凪の潮騒

水戸けい

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 無言の宗也は、臍から傷跡へ唇をうつし、慈しむように――手負いの獣を同族が慰めるように舐めはじめた。内腿に手を差しこまれ、擦り合わせていた膝を素直に開ければ片足を抱え上げられた。まっすぐな視線を濡れた下肢にそそがれて、両手で顔を覆った。

「触れてもおらぬのに、ずいぶんと濡れているな」

「っ――言うな…………」

 下肢の茂みに、宗也の息があたる。ひくんと震えた私の媚肉は、愛液をこぷりとこぼした。

「ふむ……」

「あっ――ちょ、……っ」

 体を丸めるように膝を押し上げられ、尻が褥から浮く。陰口から尻までが宗也の目にさらされていることに、ふたたび蜜がこぼれ出て尻をつたった。

「ぁ、や――ぁ」

 ぬら、と尻を舐められて息をのむ。のんだ息は、すぐに熱い吐息となってこぼれ出た。尻から陰口にかけて、丹念に宗也が舐め上げるたびに奥が疼いてたまらない。早く、早く内側を掻きまわしてほしい――――。

「ふ、ぁ……っ、ん、ふ……ね、なり――ぁ、あ」

 手を伸ばし、宗也の髪を掴む。犬猫が水を飲むように、ぴちゃぴちゃと音をさせて愛液を舐めとる宗也は私の様子など意にも解さず、舐め続ける。そして

「ひっ――」

 つぷ、と尻に指を入れられ短い悲鳴を上げると、また宗也の感心したような声が聞こえた。

「尻も、ひくひくと物欲しそうにしておるから指を食ませてみれば……うまそうにしゃぶる」

「ぁ、や、ぁあ……っ、は、ぁ、そこっ、や」

 そんなところ、触れられたことも無い。ぞわぞわと悪寒と快感が同じ速度で背骨を走る。

「しっかりと銜え込んで、離さぬ」

「ぁあ――っ、は、ぁあ、あう」

 宗也の言うとおり、私の尻は指を強く締め付けて存在をはっきりと意識に伝えてきた。内壁を擦る指が進めば喜んで迎え入れ、後退すれば拒むように締め付ける。何度もそれを繰り返されるうちに、悪寒が消えて快感だけが全身に広がり始めた。

「尻が、良いか――」

「ぃ、ひ、ぁあう……んぁ、あっ、あ――」

 陰口から湧き上がる蜜を掬っては尻に塗り、指を増やして解されて、満たされているのにもどかしくて……気が、狂いそうだ。
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