ひとりよがりなFalse Face

水戸けい

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「キス、ほら」

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◇◆◇

 ごくり、と譲の喉が鳴った。自分の頬に手を添えた恭平が、目を閉じた。昔の思い出をなつかしく思い起こしているのだろうか。

 黒く長い髪に縁取られている恭平の顔はとてもきれいで、おとぎ話の眠り姫のようだ。吐息を漏らした唇は艶やかに赤く、薄く開いている。それのやわらかさを、譲は知っていた。

 どうしよう。キスを、したい。

 目を閉じたまま、恭平は眠ってしまったかのように動かない。キスをしてもいいのだろうか。自分と恭平は――いや。自分と薫は、今は恋人同士なんだから、かまわないはずだ。恭平は何度もキスをしてきたし、俺からしてはいけないなんてことは、無いはずだ。

 よし。

 ぎこちなく、譲は恭平に顔を近づける。緊張のあまり呼気すらも硬くなっていた。じりじりと顔を近づけ、唇が触れるか触れないかのところで止まる。

「ううっ」

 あとわずかの距離になったところで勇気が出ずに、唸って顔を離しかけた譲の首に腕が回り、唇が触れた。

「っ!」

 目を丸くする譲に、いたずらっぽく片目を閉じた恭平が鼻先にキスをする。

「仕切り直し」

「えっ」

「キス、ほら」

 少し唇を突き出した恭平は楽しそうで、譲はうろたえた。

「いや、その。俺は別に、なんていうか、その」

 恭平が楽しげな気配を残したまま、不思議そうに首をかしげた。

「してくれないんだ?」

「うっ」

 唇をムニムニと揉むように噛む譲の煮え切らなさに、恭平が息を吐いて体を離した。

「やっぱ、いきなりキスをしろとか、キツイよな。男相手にさ」

 そうじゃない、と心で叫ぶ声が喉に詰まり、口から出ない。どうしていいのかわからない譲は、うろたえ続けた。きちんと座りなおした恭介が、残っていたムースを口の中に放り込むように食べ、コーヒーを飲み、息をつく。その横顔を見ているうちに情けなさと、自分の意気地のなさに恭平が怒っているのではないかという不安が湧き立ち、譲の全身を覆い尽くした。不甲斐なさに突き動かされ、譲が恭平の肩を掴む。

「なんだよ」

 振り向いた恭平は、恭平だけれども恭平ではなくて。譲は彼のウィッグを奪い、恭平の髪をくしゃくしゃにかき乱した。

「うわっ、譲、何っ」
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