ひとりよがりなFalse Face

水戸けい

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「アイツは、譲に惚れているわけじゃないんだろ」

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◇◆◇

 ふ、と耳の奥に懐かしい呼び声がして、譲は困惑した意識が凪いでいくのを感じた。

「譲」

 それは、直接耳に届いているものとは全く違う声で。

「譲?」

 押しつぶしてくる唇のやわらかさも、近づいた時に鼻をくすぐる香りも、今自分に触れてくるものとは別のものを求めていると、譲に教えてくれる。

 瞼を上げれば、晴彦が不思議そうに見下ろしていた。

「ごめん」

 ぽつりと呟き、譲は唇を引き結ぶ。

「ごめん」

 晴彦の望みには応えられないと、譲は拒絶のための謝罪を口にした。

「アイツは、譲に惚れているわけじゃないんだろ」

 晴彦の言葉が、譲の胸を刺した。

「賭けのために、譲と付き合っているだけなんだろ」

 刺さった言葉が抉るように刃を返し、痛みに譲が愁眉となる。苦しげに寄せられた譲の眉根に唇を落としながら、晴彦がささやいた。

「きっと、幼馴染だから勘違いをしているだけなんだよ。傍にいすぎて、そういうふうに勘違いをしてしまっているだけなんだ」

「違う!」

 即座に否定した譲は、自分の言葉の強さに驚いた。目を丸くする晴彦の肩を押して、身を起こす。
「ごめん」

 それ以外に何の言葉も浮かばない。うなだれた譲の耳に、聞こえるはずの無い、自分を呼ぶ恭平の声がする。その声に呼ばれたいと、その声じゃなきゃだめなんだと、譲の心が叫んでいる。

「ごめん」

 繰り返す譲の謝罪に、晴彦は何かを吹っ切るように息を吐いた。

「惚れてるのか」

 こくりと頷いた譲が、下唇を噛む。顔を上げることのできない譲に、晴彦の吐息がかかった。

「期間限定の恋人が終わったら、片思いを吹っ切るとか、そういう覚悟でいたりする?」

「わからない。ただ、恭平とウソでも恋人でいられるってことだけ。今はそれしか考えられなくて。その先は、ぜんぜん」

「友達に戻れる自信は?」

「えっ」

 思わず顔を上げた譲に、噛んで含めるように晴彦がゆっくりと語りかける。
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