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「好きな奴が、いるんだ」
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美佐ほどの覚悟が、初めて譲を抱いた時にあれば。そうすれば、今のような状況には陥らなかったのではないか。譲は、真剣にぶつかれば真っ直ぐに返す男だ。それを誰よりも知っているのは、自分だという自負を持っていたんじゃないのか。それなのに、せっかくのきっかけを、弱さに流され正面から向き合わないまま、彼が欲しいと手だけを伸ばした。
そのツケが、今の状況なんだろう。
「別に、本気じゃないよ。恭平君と付き合ったら、ステータスになるっていうか、なんていうか。さっき本気って言ったのは、そう言ったほうが乗ってくれるかなって思っただけで、ぜんぜん、本気じゃないから」
無理やり口の端を持ち上げる美佐の声が硬く、震えている。その声の震えに感化され、恭平が纏っていた、譲への想いをごまかし隠すための殻が、はがれて落ちた。
「好きな奴が、いるんだ」
美佐の目が、ゆっくりと大きく見開かれる。
「ずっと、子どもの頃から想い続けてる奴が、いるんだ」
だから、ごめん。
そう呟きながら、恭平は譲の笑顔を思い出す。自分を呼ぶ親しみのこもった声を、思い出す。
「……そっか」
ぽつりと落ちた美佐の声が、やわらかく夜気に滲む。
「好きな人、いたんだ」
「ああ。北条のおかげで、気持ちをぶつける覚悟が出来た。サンキュな」
「やだ。なんかそれ、なんか、っ、ふぇ」
笑いながら泣き出した美佐が、乱暴に目をこする。思わず伸ばした恭平の手を払いのけ、美佐は背を向けた。
「化粧崩れて、汚い顔になってるし。抱きしめてくれるなら、恭平君がフラれた時にして」
「なんだよ、それ」
「フラれた者同士、慰めあおうねってことっ!」
言い終える前に走り出した美佐の姿が見えなくなるまで、恭平は見送る。深呼吸をしてスマホを取り出し少し考え、飾り気の無い今の気持ちだけを記したメールを、譲宛に送信した。
『会いたい。』
込めた想いが譲に届きますようにと、送信完了と表示された画面に、祈るように額を寄せた。
そのツケが、今の状況なんだろう。
「別に、本気じゃないよ。恭平君と付き合ったら、ステータスになるっていうか、なんていうか。さっき本気って言ったのは、そう言ったほうが乗ってくれるかなって思っただけで、ぜんぜん、本気じゃないから」
無理やり口の端を持ち上げる美佐の声が硬く、震えている。その声の震えに感化され、恭平が纏っていた、譲への想いをごまかし隠すための殻が、はがれて落ちた。
「好きな奴が、いるんだ」
美佐の目が、ゆっくりと大きく見開かれる。
「ずっと、子どもの頃から想い続けてる奴が、いるんだ」
だから、ごめん。
そう呟きながら、恭平は譲の笑顔を思い出す。自分を呼ぶ親しみのこもった声を、思い出す。
「……そっか」
ぽつりと落ちた美佐の声が、やわらかく夜気に滲む。
「好きな人、いたんだ」
「ああ。北条のおかげで、気持ちをぶつける覚悟が出来た。サンキュな」
「やだ。なんかそれ、なんか、っ、ふぇ」
笑いながら泣き出した美佐が、乱暴に目をこする。思わず伸ばした恭平の手を払いのけ、美佐は背を向けた。
「化粧崩れて、汚い顔になってるし。抱きしめてくれるなら、恭平君がフラれた時にして」
「なんだよ、それ」
「フラれた者同士、慰めあおうねってことっ!」
言い終える前に走り出した美佐の姿が見えなくなるまで、恭平は見送る。深呼吸をしてスマホを取り出し少し考え、飾り気の無い今の気持ちだけを記したメールを、譲宛に送信した。
『会いたい。』
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