ひとりよがりなFalse Face

水戸けい

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「俺が薫だってことを、余計に認識しちまうだろ」

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 苦笑交じりの恭平の声が、譲の胸をくすぐる。このまま、まどろみのなかで過ごしていたいけれど、そうもいかないだろう。ここは家ではないのだから。

 残念に思いつつ、譲は布団の中で伸びをしてから、身を起こした。

「ほら」

 ぽん、と綺麗に畳まれた服を目の前に置かれ顔を上げれば、ウイッグ以外は身に着け終えている恭平がいた。

「おはよう」

 ぼんやりとした寝起きの声で、恭平に挨拶をする。

「おう」

 恭平の返答の中に、ほんの少しの緊張があった。けれど恭平は、それを気取られてはいないと思っているはずだ。

 それなら、気付かぬふりをすればいい。

 ベッドから降りて、のろのろと着替えを済ませ、譲は洗面台へ向かった。ふと目を向けた浴室に、情交の跡は少しも残っていなかった。

「念のため、化粧ポーチを持って来ていてよかったな」

 顔を洗い終えれば、恭平が鞄から可愛らしいポーチを取り出し鏡に向かっていた。ウィッグを被り、化粧をする恭平はなんだか妙で、譲は思わずじっと見てしまう。

「変身の経過を見ないほうが、いいんじゃねぇのか」

「なんで」

「俺が薫だってことを、余計に認識しちまうだろ」

 恭平は鏡ごしに譲を見つつ、化粧をする手を動かしている。

「もともと知ってるんだから、気にしなくてもいいだろ」

「知ってるのと、ちゃんと認識するってのは、違うんだよ」

 たしかに、違う。譲は自分が恭平を好きだということは知っていた。けれど、その『好き』がどういうものかは、認識していなかった。恭平に彼女が出来たと知るまでは、勝昭らとの話の中で恭平が初体験のことを喋るまでは、その『好き』がどういう『好き』なのかを認識していなかった。

「大丈夫だよ」

 譲が確信を持って返事をすれば、鏡越しに恭平が苦笑する。

「やっぱ、気持ち悪くなったっつっても、知らねぇからな」

 なるはずがない、と譲は胸中で否定した。

「何が、気持ち悪くなるんだよ」

「デートん時に手を繋いだり、最後にキスしたりすんのがだよ」

 なるわけがない。俺は、ずっと恭平を想い続けているんだから。

 心の中で呟いて、譲は唇を噛んだ。

「恭平」
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