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だが、そんな律の歩みがぴたりと止まった。
いや、止められた。
「やだ、律くんじゃない! こんなところで何してるの!?」
きゃあっと黄色い声を上げる女子の集団が進路をふさいだのだ。彼女たちの目には入らなかったのだろう、花音は輪からはじき飛ばされて蚊帳の外である。
(な、何!? 何が起こるの?)
女子生徒達は口々に何か言っているようで、断片しか聞き取れない。「かわいい」とか「今何してるの?」とか聞こえてくるので、嫌がらせを受けているわけではなさそうだ。
というより、これはむしろ「もてている」という状況なのではないだろうか。
改めて考えてみると、律は変わってはいるが顔の造作はハイレベルだし、取っつきにくい一面はあるが、話してみれば親切だ。だから、この状況はもっともと言えばもっともだし、勝手に友達がいなそうだと思っていた花音は密かにほっとした。
だが、そんな中でも律の表情は一向に変わらない。ようやく口を開いたと思ったら、「今、急いでるから」の一言だったので花音はぎょっとしてしまう。
(ちょ、ちょっと律!? そんなこと言ったら――)
反感を買うのでは、と心配したが、予想に反してそんなことにはならなかった。
「もう、律くんてば。いつもそればっかり!」
「やだあ。照れてる照れてる。かっわいい!」
逆に盛り上がってしまった。今度は律の機嫌の方が気になってしょうがない。
まだ知り合ってから数十分。無表情が崩れたところをほとんど見たことがない。けれど、律はこういう風に騒がれるのを好むタイプだとは思えなかった。人垣の合間からのぞいてみると、かすかに表情が険しくなっている――ように見えた。
(あああ。イラついてる。たぶんイライラしてるよ、あれ!)
おそらくこのカンは外れていない。もうこれ以上刺激しないで、と花音は心中で願ったが、残念ながら彼女たちには届かない。割って入ろうかどうしようか迷っている間に、律が少し大きな声を出した。
「悪いけど、ほんとに急いでるから」
「えー? じゃあさあ、今度みんなでカラオケ行かない? そしたら、ここ、通してあげる」
よりによってカラオケとは。
律の正面にいた長い髪の生徒が、理不尽すぎる交換条件を出した。そして、小悪魔的な笑みを浮かべて少しずつ距離を縮めていく。
あそこまで詰め寄られたら、さしもの律も観念して世にも似合わないカラオケにつきあうしかあるまい。花音は思わず合掌した。
しかし、律は特にいらだちを露わにするでもなく、ただ雨を受けとめるかのように両手をあげただけだった。正面の女子生徒だけでなく、花音もきょとんとする。
「手を洗いに行くから、そこどいて」
「え? 手を? なんで?」
「――さっきまで、カエルの解剖してたから」
「――……」
律の周囲が静まりかえった。次の瞬間、女子生徒達が一斉に悲鳴をあげた。
廊下にあふれていた生徒達が、つられて恐慌状態に陥る。律はそんな混乱の中、人垣をすり抜けるようにして廊下を突き進み、階下へ消えた。
眠そうな表情に似合わず、リスのように俊敏な動きだった。
花音は我に返ると、生徒達の合間を縫ってなんとか前に進む。その際、落ち着きを取り戻したらしい女子生徒達のつぶやきが耳に入ってきた。
「な……っ、なんなのあれ。ほんと、つきあい悪い!」
「せっかく構ってあげてるのに。大体、気持ち悪いのよねあの趣味」
「親と関係が悪いっていうのも、あれが原因なんじゃないの」
(? 律のこと、だよね……?)
気にはなったが、こんな状態で律と離れるのはまずい。花音は先を急いだ。
いや、止められた。
「やだ、律くんじゃない! こんなところで何してるの!?」
きゃあっと黄色い声を上げる女子の集団が進路をふさいだのだ。彼女たちの目には入らなかったのだろう、花音は輪からはじき飛ばされて蚊帳の外である。
(な、何!? 何が起こるの?)
女子生徒達は口々に何か言っているようで、断片しか聞き取れない。「かわいい」とか「今何してるの?」とか聞こえてくるので、嫌がらせを受けているわけではなさそうだ。
というより、これはむしろ「もてている」という状況なのではないだろうか。
改めて考えてみると、律は変わってはいるが顔の造作はハイレベルだし、取っつきにくい一面はあるが、話してみれば親切だ。だから、この状況はもっともと言えばもっともだし、勝手に友達がいなそうだと思っていた花音は密かにほっとした。
だが、そんな中でも律の表情は一向に変わらない。ようやく口を開いたと思ったら、「今、急いでるから」の一言だったので花音はぎょっとしてしまう。
(ちょ、ちょっと律!? そんなこと言ったら――)
反感を買うのでは、と心配したが、予想に反してそんなことにはならなかった。
「もう、律くんてば。いつもそればっかり!」
「やだあ。照れてる照れてる。かっわいい!」
逆に盛り上がってしまった。今度は律の機嫌の方が気になってしょうがない。
まだ知り合ってから数十分。無表情が崩れたところをほとんど見たことがない。けれど、律はこういう風に騒がれるのを好むタイプだとは思えなかった。人垣の合間からのぞいてみると、かすかに表情が険しくなっている――ように見えた。
(あああ。イラついてる。たぶんイライラしてるよ、あれ!)
おそらくこのカンは外れていない。もうこれ以上刺激しないで、と花音は心中で願ったが、残念ながら彼女たちには届かない。割って入ろうかどうしようか迷っている間に、律が少し大きな声を出した。
「悪いけど、ほんとに急いでるから」
「えー? じゃあさあ、今度みんなでカラオケ行かない? そしたら、ここ、通してあげる」
よりによってカラオケとは。
律の正面にいた長い髪の生徒が、理不尽すぎる交換条件を出した。そして、小悪魔的な笑みを浮かべて少しずつ距離を縮めていく。
あそこまで詰め寄られたら、さしもの律も観念して世にも似合わないカラオケにつきあうしかあるまい。花音は思わず合掌した。
しかし、律は特にいらだちを露わにするでもなく、ただ雨を受けとめるかのように両手をあげただけだった。正面の女子生徒だけでなく、花音もきょとんとする。
「手を洗いに行くから、そこどいて」
「え? 手を? なんで?」
「――さっきまで、カエルの解剖してたから」
「――……」
律の周囲が静まりかえった。次の瞬間、女子生徒達が一斉に悲鳴をあげた。
廊下にあふれていた生徒達が、つられて恐慌状態に陥る。律はそんな混乱の中、人垣をすり抜けるようにして廊下を突き進み、階下へ消えた。
眠そうな表情に似合わず、リスのように俊敏な動きだった。
花音は我に返ると、生徒達の合間を縫ってなんとか前に進む。その際、落ち着きを取り戻したらしい女子生徒達のつぶやきが耳に入ってきた。
「な……っ、なんなのあれ。ほんと、つきあい悪い!」
「せっかく構ってあげてるのに。大体、気持ち悪いのよねあの趣味」
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(? 律のこと、だよね……?)
気にはなったが、こんな状態で律と離れるのはまずい。花音は先を急いだ。
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