枝垂れ桜Ⅱ

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話し合いが終わった後、水府 龍神 風来の3人はそれぞれの領地に帰って行った。産土で発情期を過ごしたのは空也と勿論だが鷹亮だけだった。

発情期が終わり、部屋に帰った鷹亮は署名をされていない巻子を見てため息をつく。

「なかなか闇が深いですね~」

そう言った鷹亮に家臣から報告が来た。
志帆が消えた...と。

「はぁ...そうですか。飲まれましたか...」

「どうしましょうかねぇ~...」

鷹亮は「うーん...」と唸りながら考える。
『とりあえず、話が先に進みませんね...風来が返事を待ってるでしょうから、そっちを動かしますか...』

鷹亮は筆を持った。

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「ととたー、だだまぁー」
仁の帰りを待ちわびていたのは娘の美咲だった。
「ととたー、かえりぃー」

美咲を抱き上げた仁は「ただいま 美咲。いい子にしてた?」そう言うと「うん」と返事が帰って来た。

「ほんとかぁ~?」と言いながら美咲をくすぐると
「キャー」っと言いながら身体をよじりキャッキャとはしゃぐ美咲。

「ととた、もっかいちて(もう一回して)」と美咲が催促すると、仁は「どらどら」と言いながら美咲をまたくすぐった。


仁が風来に帰宅して5日後、産土から書簡が届いた。
内容を呼んだ仁はため息をつく。

空也の顔が浮かぶともう1度ため息を着いた。

『空也が署名を拒否した...』
多分、自分が火炎に乗り込んで行ったとしても余計に事がこじれる気がする...。と仁は思った。どうするか頭を悩ませる。

その時、久我の孔宇の顔が浮かんだ。
『行ってみるか』
仁は立ち上がった。

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志帆を連れた空也は以前 由花に与えた家の前にいた。
結構長い距離を走って来たので 志帆は酔ってしまってグッタリしていた。

由花が居なくなって4年程過ぎた その間誰も住んでなかった家の中に入る。
あの時鈴音が壊した雨戸は綺麗に直してあり、度々空気の入れ替えをされていた家の中は直ぐに生活が出来る様になっていた。

グッタリした志帆を布団に寝かせると「水を飲むか?」と聞いた。
コクンと頷いた志帆を起こして水を与える。
「空...あれが欲しい...」
そう言う志帆に「やめとけ。あれは発情期の時だけにしとけ」と言うと志帆の表情が強ばる。
「お願い...気分が悪いの...発情期まで我慢するから...今だけ...少しでいいの」
そう言い募る志帆に空也は根負けして
「これで最後だぞ」
と言いながら丸薬を飲ませた。

程なくしてすっかり気分が回復した志帆は
「空也も飲んで ねぇ、お願い」
そう言いながら空也の顔や唇や首にキスをする。べったりと甘える志帆に、空也は口付けをした。舌と舌を絡ませながら熱い口付けを交わすと、堪らなくなって来た志帆が着物を脱ぎ始めた。

「おいおい、勘弁してくれ」
空也がそう言うと、空也の反応して無い逸物を志帆が口に咥えた。

「ねぇ、ダメ?」
志帆が上目遣いでおねだりをする。
「ダメだな。今日は貼り型で我慢しとけ」
と空也が言った。

「何でもいい...」と言いながら熱い吐息を吐く志帆に
「お前、気分が良くなったんなら飯作って風呂沸かせ」
「え?そんなのって使用人の仕事なんじゃないの?」
「使用人なんか居るわけないだろう」
「なんで?空也はカエンの長なんじゃないの?」

志帆からそう言われた空也は黙って立ち上がった。
「どこ行くの?」
「飯と風呂」
短く言い切った空也に
「直ぐに帰って来てね」
と言って志帆は送り出した。

空也は外に出ると
『思っていたのと違う...』と連れて来たばかりだと言うのにそう思った。

由花の事を思い出した。
そして、由花を奪って還さなかった仁の事を腹立たしく思った。
『クソ、風来のせいで...』

空也の中の闇が更に広がる。

近所の輝の家に行った空也は「死なない程度に世話をしておけ」と一言言うと 本宅に向けて走り出した。
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