Soul

あくび

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香澄は天界より人間界に転生した。
転生した先は父は無く、母と2人の生活だった。
名前は小坂 夏澄。夏に産まれた夏澄はそう名付けられていた。
夏澄の母は18歳で夏澄を産んで、生活の為に夜の仕事に就いていた。
夕方になると夏澄は夜間の託児所に預けられる。母は仕事が終わると夏澄を迎えに託児所に来ると言う生活スタイルだったが、それも夏澄が4歳になる頃には1人で家で留守番をすると言うスタイルに変わって来た。
母は夏澄に自分の事を「真奈ちゃん」と呼ばせていた。
「真奈ちゃん...。お家が暗いよ」
「夜になったらお布団に入って寝ればいいじゃん」
「テレビも見れない?」
「そんなの見なくていいよ。夏澄は暗くなる前にご飯を食べたらお布団に入って寝てればいいから暗くなっても大丈夫だよ」
食卓の上にコンビニで買ってきたお弁当やオニギリをいくつか置いて何日も帰って来ないと言う日もあった。
夏澄は本当に手が掛からない子だった。
病気もしない。我が儘も言わない。母が居なくても寂しいとも言わないし、欲しい物があるとも言わない。電気が止まっても文句も言わないし、ほったらかしにして置いても泣かない大人しくて本当にお利口さんだった。
7歳になる頃には食卓にはお金が置いてあって、夏澄はそれを持って買い物に行ってお菓子や菓子パンやジュースで何日も1人で生活した。
たまに母が帰ってきた時に家が散らかっていると怒られたので 掃除は一生懸命した。
電話は持たされていたのでLINEでやり取りする。体調が悪い時、お金が無くなった時、誰か家に来た時などLINEで決められたスタンプを押して知らせる。LINEでスタンプを押せば母が帰って来る事を覚えてから 何回もスタンプを押して母にこっ酷く怒られたので押すのを止めた。
10歳になる頃、夏澄は何でも出来る様になっていた。
学校から帰ると干している洗濯を取り込んで畳む。勉強しながら次の洗濯物を干してそれが終わったら何時も早い時間から寝る。その頃は母は昼間は家にいた。しかし夏澄が帰ってくる頃には綺麗にお化粧をして出ていく生活は変わらなかった。
学校が休みの日は夕方気だるそうに起きてきた母に学校での出来事を話して「五月蝿い!」と言われたので話さない事にした。
そして夏澄は『この人には何を言ってもダメなんだ』と思う様になって来て、母に関わる事を辞めた。


夏澄は小さい頃から良く夢を見た。
母が家に帰って来なくても夢の中には家族がいた。
夢の中のアミアンセという人は優しくて何時も夏澄を抱っこしてくれた。アミアンセと言う名前が難しくて その人の事をママと呼んだ。パパは凄く格好いい人で夏澄の自慢のパパだ。でも昼間に会う時は包帯グルグル巻きのミイラ男に代わっている。兄だと名乗る三つ子の兄は何時も騒がしかったが代わる代わる夢の中で勉強を教えてくれたり、一緒に遊んでくれた。この兄も昼間に会う時は包帯グルグル巻きに変わっていた。
夏澄は小さい頃から夜寝ると何時も大きい部屋の大きいベットの上で目が冷める。
目が覚めると何時もご飯が出来ていてそれをパパとママとお兄ちゃん達と食べる所から夢は始まる。
小学校に上がるまでは日常生活に困らない様にと夢の中で家族が歯磨きを教えてくれたり、手洗いうがい、トイレの使った後の事、ご飯を食べる時のマナーなど 全ての躾をしてくれた。
小学校に上がると休みの日以外は夜にしか皆に会えなかったが 今日あった出来事を話したり、面白かった事、大変だった事。先生に叱られた話もした。運動会の前には早く走れるように三つ子達が特訓もしてくれた。誕生日は勿論アミアンセの手作りのケーキでお祝いしたし、皆の誕生日もお祝いした。クリスマスもお正月も魔界には無い行事だが夏澄の為に皆でお祝いしてくれた。
病気の時はアミアンセが作ってくれた薬を飲んだ。足が痛い、お腹が痛いと言えば全部アミアンセが治してくれた。
温かい家族だった。夏澄は本当にこの人達が大好きで 眠ればこの人達に逢えるので寝るのが大好きな子供だった。
夢の中の家族が何時も夏澄の支えで、夏澄はいつしかこの家族と一緒に暮らしたいって思う様になっていた。夏澄にとってはこの家族が本当の家族だった。
そして、大好きなのはこの家族だけじゃなかった。
夕食が始まると必ずやって来るお兄ちゃんがいた。名前をラジルドと言ったが呼び方が難しいのでラジ君と呼んでいた。
毎日夏澄にお土産を買ってきてくれるラジルドは何時も夏澄を膝の上に乗せて甘やかす。甘やかし過ぎてパーシックとアミアンセから怒られていた。
欲しい物は何でも買ってくれたし、お風呂は何時もラジルドと一緒だった。
パーシックが「たまにはパパとも一緒に入ろう」と言っても「ダメだ」ってラジルドが速攻で断る。パーシックは呆れて声も出なかった。
「パパなのに...」
項垂れて見せてもフンッと横を見ている姿は誰が子供なのか...。
そして今日もラジルドは意気揚々と夏澄と一緒にお風呂に入る。
「夏澄、もし 万が一 僕がいなくても絶対絶対1人でお風呂に入るんだよ」
「ママとも入っちゃダメ?」
「うーーーーーん............。アミアンセ....なら.....ゆる.....す」
「.....解った。1人で入るよ」
「夏澄ちゃんいい子~」
...どっちが大人なのか?

******

ある日の食卓で、
「この家族が本当の家族だったら良いのにな」
「夏澄、夏澄は本当にこっちの世界に来たいかい?」
「うん。だって、皆がいるもん。私、皆と一緒にずっと居たい」
子供らしい普通の願いだった...。
「夏澄が本当に望めばこれるよ。その代わり、あっちのお母さんとはお別れだ。それでもいいの?」
「お別れでいいよ。真奈ちゃん 全然お母さんらしくない。産んで放ったらかし。こっちの家族が居なかったら私はとっくに死んでたよ...。」
「良く考えた方がいいよ。こっちに来たらもう今までいた所には帰れない」
「本当に望んだらこっちの世界に来れるんだったらそっちがいい。でもこれは夢でしょう?夢の中に来れるの?」
「来れるよ。夏澄が本気でこっちに来たいって思うんならね。先ずはあっちのお母さんに話してみないといけないね。お母さんが行ったらダメだって言ったらコッチには来れないからね」
「真奈ちゃん 言う訳ないよ。解った。真奈ちゃんと話してみる。誰か迎えに来てくれるの?」
「そうだね。それはお楽しみにしとこう」
パーシックはそう言って笑った。
夏澄は目が覚めた時に『真奈ちゃんと話してみよう』と考えていた。でも少し不安だった。だって夢の世界だから。
でも、もしかしたら夢の世界に行けるかもしれない。夏澄はチャンスを狙って話してみる決意をした。
夏澄は待った。機会は日曜日しかなく、母が出掛けなければ日曜日は家に居る。
しかし、今週の日曜日は母は友達と約束があると言って出掛けてしまったので母が家に居る日曜日を待った。
それは思いがけない時にやって来た。平日なのに家に居る母を見て「今日はお仕事に行かないの?」と聞いてみた。
「今まで行ってた所を辞めちゃったのよね~。明日から違う所に仕事に行く事になってるから」
と言った。『チャンスだ!』と思った。
「真奈ちゃん、真奈ちゃんは私がいない方がいい?」
「あんた早く中学卒業して出て行って欲しいわぁ~。あんたが居なかったらさ、私 いい男捕まえて結婚すんだけど」
笑いながらそう言った。
「.....どうして私を産んだの?」
「出来たからしょうがなかったんじゃん」
「そっか...。真奈ちゃん。私、消えて居なくなってもいい?」
「あははは。そうして欲しいよ。そしたら自分だけの生活になって楽だね」
「私 本気だよ」
「こっちだって本気だよ。夏澄のせいで色々コッチも我慢してる事が多いんだって、居なかったらとっくにいい生活してるよ」
「そっか...。解った。真奈ちゃん、あんまりお母さんらしくないけど、色々してもらった思い出もないけど、今までお世話になりました」
「随分生意気じゃん。どこ行くって言うのさ。誰のお陰で生きて来られてんだか解って言ってんの?」
「放ったらかされて生きてきた思い出しかないよ。しょうがないって我慢してだだけ」
「へぇ~、んじゃ今すぐ出てってよ。何処にでも行きな。携帯もお金も全部置いていって」
母はそう言うと夏澄の腕を掴んで外にグイグイと引っ張った。そして外に夏澄を放り投げると玄関のドアを閉めて鍵をしてしまう。
「今さら冗談とか言うの無しだから、あんたがいたせいでどんだけコッチが我慢したと思ってんのよ。1人で生きてきた様な顔すんのやめてよね」
その後、ランドセルや教科書が窓から外に放り出され、夏澄は泣きながらそれを拾い集めた。虚しかった。嘘でも良いから止めて欲しかったのもある。まだ幼い夏澄にとって『いらない』と言われた事がどれだけショックな事か...。
『帰りたい。パパとママの所に行きたい』そう思いながらアパートの前の細い道を広い通りに向けてトボトボ歩いた。『行きたい。あの世界に行きたい...。でも行ける訳がない』そう思いながらも行く宛もなく歩く。夏澄の足は裸足だったし部屋着だった。

「夏澄」
と呼ばれて顔を上げると、そこには夢の中でしか会えなかったはずのラジルドが立っていた。
「え?嘘......。本当に?本当に夢の中に行けるの?」
夏澄はそう言って走ってラジルドの胸に飛び込んだ。そしてそのまま抱きついてワンワン泣いた。
「嘘じゃないよ。ずっと夏澄を待ってた。夏澄が来てくれるのを待ってた」
ラジルドは夏澄を抱きしめたままずっと頭を撫でた。

ひとしきり泣いたらラジルドが「行こっか」って声をかけてくれた。「何処に?」って聞かなくても解る。あの温かい場所に行ける。もう夢の中のだけじゃない。ずっとあの人達と一緒に居れるんだと思うと嬉しくなった。
背負っていたランドセルは「ちょっと待ってて」と言って走ってアパートまで戻り玄関の前に置いた。ランドセルはもういらない。


「おかえり」
「ただいま」
2人は笑顔だった。
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