」
「へぇ~」と言いながら全然知らなかったって思った。
「まだそんな部分は習ってないの?」
「まだ習ってません」
「天界に来てどれくらい?」
「1ヶ月位だと思います」
リドルの顔がビックリ目になった。
「えぇーーー!一ヶ月もいてまだ習ってないの?1番最初に習う所なんだけどな~」
香澄は何だか悪い事をしてるみたいな気になって下を向いた。
「いや、ごめんごめん。人には色々ペースがあるし...」
やっぱり魔界に居たからなのかな。そんな事を思いながら「いいえ...」って小さく言った。
さらに奥まで入ってい行くと大きな扉の前で止まった。そこの前に立っている天使に話し掛けると扉が開いた。広い石畳の広場の中央には噴水があって水がいくつも項を描いて吹き出していた。所々に花壇があり、綺麗な色の花達が歌っているように咲き乱れていた。その向こうには幾つもの扉が並んでて、リドルはその中の右から3番目の部屋の扉を叩いた。
中から返事が聞こえると扉を開けた。
「香澄さん入って」
って声を掛けられて先に入る様に手招きをされたので中に入ると銀髪の長い髪をした男の人が座って書類に目を通していた。
「アンソニー様連れてきました」
アンソニーは顔を上げると微笑んで
「ご苦労様」と言いながら立ち上がった。掛けていたメガネを外すと
「間中 香澄さん?」
と聞きながらコチラに近づいてくる。香澄はコクンと頷いた。
「君に会いたかったんだ」そう言って「どうぞ」と椅子に座るように促された。
「私に会いたかったって.....」
「天界人になる予定だった子が魔界にいただなんて、手違いも甚だしいね。とんだ迷惑だったね。魔界で不自由はしてなかったかい?」
「いいえ...」
「そりゃ良かった。それで、なんで魔界にいたかは話を聞いた?」
香澄は首を横に振りながら心臓がバクバク言い始めた。
とんでもない所に来てしまったんじゃないだろうか...緊張がMAX振り切れている。
「そう。君が一緒にいたラジルド君は黒羽族の生き残り?」
そう言われて香澄は息を飲んだ。『なんでラジルドの事を知ってるんだろう...』
「心配しなくても大丈夫だよ。僕はね、君の事を心配してるんだ。愛する人と引き離されて辛いんじゃないかって...それで、君は彼の黒い羽は見た事があるのかな?」
今度は香澄の目が開いた。警戒レベルMAXに到達している。そしてアンソニーはなおも言い募る。
「僕が助けてあげられないかなって...。ラジルド君も君に会いたいんじゃないのかな。僕だったら愛する人を奪われたら生きていけない...」
神妙な顔をしてアンソニーが話すと
「君も会いたいんじゃない?僕だったら会わせてあげられるけど...」
そう言った。
香澄は両手で口を抑えた。かすかに言った「うそ......」と言う言葉は再び息を飲む声にかき消された。
「先ずは天界人になる手続きを早めよう。そちらは僕がなんとかするからね。心配しなくても大丈夫だよ。君は今日から何かあるといけないからこの北の宮殿から出ないで貰いたいんだ。いい?」
「でもっ...」
「何も心配しなくていいよ、コチラの指示にしたがってくれれば君は愛するラジルド君とまた一緒に生活出来るんだ」
「なんで....なんでそこまでしてくれるんですか?」
「君はなんで黒羽族が居たか知ってる?」
「はい授業で習いました」
「そう…真実だと良いけどね」
そう言ってアンソニーがニッコリと微笑んだ。
ラジルドが迎えに来てくれる気配は全くなかった。
「命をかけても守る」って言ってくれた言葉を信じているし、香澄はラジルドが必ず迎えに来てくれると思っている。
天界に来て1ヶ月。始めは見張りが付いていたが今では自由に城内であれば行き来出来る様になった。
香澄の毎日は勉強だった。本当は既に復活と言う儀式を迎えて天界人になっていないといけなかったらしいが、まだまだ先のようだ。天界人になれば天界で仕事を与えられて天界人として永遠の時を生きる。中には天界に飽きて人間界に降りて行く者もいるらしいし、魔界に行く人もいる...と聞いて、思わず家庭教師をしてくれている先生に根掘り葉掘り聞いてしまった。もちろんその先生は他の先生と入れ替わり、新しい先生はそんな事は一切教えてくれなかったし、香澄も1週間の外出禁止命令が出たので、今度聞く時はもうちょっと上手くやろうと心に誓った。
そんな中で黒羽族の歴史を学ぶ機会があった。
黒羽族は、天界人が魔界人に恋をして魔界に降りた事で出来た一族で本当は天界人の子孫なのだそうだ。絵を見た時にびっくりした。ラジルドがそこに居たから...。
でも先生は黒羽族は絶滅したと言った。香澄は言っていいものか悪いものか迷った挙句、前回の謹慎の例もあるし、余計な事を言えばまた先生に迷惑をかけるかもしれないと考え黙っている事にした。
黒羽族の黒い羽は、天界人の白い羽が魔界の気に当てられて黒くなった物だと先生が言った。
「先生、もし黒羽族が生きていたら黒い羽を見てみたいです」
香澄はそんな事を白々しいと自分で思いながら話した。
「残念だよね。言い伝えでは、黒羽族と天界人が結ばれれば救世主が現れると言われているらしいよ」
「救世主?...ですか?」
「うん。魔界と天界の融合みたいな物なのかな?あまり詳しい事は知らないけれど...」
「へぇ~」
「天界から魔界には行けるけれど、魔界の人達は天界には来れないからかな...」
「え?魔界から天界には来れないんですか?」
そこまで聞いて香澄は『ハッ』っとした。デットゾーンを越えてしまったらまた迷惑が掛かると思ったのだ。
上目遣いで先生を見る香澄を見て、先生が吹き出した。
「心配しなくても大丈夫ですよ。今は黒羽族の歴史の話ですし、魔界に行きたくて聞いてるわけじゃないでしょう?」
「はい.....」
香澄はそう言いながら胸が傷んだ。
『魔界人は天界に来れない』その話を聞いて愕然としていた。
これでラジルドが迎えに来てくれる確率は決定的に0になった。...いや、むしろ来て欲しくなかった。たとえラジルドに二度と会えなかったとしてもラジルドには生きていて貰いたい。
天界に来てから小さい部屋を与えられたが、居心地のよいその部屋はベットとテーブル以外に物がない。そんな小さな部屋の小さなベットの上で香澄はため息をついた。
『これからどうなって行くのだろう』
思う事は不安だらけだった。
初めてこの世界に来た時も不安で泣いてばかりいた。でも門番のおじさんしか居なかったので自分で色々考えて不安から乗り越えてきた。
魔界に来た時も不安だらけだった。あっちを見てもこっちを見ても怖いものだらけで不安プラス恐怖.....。でもラジルドがいた。ラジルドがいつも笑ってくれた。ラジルドが守ってくれた。ラジルドが優しかった...。そして愛をくれた。
思い出せば思い出すほど会いたい。
確かに彼は香澄に嘘をついたのかもしれない。もしかしたら騙したのかもしれない。でも、知りうる限り、香澄が望めば全力で叶えようとしてくれたし香澄を1ミリも苦しい悲しい辛い...と言った環境には近づけなかった。
毎日甘やかして、決して1人にはしなかった...。
思えば思うほど『自分は愛されていた』って感じる。良く解る。
「今更深い愛を感じても遅いよ...」
香澄は自分の情けなさに涙が出た。
なんで信じなかったんだろう。なんでラジルドの想いを疑問に思ったんだろう。
『私はラジルドの想いを見ていたのに...知っていたのに...与えられすぎて裏側を見ようとしたなんて...』
事実は目の前にあったのに...。
苦しくなって香澄は逃げるように部屋を出た。図書館にでも行って気持ちを落ち着かせよう...とそう思った。
基本的に勉強以外はする事が無く、香澄はよく図書館で本を読んでいた。今日は黒羽族の話でも探してみようと図書館に向かう。
気持ちを落ち着かせようと部屋を出たはずなのに、それでもやはりラジルドを追い掛けている自分のチグハグさに笑いが出た。
その時、ふと授業中に思った疑問が頭を過ぎった。
『みんなはラジルドが黒い羽を持っている事をなぜ知らないのだろう...』
考えてみたらラジルドが羽を広げて使った事はほんの数回しかなかった。数えられるくらいだ。香澄はそれを何の疑問にも思ってなかった。
ラジルドは羽は一番の弱点だって言ってた。羽を取られたら消滅すると...。
だから出さないのかと思っていたが...どうやら違う気がして来た。
そう考えながら、ラジルドが羽を広げた姿を思い出した。本当に綺麗だった。飛ぶ姿もかっこよかった...そこでまた思考が落ち込み出した事に気付いて、『ハッ』として、感情に浸る事をやめた。
『思い出に浸ってもいい事は無い。それよりも前を見よう!』
そう改めて考え直して図書館に向かってズンズン進む。
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黒羽族の話を探してると、比較的直ぐにそれらしい物は見つかったが絵本の類が多く、どれを見ても天界人はいい人で魔界人は悪者の類が多く、最後は天界人が世の中を救った...と言う形で締めくくられているので面白くなかった。
『魔界人にだっていい人は沢山いる!』それが今の香澄の自論だ。
香澄が魔界で過ごしている時、良い人ばかりと巡り会っていた。ラジルドがそういう面だけしか見せてなかったにしろ経験がないので魔界人=悪者の定義にどうしてもなれない。
『そりゃ悪い人もいるだろう。人間だっていい人だって悪い人だっている。天界も色んな人が居るはずだと思う。良い人だらけなはずがない!』
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そう思っていると、
「こんにちは、何を見てらっしゃるんですか?」
ハッと顔を上げると綺麗な顔立ちをした1人の女の人が話し掛けて来た。
「あっあの...」
「あ~絵本ですね。絵本は天界を学ぶのに解りやすくて良いですよ」
「あのっ..いやっ..あの..」
香澄はしどろもどろだった。
「黒羽族のお話ですね~、魔界に落ちた天使。好きなんですか?このお話」
「いやっ...好きって言うか...今日たまたま勉強したので」
「勉強?あー、まだ復活されてないんですね。何時の予定なんですか?」
「予定?」
香澄はキョトンとした。
「え?予定を聞かされてないの?」
「はい..あの....予定とかってあるんですか?」
「そうですね、だいたい2、3ヶ月位かな。天界での生活に慣れてきてある程度の心得を学んだら儀式があります...って言われませんでした?」
「いえ...言われてません」
「えー!おかしいな...そうだ!私の知ってる人に詳しい事が解る方がいるんですけど...一緒に聞きに行きませんか?」
「え?...あーはい。良いんですか?」
「良いと思いますよ。今、その方に頼まれて本を何冊か届けに行く所なんです。長老だから知り合えば口添えもしてくれるかもですよ」
今日の香澄はやっぱり心が弱ってたのかもしれない。
魔界人が天界に来れないって事を一生懸命考えない様にすればする程心が辛くなるって事を知らなかったから...。この日の香澄は『知らない人とは喋ってはいけません!』と言う言葉すら思い出せない程本当は傷ついていたのに、その事に気が付いてなかった。
女の人はリドルと言って復活して何百年も経っていると言っていた。
天界では殆どの人が修行を終えて復活している人で構成されていた。復活すると羽が貰える。俗に言う天使になれるのだ。そして、神に仕えて修行者の手助けをして行くのが殆どの仕事だ。
天界での修行は魔界みたいな過酷なものではない。ただ、人間界でやり残した事、人間界での反省などを踏まえて心の修行をして行く。
魂の合うもの達だけが集まる(修行の段階にも関係があるが)サポと言う集団で生活するのだが、それがアチコチに沢山あって、復活者は自分にあったサポで修行者のお世話をする。
次に行くテストの場は前回の反省も踏まえて「よし!次は白人男性でセレブで行ってみようかな」とか「私はやっぱりもう一度女性で同じ環境で人間界に行ってみる」等と言った就職活動みたいな会話もされている。自分の目標を決めて、目標達成の為に頑張る...と言った感じだと香澄は習った。
リドルは図書館を出て、キョロキョロしながら前に進んでいく。
香澄は着いて行きながら、背中の羽が左右に揺れているのが可愛いと思った。
普段生活している場所から北の方に随分と離れた所に案内されて、初めて見る光景で香澄の目はキラキラ輝いていた。
「ココは始めてきます」
「ココは長く務めていてもなかなか来れない場所だからね。香澄さんはラッキーだよ」
「へぇ~、なかなか来れない場所なんてあるんですね」
「そうだね。北のトーテンブル様、東のエッセ様、西のマリノターミ様、南のコウメ様の所には務めていないと一般人では会えないしなかなか行く機会がないよ」
「私がいる所は?」
「香澄さんがいる所は南になるよ。南はね 比較的出入りが自由な所なんだ」
「へぇ~」と言いながら全然知らなかったって思った。
「まだそんな部分は習ってないの?」
「まだ習ってません」
「天界に来てどれくらい?」
「1ヶ月位だと思います」
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「えぇーーー!一ヶ月もいてまだ習ってないの?1番最初に習う所なんだけどな~」
香澄は何だか悪い事をしてるみたいな気になって下を向いた。
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やっぱり魔界に居たからなのかな。そんな事を思いながら「いいえ...」って小さく言った。
さらに奥まで入ってい行くと大きな扉の前で止まった。そこの前に立っている天使に話し掛けると扉が開いた。広い石畳の広場の中央には噴水があって水がいくつも項を描いて吹き出していた。所々に花壇があり、綺麗な色の花達が歌っているように咲き乱れていた。その向こうには幾つもの扉が並んでて、リドルはその中の右から3番目の部屋の扉を叩いた。
中から返事が聞こえると扉を開けた。
「香澄さん入って」
って声を掛けられて先に入る様に手招きをされたので中に入ると銀髪の長い髪をした男の人が座って書類に目を通していた。
「アンソニー様連れてきました」
アンソニーは顔を上げると微笑んで
「ご苦労様」と言いながら立ち上がった。掛けていたメガネを外すと
「間中 香澄さん?」
と聞きながらコチラに近づいてくる。香澄はコクンと頷いた。
「君に会いたかったんだ」そう言って「どうぞ」と椅子に座るように促された。
「私に会いたかったって.....」
「天界人になる予定だった子が魔界にいただなんて、手違いも甚だしいね。とんだ迷惑だったね。魔界で不自由はしてなかったかい?」
「いいえ...」
「そりゃ良かった。それで、なんで魔界にいたかは話を聞いた?」
香澄は首を横に振りながら心臓がバクバク言い始めた。
とんでもない所に来てしまったんじゃないだろうか...緊張がMAX振り切れている。
「そう。君が一緒にいたラジルド君は黒羽族の生き残り?」
そう言われて香澄は息を飲んだ。『なんでラジルドの事を知ってるんだろう...』
「心配しなくても大丈夫だよ。僕はね、君の事を心配してるんだ。愛する人と引き離されて辛いんじゃないかって...それで、君は彼の黒い羽は見た事があるのかな?」
今度は香澄の目が開いた。警戒レベルMAXに到達している。そしてアンソニーはなおも言い募る。
「僕が助けてあげられないかなって...。ラジルド君も君に会いたいんじゃないのかな。僕だったら愛する人を奪われたら生きていけない...」
神妙な顔をしてアンソニーが話すと
「君も会いたいんじゃない?僕だったら会わせてあげられるけど...」
そう言った。
香澄は両手で口を抑えた。かすかに言った「うそ......」と言う言葉は再び息を飲む声にかき消された。
「先ずは天界人になる手続きを早めよう。そちらは僕がなんとかするからね。心配しなくても大丈夫だよ。君は今日から何かあるといけないからこの北の宮殿から出ないで貰いたいんだ。いい?」
「でもっ...」
「何も心配しなくていいよ、コチラの指示にしたがってくれれば君は愛するラジルド君とまた一緒に生活出来るんだ」
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