凪の潮騒

「我が、死にたがっているように見えたか」
 声が、ほんの少しやわらかく感じるのは、気のせいだろうか。
「少なくとも、生きようっていう気配は、感じられないわね」
 声をかけた男は宗也と名乗り、興味本位からか私に口吸いをした。
「また、来よう」
 耳に触れた声に、ゾクリと腰が震えた。腰を抱いていた宗也の腕が離れ、足の力が抜けた私はストンとへたり込む。横を宗也が通りすぎ、足音が遠ざかっていく。けれど私は少しも動けないまま、放心したままで昇る朝の光を浴びていた。
 魂を抜かれるとは、こういうことをいうのだろうか――。
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