16 / 75
想像をするだけで鳥肌が立ちそうになる。
しおりを挟む
呼ばれた公達たちは、互いに言葉を交わしあいつつ、姫の間をひらひらと舞っている。時折、武藤の頭領様へ酌をしに行ったりしているけれど、頭領様は彼らを皆、ご自身の御子であるかのように扱って、しだいに気を使って酌をしに行く人はいなくなった。にこにこと、皆の様子を眺めて手酌で盃を重ねている。
「今宵は、貴女のための宴だと、心を躍らせてまいりました」
そっと私にささやきかけてくる公達に、当たり障りのない笑みを浮かべる。朔――新月を指す名前の私を主役だと言って来たこの公達は、何度も目にしたことがある。たしか、御父上が右大臣でいらっしゃる――。
「朽木和正様、でしたわね」
「ああ、憶えてくださっていたのですね」
感極まったように、和正様が私の指先をそっと掴んだ。そりゃあ、覚えもするわよ。宴で顔を合わせるたびに、意味深な目を向けてくる、今を時めく出世頭。父君が右大臣であらせられるから、恋の相手に後見を求める必要も無い。容色に自信のある姫を持つ親なら、それとなく自分の娘を勧めてみることもある、なんて噂を姫同士の集まりで聞きつづければ、警戒をしなくっちゃって思うもの。
「見えぬ月を想うように、すげない貴女のことを、どれほど胸に描いたことか」
知ったこっちゃないわよ、なんて言えないから無言で笑みを顔に張り付けておく。すべての事をそつなくこなし、顔も悪く無い上に家柄も申し分なく財力もあるとなれば、もてはやされて当然なんでしょうけれど、あいにく私はそういうの、趣味じゃないのよね。恋に恋したり、愛しい人を思いすぎて袖を涙で濡らしたり、恋煩いで寝込んでしまうような繊細で可憐な姫君たちとは違うのよ。
「今宵は、ゆるりと語り合いたいものです」
何を、なんて野暮なことは聞かない。男女のささやきを交わす相手としては、世間一般からしたら不足が無いどころか十分に過ぎるんでしょうけれど、想像をするだけで鳥肌が立ちそうになる。
「そのような、ことは」
恥ずかしげに目を伏せて、扇を二人の顔の間に差し込む。こうすれば、私がかわいらしい姫君という印象で終わるし、相手の自尊心も傷つけない。さ、他の花の元へ飛んで行ってちょうだい。貴方という蝶が止まるのを、待っている姫は他にいるんだから。
「私の文は、貴女に届いていないのでしょうか」
ぎゅ、と指を握りしめられる。おっと、引いてはくれないわけね。
「――いただく文は、どれも素晴らしく……返書をしたためるのにもためらわれるほどで…………」
「今宵は、貴女のための宴だと、心を躍らせてまいりました」
そっと私にささやきかけてくる公達に、当たり障りのない笑みを浮かべる。朔――新月を指す名前の私を主役だと言って来たこの公達は、何度も目にしたことがある。たしか、御父上が右大臣でいらっしゃる――。
「朽木和正様、でしたわね」
「ああ、憶えてくださっていたのですね」
感極まったように、和正様が私の指先をそっと掴んだ。そりゃあ、覚えもするわよ。宴で顔を合わせるたびに、意味深な目を向けてくる、今を時めく出世頭。父君が右大臣であらせられるから、恋の相手に後見を求める必要も無い。容色に自信のある姫を持つ親なら、それとなく自分の娘を勧めてみることもある、なんて噂を姫同士の集まりで聞きつづければ、警戒をしなくっちゃって思うもの。
「見えぬ月を想うように、すげない貴女のことを、どれほど胸に描いたことか」
知ったこっちゃないわよ、なんて言えないから無言で笑みを顔に張り付けておく。すべての事をそつなくこなし、顔も悪く無い上に家柄も申し分なく財力もあるとなれば、もてはやされて当然なんでしょうけれど、あいにく私はそういうの、趣味じゃないのよね。恋に恋したり、愛しい人を思いすぎて袖を涙で濡らしたり、恋煩いで寝込んでしまうような繊細で可憐な姫君たちとは違うのよ。
「今宵は、ゆるりと語り合いたいものです」
何を、なんて野暮なことは聞かない。男女のささやきを交わす相手としては、世間一般からしたら不足が無いどころか十分に過ぎるんでしょうけれど、想像をするだけで鳥肌が立ちそうになる。
「そのような、ことは」
恥ずかしげに目を伏せて、扇を二人の顔の間に差し込む。こうすれば、私がかわいらしい姫君という印象で終わるし、相手の自尊心も傷つけない。さ、他の花の元へ飛んで行ってちょうだい。貴方という蝶が止まるのを、待っている姫は他にいるんだから。
「私の文は、貴女に届いていないのでしょうか」
ぎゅ、と指を握りしめられる。おっと、引いてはくれないわけね。
「――いただく文は、どれも素晴らしく……返書をしたためるのにもためらわれるほどで…………」
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる