真夏の笛に 新月の舞う

水戸けい

文字の大きさ
50 / 82
第八章

「俺は、俺の心に従って動いている。誰に命じられたわけでもなく」

しおりを挟む
 それはそうだろう。この場にあって取り乱すことなく、そんなことを考える新参の家人など、怪しいに決まっている。

「俺を、柳原の手の者だと疑っているのか」

 芙蓉のこめかみが、ピクリと動いた。

「この状況で、この状態だ。疑われるのも仕方が無い」

 芙蓉は笑みを消し、あからさまに怪しむ顔になった。

「何者なのです」

「少なくとも、柳原の手の者じゃない」

 芙蓉の顔に、信用できないと書いてある。軽く肩をすくめて、真夏は正体を少しだけ明かすことにした。

「役職に空きがなく、無位無官のまま過ごしている者がいることは、知っているだろう? そういう者らの集まる会がある。その中で、朔姫の別荘行きの話が出た。変わり者と名高い姫は、どういう方なのか興味があったんだ。それで、好奇心からツテをたどって加わった」

 前面に嫌悪を押し出した芙蓉に、真夏は軽く手を振った。

「はじめは面白半分だったが、今は違う。真剣に、姫の力になりたいと思っている。たしかに姫は変わり者だが、俺はそこが好ましい。あれやこれやと手を尽くし、男の気を引こうとする姫や、そのようにと求められるがままの姫が悪いとは思わないが、俺には里の子どもたちにも平気な顔をして接する、姫の屈託の無さが愛おしい。そう思う俺も変わり者だとは思うが、そんな変わり者の俺がこの場に居合わせたのも、何かの巡り合わせだろう。俺には柳原家に対抗しうるような権力も、財力も無い。だが、この場でどのようにすればいいかの差配は出来る。――芙蓉殿」

 真夏が足を踏み出せば、芙蓉はわずかに下がった。警戒をにじませたままの芙蓉に、膝を着いて胸に手のひらを当てた。

「俺は、俺の心に従って動いている。誰に命じられたわけでもなく」

 朔に文を読んでもらうには、芙蓉と仲良くなればいい。そんなことを思っていた自分を、真夏は笑った。そんな気持ちで膝を折っているわけではない。彼女とは、朔という大切な人を守るため、力を合わせるべきである。そのために真夏は、芙蓉にひざまずいている。

「姫を愛おしく、大切に思う気持ちは同じかと」

 芙蓉はじっと真夏を見下ろし、やがて硬い息を吐いた。

「都からの雇い入れの話を受けるように言ったのは、貴方だそうですね」

 真夏はうなずいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

処理中です...