新月のかぐや

水戸けい

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「三日夜の餅を準備せねばなりませんね」

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 雨戸をあける音に目を覚ます。体が重いのに、ふわふわとしていて変な感じ。

「おはようございます」

 元気な萩の声に体を起して、昨夜の事は夢だったんじゃないかと思いつつ、繋がった名残りのような感覚が残っていることに、唇が緩んだ。

「良い夢でも、ご覧になられたのですか」

「夢で終わりたくないことが、あったの」

「では……」

 期待を込めた萩の目に頷いて見せると、感激したように胸の前で手を握った萩が

「三日夜の餅を準備せねばなりませんね」

 新婚三日目に食べる餅の話をしだして、気が早いとたしなめる。

「まだ、正式に妻となると決まったわけではないのだし」

「別の姫に通うそぶりでも、あるのですか」

 眉をひそめる萩に首を振り、近貞の兄君が私を求めているということが解決していないのだと告げれば、唇を尖らせた萩が難しゅうございますねとつぶやいた。

 想いを重ねていたとしても、諦めなければならないことも多い世の中。家の為となれば、近貞も強く言うことは出来ないはず。父様はきっと、私の気持ちを尊重して下さるだろうけれど、武藤家の頭領様がそうだとは言えない。一代で財と武力を駆使して上り詰めた方が、御家おんけを安泰にするために使えそうな婚儀を、甘く見るとは思えない。

「何か、手立てがあれば良いのですが」

 沈んでしまった萩の手を、そっと握った。

「ここにいる間だけでも、近貞に愛され続けられるように、取り計らってほしいの」

「そんな――。それは、もちろんのことですとも」

「ありがとう」

 何か言いたげな萩の言葉を、笑みで制して庭に目を向ける。手入れの行き届いていない、草の生え放題な野山の庭は、緑の上に光の粒を舞い踊らせているようで、共にたわむれたいと思った。

「外に、出てみたいわ」

「駕篭を、用意いたしますか」

 首を振って

「歩きたいの」

 言えば、萩が何かを思いついたらしく、朝餉を用意してくるついでに散歩に出られるよう手はずを整えておきますと、去って行った。その背中を見送り、庭に目を向ける。

 ここには、どのくらい住んでいられるのだろう。いつかは、帰らなければならない。けれどここにいれば、近貞と会うことが出来る。
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