ひとりよがりなFalse Face

水戸けい

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嫌悪はされていないということだ。

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◇◆◇

 電車の中から、譲がショッピングモールの方向へ歩いて行くのを、恭平は見つけた。手を持ち上げて唇を指で押し、別れ際の譲からのキスを思い出しながら、そういえば腹が減ったと言っていたのに、何も食べずに別れてしまったと気がついた。

 恭平はスマホを取り出し、ロックを解除しかけて手を止め、少し迷ってから鞄にしまった。

 息を吐き、ドアにもたれかかる。うっすらとガラスに映る自分の向こうで、景色が流れていく。

 こつんと額を窓に当て、恭平は目を閉じた。譲は何か言おうとして、それを「腹減ったな」という言葉に置き換え誤魔化した。それに気付いていたのに、譲が本当に言いたかった事を聞くのが怖くて、気付かないフリをした。

 ――腹減ったな。

 そう言った時の譲を思い出し、ひやりと胸を凝らせる。

 譲は、抱かれたことを覚えているのではないか。酒に酔って意識が無いふりをしていただけではないのか。

 そんなはずは……無い、とは言い切れない。譲は抱かれたことを認識していて、どう切り出せばいいのかがわからずに、あんな顔をして誤魔化したのではないか。恭平が、どんなつもりで自分を抱いたのかを、聞こうとしていたのではないか。

 恭平と付き合いたいと言ってくる女の中に、恭平を寝取ろうと企てる女がいた。下半身から陥落、という手段を用いることは珍しくは無いらしい。ならば自分がそれと同じことをして、何が悪い。物心ついてからずっと、譲が欲しいと望み続けていたんだ。

 沈む気持ちを欲に包み、恭平は自分の行動を正当化しようと、自分に言い聞かせる。

 今回の事は、願い続けていたことを実現するチャンスだ。思い続けたからこそ、引き寄せられることの出来たチャンスだ。

 譲がキスを拒まなかったのは、別れ際に自らしてくれたということは、望みがあるということだ。嫌悪はされていないということだ。

 いや、と恭平の中で語気を荒げた自分を宥める、もう一人の自分の声が浮かんだ。

 流されやすく温和な譲は、強く迫られれば驚いた猫のように身動きを忘れ、思考を停止させてしまうクセがある。拒絶しきれなかったのだから、断れなかったのだからと、自分に言い聞かせてしまう。

 その性質を、俺は利用したんじゃないか。別れ際のキスを求めたときにも、譲の思考を停止させるように運んだのではないと、言い切れない。初めて譲を抱いた時に、彼のその習性を利用して意識を混濁させたのだから。

 矛盾する思考を繰り返しながら最寄り駅に到着し、恭平は足早に電車から降りて改札をくぐり、家へと向かう。

 もうしてしまったのならば後戻りは出来ないのだから、結果がどうなろうと行きつく所まで進んでしまうしかない。
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