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「ちょっと、うらやましいかも」
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さも、それを聞きに来たといわんばかりの態度に、ちょっとムッとする。
「答えを教えたら、不平等でしょう」
「それじゃあ、意味は無いだろう」
「無くは無いわ。……近貞は、不正をしてもかまわないと言っているの?」
「それは……」
言いよどんだ久嗣が、諦めたように呆れたように首を振り、頭の後ろで腕を組んだ。
「そういうの、嫌うお人だからなぁ」
「私も、そういうのは好きじゃないわ。それに、近貞ならきっと気付いてくれると信じているから、大丈夫」
確信を持って言えば、肩をすくめられた。
「やれやれまったく。そんじゃ、ま。満月の日までは文のやり取りも無いだろうし、会うのは宴の席でってことに、なるのかな」
「そうなるわね。――久嗣も、参加してみる?」
闇の中に戻ろうとする久嗣が振り向いて、やめとくよとつぶやいた。
「近貞様の妻になったら、俺の妻も同然だからね」
「どういう意味?」
「俺様は、近貞様の陰だから。死ぬまでずっと、傍にいるんだよ。――どんな時でもね」
語尾に艶めいたものを感じて、どきりとした。そういえば、近貞と繋がった時、きっかけを作ったのは久嗣で、それから終幕を迎えるまでずっと。ということは、これからも近貞と忍ぶ逢瀬をする時は、必ず久嗣がいると言う事になるの?
顔が熱くなる。思わず両手を頬に添えた私に、にんまりとして久嗣は姿を消した。久嗣が消えてしまった闇を見つめて
「ちょっと、うらやましいかも」
どんな時でも常に近貞の傍にいる久嗣に、嫉妬とも羨望とも違う凪いだ気持ちがこぼれ出た。
窓から見える月を眺める。
ふっくらとしはじめた月は、どんどんと丸みを増して輝きを強め、宵闇を照らす。
新月の名を持つ私の胸にふくらんだ輝く月を抱きしめて、そのかけらを届けてくれるはずの人を想う。近貞のくれた、近貞の文だけが収まっている文箱がわりの重箱を開け、全ての文を取り出して最初のものから広げては想いを確かめる。
誰かに見せれば、これのどこが恋文なのかと思うだろう。香を焚き染めているわけでも無く、趣向を凝らしているわけでもない紙に、飾り気のない言葉がつづられている。甘さも何もない文は、近貞の人柄そのものに思えて、愛おしい。
「答えを教えたら、不平等でしょう」
「それじゃあ、意味は無いだろう」
「無くは無いわ。……近貞は、不正をしてもかまわないと言っているの?」
「それは……」
言いよどんだ久嗣が、諦めたように呆れたように首を振り、頭の後ろで腕を組んだ。
「そういうの、嫌うお人だからなぁ」
「私も、そういうのは好きじゃないわ。それに、近貞ならきっと気付いてくれると信じているから、大丈夫」
確信を持って言えば、肩をすくめられた。
「やれやれまったく。そんじゃ、ま。満月の日までは文のやり取りも無いだろうし、会うのは宴の席でってことに、なるのかな」
「そうなるわね。――久嗣も、参加してみる?」
闇の中に戻ろうとする久嗣が振り向いて、やめとくよとつぶやいた。
「近貞様の妻になったら、俺の妻も同然だからね」
「どういう意味?」
「俺様は、近貞様の陰だから。死ぬまでずっと、傍にいるんだよ。――どんな時でもね」
語尾に艶めいたものを感じて、どきりとした。そういえば、近貞と繋がった時、きっかけを作ったのは久嗣で、それから終幕を迎えるまでずっと。ということは、これからも近貞と忍ぶ逢瀬をする時は、必ず久嗣がいると言う事になるの?
顔が熱くなる。思わず両手を頬に添えた私に、にんまりとして久嗣は姿を消した。久嗣が消えてしまった闇を見つめて
「ちょっと、うらやましいかも」
どんな時でも常に近貞の傍にいる久嗣に、嫉妬とも羨望とも違う凪いだ気持ちがこぼれ出た。
窓から見える月を眺める。
ふっくらとしはじめた月は、どんどんと丸みを増して輝きを強め、宵闇を照らす。
新月の名を持つ私の胸にふくらんだ輝く月を抱きしめて、そのかけらを届けてくれるはずの人を想う。近貞のくれた、近貞の文だけが収まっている文箱がわりの重箱を開け、全ての文を取り出して最初のものから広げては想いを確かめる。
誰かに見せれば、これのどこが恋文なのかと思うだろう。香を焚き染めているわけでも無く、趣向を凝らしているわけでもない紙に、飾り気のない言葉がつづられている。甘さも何もない文は、近貞の人柄そのものに思えて、愛おしい。
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