ひとりよがりなFalse Face

水戸けい

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「でも、ちょっと今は誰とも付き合う気になれねぇから」

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◇◆◇

 スケジュール帳を開いた恭平は、『ゆ』と書いている部分を視線でなぞった。譲と恋人同士の練習をする日、という印だ。

「はぁ」

 この文字が、全ての日付の横にあればいいのにと願いながら息を吐き、スケジュール帳を閉じて机に突っ伏した恭平は、静かな焦燥感に駆られていた。無邪気に、本気で結婚をするのだと言っていた子どもの頃から、変わることなく想い続けていた相手と、期間限定とはいえ恋人になれたというのに。こんなチャンスは二度と廻ってくるはずがないのに。それなのにどうして大学に行かなくてはならず、バイトも入ってしまっているんだ。クリスマスまでの予定が全部、譲のみで埋め尽くされればいいのに。

「あの。相模原くん」

 顔を上げれば、脱色した髪を高く結い上げ、くるくると毛先を撒いた女子がいた。控えめに照れた顔をしているが、付け睫毛に縁どられた瞳は獲物を見つけた獣のように、ギラギラとしている。

 ああ来たな、と恭平は面倒くさそうに心中で呟いた。

「利香と別れたって聞いたんだけど。次の恋人って、決まってる?」

 遠慮がちに、かわいらしく小首をかしげながら、彼女は恭平の横に座った。

「いや」

 体を起こしながら恭平が答えれば、ぱっと彼女が顔を輝かせた。彼女が次の言葉を発する前に、恭平は先回りをする。

「でも、ちょっと今は誰とも付き合う気になれねぇから」

 これみよがしにため息をついて、恭平はふたたび机に顔を伏せた。

「どうして?」

 寂しげな落胆の声を聞きながら、利香にそれだけ惚れていたと勘違いをされるのは面白くないなと、恭平は言い訳めいたことを口にした。

「女装が似合うからフラれるとか、男として情けねぇっつぅの」

 全く気にしていないことを、それが彼女を作らない傷心の理由のように呟く。

「そんなことないよ」

 慰めを口にした彼女の声に、期待が乗っていた。それを討ち砕くように、恭平はぶっきらぼうな声を出す。

「そんなことあるって。だから、しばらく誰とも付き合いたくねぇ」

 言いながら彼女に目を向ければ、残念そうな顔をしながら安堵の色を浮かべていた。自分が利香に負けていたから断られたのではないと、ほっとしたのだろう。告白をされれば、とりあえずは誰とでも付き合う。そんなウワサが自分にあることを、恭平は自覚をしていたし、その通りだと答えられる。

 譲と付き合えないのであれば、どこの誰と付き合おうが同じことだ。

 思春期になり、譲が愛おしいと感じている自分はおかしいのだと、何か勘違いをしているのだと思って、告白をしてきた相手ととりあえず付き合う事にした。譲とあまりにも長く一緒にいて、甘えながら甘やかしていたせいで、譲をそんなふうに思ってしまっているだけだ。だから彼女が出来れば、きっと勘違いに気付くはずだ。
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