ひとりよがりなFalse Face

水戸けい

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呆れならば、まだいい。嫌悪を浮かべたのだとしたら――?

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「おふくろも、譲の事が好きだからな」

 ニコリと笑った恭平が、夕食を持ってくる間にケーキ食っとけと言って部屋を出た。足音が遠ざかるのを確認し、譲は胸の奥にあった緊張の塊を、太い息と共に吐き出す。ローテーブルの上のケーキに目を向けて、ベッドから降り胡坐をかいて、フォークを握りケーキに突き刺した。

 恭平の「おふくろも」というところに、引っ掛かっている自分に苦笑する。友達なんだから、恭平が自分を好いてくれているのは当然だろう。望んでいるような好意とは質が違うと、譲はケーキを口に入れた。甘さがふわりと鼻に抜け、舌の上でクリームがとろけてスポンジと重なった。イチゴの酸味が、それを少しだけ引き締める。

「女々しいよなぁ」

 恭平が何を考えて自分を抱いたのか。どんなつもりだったのかを聞きたいのに、聞けない自分に情けなくなる。恭平が望むなら、抱かれる側でも文句はない。むしろあの時、恭平が自分を求めてくれているのだと感じられて、嬉しいとさえ思った。もっと恭平に求められたいと、身を擦りつけて、あられもない声をあげた。

 もしかして、そんな自分に事後に冷静になった恭平は呆れたのではないか。

 さっと血の気が下がり、譲は下唇を噛んだ。

 興に乗っていた間は、テンションが上がっているし性欲もあるしで、そのまま流れに乗って最後までしてしまっただけだとすれば。その後、冷静になってみて譲の嬌態を思い出し、男相手にあさましく求めるように腰を揺らした姿に呆れられたのだとしたら。

 呆れならば、まだいい。嫌悪を浮かべたのだとしたら――?

 ぶるりと身を震わせて、考えを振り払うように乱暴にケーキを貪る。親の仇のように歯を鳴らして噛み砕き嚥下して、息を吐いてフォークを置く頃には、最終的に行き着いたその考えが、真実のような気になってきた。

 うじうじと情けない自分に落ち込みつつ、譲は冷めたコーヒーに手を伸ばし、啜った。恭平は、いつも派手な女の子と付き合っている。高校に入ってからは、彼女がいない期間が一週間を越えたことは無かったのではないか。つまり恭平は女の子が好きで、冷静になって男と関係を持ったことを後悔し、名残を残さないように譲の体を拭いて服を着せ、あの匂いも消したのではないか。変な夢を見ただけだと譲に思わせ、無かったことにしようとしているのではないか。

 思えば思うほど、その考えが正しいような気がして、譲は尻の座りが悪くなり、ここにはいられないと立ち上った。

 こんな気持ちで、恭平と二人きりではいられない。気まずさが喉に詰まって、満足に夕食を食べられるはずがない。異変に気付いた恭平が、どうしたんだよと聞いてきても答えられないし、恭平がなかったことにしようとしていることを、俺が覚えていて気にしていると察してしまったら、二度と会えなくなるかもしれない。

 鞄を手にした譲は、とりあえず一人になって気持ちを落ち着け考えを整理し、覚悟を決めてからでなければ恭平とはいられないと思いきわめ、この場は逃げることにした。

 急いで部屋の扉を開けようとすれば、譲より少し早く夕食を運んできた恭平が扉を開けた。帰ろうとしている譲を見て、恭平が目を丸くする。
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