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第十章
(まずは、官職を得ることだ)
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穴多は湖の向こうの土地から届く、さまざまなものが水揚げをされる場所だ。己の懐を豊かにする抜け道は、いくらでもあるのだろう。
穴多守は、当初は熱心に朔の感心を引こうとしていた。けれど彼女の父が失脚したと知ってからは、手のひらを返したように様子見の者をよこさなくなった。それどころか、居丈高になった。
(わかりやすい男だ)
だから地方官なのだろうと、真夏は思う。中央政権の中にいれば、わかりやすさは上へ昇るのに邪魔となる。誰もが腹の探りあいをし、本音はごく一部の限られた人間にしか漏らさないというのが、常識の世界だ。
だからこそ、ウワサや憶測が広まりやすい。
そんな中では、穴多守のような男は、あっという間に転落をしてしまうだろう。理財の才はあるようだが、旺盛な出世欲がそれを邪魔しているらしいと、真夏は見て取った。
(だが、俺はその穴多守ほどの力すらも持っていない)
血筋が良いというだけで、何の力も持たない自分をはがゆく思う。朔を支えられる力を得なければと、拳に決意をこめた。
朔は子どもの摘んできた野花に目をかがやかせている。湖面にきらめく光に照らされている朔は、ほんとうに美しい。彼女の笑顔を曇らせないために、自分は何が出来るだろうかと考えた。
(まずは、官職を得ることだ)
朔をはじめ別荘の者たちが、いつまでもここで暮らすというわけにはいかないだろう。頃合を見て、都に戻るはずだ。それと共に、自分も都に戻る。いや、それでは遅いかもしれない。今すぐにでも都に戻り、父や兄、友人や大学寮の講師らを頼って、何でもいいから官位と役職を手に入れるための活動をしなくては。けれどそうなれば、彼女を誰が守るのだろう。
今、別荘に残っている者は少数。武術の心得のある者は、片手で数えるほどしかいない。自分が消えて、大丈夫なのだろうか。父か兄に頼み、自分の変わりになる誰かを雇ってもらおうか。いや、彼女の元へ行くと知って、よからぬことを考える者がいるかもしれない。零落した姫ならば、無礼を働いてもかまわないだろうと、高嶺の花であった朔を手折ろうとする者がいるかもしれない。
穴多守は、当初は熱心に朔の感心を引こうとしていた。けれど彼女の父が失脚したと知ってからは、手のひらを返したように様子見の者をよこさなくなった。それどころか、居丈高になった。
(わかりやすい男だ)
だから地方官なのだろうと、真夏は思う。中央政権の中にいれば、わかりやすさは上へ昇るのに邪魔となる。誰もが腹の探りあいをし、本音はごく一部の限られた人間にしか漏らさないというのが、常識の世界だ。
だからこそ、ウワサや憶測が広まりやすい。
そんな中では、穴多守のような男は、あっという間に転落をしてしまうだろう。理財の才はあるようだが、旺盛な出世欲がそれを邪魔しているらしいと、真夏は見て取った。
(だが、俺はその穴多守ほどの力すらも持っていない)
血筋が良いというだけで、何の力も持たない自分をはがゆく思う。朔を支えられる力を得なければと、拳に決意をこめた。
朔は子どもの摘んできた野花に目をかがやかせている。湖面にきらめく光に照らされている朔は、ほんとうに美しい。彼女の笑顔を曇らせないために、自分は何が出来るだろうかと考えた。
(まずは、官職を得ることだ)
朔をはじめ別荘の者たちが、いつまでもここで暮らすというわけにはいかないだろう。頃合を見て、都に戻るはずだ。それと共に、自分も都に戻る。いや、それでは遅いかもしれない。今すぐにでも都に戻り、父や兄、友人や大学寮の講師らを頼って、何でもいいから官位と役職を手に入れるための活動をしなくては。けれどそうなれば、彼女を誰が守るのだろう。
今、別荘に残っている者は少数。武術の心得のある者は、片手で数えるほどしかいない。自分が消えて、大丈夫なのだろうか。父か兄に頼み、自分の変わりになる誰かを雇ってもらおうか。いや、彼女の元へ行くと知って、よからぬことを考える者がいるかもしれない。零落した姫ならば、無礼を働いてもかまわないだろうと、高嶺の花であった朔を手折ろうとする者がいるかもしれない。
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