新月のかぐや

水戸けい

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近貞の事ばかりを考えて、いつの間にか忘れていた。

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 そっと、胸に抱きしめたままの文を広げて見つめる。私を案じてくれている文面に、騙したことへの申し訳なさと、気にかけてくれていることへの喜びが同時に湧き起こる。

 ――俺の所為で、寝込ませた?

 不安そうな久嗣の顔を、思い出す。そうか、そうよね。あの後だから、そう思っても仕方が無いわよね。なんだか少し気の毒な事をしたな。でも、あんな酷いことを……。

 酷いこと?

 ふと、首をかしげた。

 私は、久嗣のあの行為の事を、どう思っているんだろう。近貞の事ばかりを考えて、いつの間にか忘れていた。久嗣が頬に触れるまで、すっかり忘れてしまっていた。

 そっと、頬に指を当てる。とっさに身構えてしまったけれど、怖いとも嫌だとも思わなかった。

「よくわからない」

 自分も、久嗣がどうしてあんなことをしたのかも。

 大切に、近貞からの文を今までの文の上に重ねてしまう。少し見つめてから蓋をして、横になった。

 心が少しだけほぐれて、眠気がひたひたとやってくる。それに身を委ねれば、ゆっくりと体が泥のように重くなって、沈んでいく感覚があって、瞼の裏が赤くなって目を開ければ、朝日が差しこんでいた。

 久しぶりに眠った感覚があって、すっきりしている。腕をうんと上げて伸びをして、しばらくすれば雨戸を開けに萩がやってきた。

「まあ。姫様――昨夜は、よく眠れたようにございますね」

 頷くと、嬉しそうな萩が雨戸を全て開け放ち、朝の光が部屋に沢山入り込んできた。野山のような庭の緑が輝いていて、まぶしさに目を細める。髪を梳かし着替えを済ませ、身支度を終えると忙しそうに朝餉の用意に向かう萩に、もう一人くらい女房がいないと、大変なんじゃないかしらと思いつく。

 しばらくして朝餉の膳を手にもどってきた萩にそれを言うと、近くの里の者たちが下男下女のようなことをしてくれているから、問題は無いと返された。

「ああ、そうそう、姫様。昼ごろに警護の者たちをまとめる役を担う方が新しくいらっしゃり、その方が到着後に姫様の加減が良い折にでも挨拶をしたいと申されているそうなのですが、いかがなさいますか」

 どきん、と胸が跳ねた。久嗣の言葉を思い出す。もしかして、という期待が顔に出てしまったらしい。にんまりと笑った萩が、到着なさいましたらお知らせに上がりますねと言った。
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