ひとりよがりなFalse Face

水戸けい

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「そう。全部、まかせてくれたらいいから」

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 そうだ。今は、譲の彼女の本田薫だ。だから、譲にいくらキスをしても、かまわない。

 咳払いをしてから、恭平は『本田薫』としての言葉づかいを意識し、口を開く。

「私も、がんばるから。譲も、がんばって」

 男にしては高い声をしていてよかったと、恭平は迫力に欠けると不満だった自分の声に、感謝した。無理に声を作らなくても、ハスキーな女の子で押し通してしまえる。

「わかった。がんばる、けど。その、俺は誰とも付き合ったことが無いし、その、どうすればいいのかが、さっぱりわからないんだ」

 譲が誰とも付き合ってこなかったことは知っている。本当に好きな人でなければ、付き合えない。告白をされたというウワサが出た時に揶揄をされ、そう答えた譲の初めての彼女が、たとえ偽者であっても自分であることに、誰に対してなのかわからない優越感を恭平は抱えた。

「自然にしていてくれれば、いいから。譲はそのままで大丈夫。お……私が、彼女らしく振る舞うから」

 女らしい言動に、気を付けるから。それに、合わせてくれさえすればいいから。譲は、そのままでいい。いつも俺に向けてくれる態度そのままで、かまわないから。

「わかった。そうだな。恭平はモテるし、いろんな子と付き合って来たんだから、色々と知ってるよな」

 その全てを好きじゃ無かったと言えば、惰性で承諾をしていただけだと知れば、譲はどんな顔をするだろう。譲をあきらめるために、好きでもないのに付き合っていたのだと知れば、怒るだろうか。

「そう。全部、まかせてくれたらいいから」

 譲の肩に、恭平は身をもたせかけた。本当は譲に甘えてほしいけれど、自分が女装をしているのだから仕方がない。譲の恋人になれているのだから、堂々とキスが出来るのだから、そんなことまで気にするのは贅沢だ。

「あ、そうだ」

「ん?」

 思いついた恭平に、譲が顎を引いて目線を下ろした。肩に頭を乗せたまま、恭平は譲を見上げる。

「なれそめ、考えておかないと」

「なれそめ?」

「聞かれたら、困るだろ……じゃない。困るでしょ」

 語尾を直した恭平の問いに、うーんと譲が天井に目を向け考える。

「文化祭で出会ったって事に、したらいいんじゃないか」

「文化祭で?」

「そう。俺が、恭平の学校の文化祭に遊びに行って、そこで薫を見つけて一目ぼれをしたってことで、いいんじゃないか」
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