凪の潮騒

水戸けい

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「――宗也」

 声をかけてみればゆっくりと瞼を上げた宗也が、消えそうなほど淡い笑みを唇に乗せた。

「宗也が、父様の甥としてこの屋敷を支えていたのか」

「せっかくの膳を、冷ますつもりか」

 咎めるでもなく、問うでもない声に促されて椀を手にして箸をつける。朝と同じように作り物のように見える食事は、淡い旨味が後から追い掛けてくるようで、味わうごとに息が漏れた。

 そうして無言のままに食事を終えれば、宗也は私に湯呑と盃の両方を差し出してくる。湯呑を受け取れば、茶を注がれた。宗也も自分の湯飲みに茶を注ぎ、一口すすって息を吐く。ゆっくりと首をめぐらせ庭を見つめる動きに、つられるように庭に目を向けた。

 小石が敷き詰められている先には、小さな橋のかかる池がある。その先に見事な松の大木があり、低い木が同じ高さに揃えられて並んでいた。ここは、なんでも作り物のように行儀がよくて整いすぎている。天候や気温、季節によって変わる村の暮らしとは大違いに平坦なのだろう。

「宗也」

 庭を見たまま、声をかける。こんなに行儀のいい場所で、身代わりの生活を続けてきたからこそ、宗也は物の怪の類に見えてしまうほどに、生気を感じられなかったのではないか。

「ここにはどんなふうに、いつごろ連れてこられたんだ」

 庭を見たままの私の頬に、宗也の視線が触れた。ゆっくりと顔を向ければ、宗也が庭に顔を戻す。私も、庭に目を戻した。

「六つのころに、奥村が我が家にやってきた。俺の顔をまじまじと見て、よく似ていると頷いたかと思えば母に目を向けた。母は泣き出しそうな顔をして両手を出した。そこに、奥村の傍に控えていた男が重そうな袋を置いた。それを急いで開いた母が、ぶるぶると震えてふところにそれを隠したのを、憶えている。俺はそのまま奥村に手を引かれ、奥村の駕篭に乗せられ、ここに連れてこられた」

「家は、何をしていたんだ」

「田畑を、耕していた。――ここに連れてこられた折に、幼い俺は昔語りで聞く神か妖怪の屋敷なのだと思った。俺は、物の怪に連れてこられたのだと、思った」

「宗也は、私と同じ平民出身か」

 くすり、とかすかな笑みの音が聞こえて顔を向けた。

「伊佐は、もとは武家ここの生まれだ。俺とは、逆の立場になる」

「物心がついたときには、漁村にいた。そこでずっと生活をしてきたのだから、同じことだ」
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