70 / 82
第十一章
ぞわりと朔の肌に怖気が走る。
しおりを挟む
彼の音は、朔の笛に寄り添い支えるように響いていた。けれど今の音は、こちらの意図など気にする様子もなく、まとわりついてくる。
(一体、誰の笛なのかしら)
その疑問は、すぐに溶けた。朔と同じ年頃の公達が姿を現し、ずけずけと遠慮もなしに部屋に上がった。
芙蓉が慌てて朔の前に身を出して、入ってきた男をにらみつける。
「失礼ではありませんか!」
声を尖らせる芙蓉に、男は軽く眉を上げた。面長の男らしい顔つきの男は、その顔つきに似つかわしい大きな体躯をしていた。切れ長の目は相手を射竦める光を放つに足る鋭さを持ち、人を従える事に慣れている雰囲気をかもしている。
「無粋な事を。前に出てかばうということは、あなたが朔姫付きの女房、芙蓉か。なるほど、美しいな」
「あっ」
男は芙蓉のあごに手をかけ、まじまじと顔を覗きこんだ。
「姫と俺が夫婦になった後、妾にしてやってもいい」
逃れようとする芙蓉を難なく押さえ込む男に、朔は体当たりをした。
「やめて! 何を言っているの。あなたは何者です」
男はびくともせずに芙蓉を離し、朔を見る。偉丈夫という言葉そのものな男のまとう獰猛さに、すくみそうになる身を必死に奮い立たせ、朔は思い切りにらみつけた。
「そちらが変わり者とウワサの高い、朔姫か。その名の通り、かぐや姫と対を成せるほど美しいと聞いていたが」
じろじろと朔を値踏みするように見た男が、にんまりとした。
「なるほど。俺の妻にふさわしい容色だな」
ぞわりと朔の肌に怖気が走る。
「誰が、誰の妻というのです」
「申し送れた。俺は柳原道章。柳原公忠の三男で、あなたの夫になる男だ」
「なんですって」
ずい、と道章が朔に迫る。美男と呼べなくも無いが、真夏とは間逆の種類だ。屈服させることに慣れている、相手の気持ちをかんがみることのない態度に、朔はのけぞった。
「あなたの母に、父上は恋心を残しておられる。自分の叶えられなかった悲恋を、息子に託そうとしているのだ」
(一体、誰の笛なのかしら)
その疑問は、すぐに溶けた。朔と同じ年頃の公達が姿を現し、ずけずけと遠慮もなしに部屋に上がった。
芙蓉が慌てて朔の前に身を出して、入ってきた男をにらみつける。
「失礼ではありませんか!」
声を尖らせる芙蓉に、男は軽く眉を上げた。面長の男らしい顔つきの男は、その顔つきに似つかわしい大きな体躯をしていた。切れ長の目は相手を射竦める光を放つに足る鋭さを持ち、人を従える事に慣れている雰囲気をかもしている。
「無粋な事を。前に出てかばうということは、あなたが朔姫付きの女房、芙蓉か。なるほど、美しいな」
「あっ」
男は芙蓉のあごに手をかけ、まじまじと顔を覗きこんだ。
「姫と俺が夫婦になった後、妾にしてやってもいい」
逃れようとする芙蓉を難なく押さえ込む男に、朔は体当たりをした。
「やめて! 何を言っているの。あなたは何者です」
男はびくともせずに芙蓉を離し、朔を見る。偉丈夫という言葉そのものな男のまとう獰猛さに、すくみそうになる身を必死に奮い立たせ、朔は思い切りにらみつけた。
「そちらが変わり者とウワサの高い、朔姫か。その名の通り、かぐや姫と対を成せるほど美しいと聞いていたが」
じろじろと朔を値踏みするように見た男が、にんまりとした。
「なるほど。俺の妻にふさわしい容色だな」
ぞわりと朔の肌に怖気が走る。
「誰が、誰の妻というのです」
「申し送れた。俺は柳原道章。柳原公忠の三男で、あなたの夫になる男だ」
「なんですって」
ずい、と道章が朔に迫る。美男と呼べなくも無いが、真夏とは間逆の種類だ。屈服させることに慣れている、相手の気持ちをかんがみることのない態度に、朔はのけぞった。
「あなたの母に、父上は恋心を残しておられる。自分の叶えられなかった悲恋を、息子に託そうとしているのだ」
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる