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「俺に、本気で惚れてんのか」
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言いながら店を出て、身震いをする。吐く息が白い。暖房の名残のある店内と外気温は、雲泥の差だった。
「じゃあな」
「送ってくれないんだ」
甘さを消した美佐の声に、去りかけた恭平の足が止まった。
「私、一人暮らしだよ」
「大胆だな」
「恭平君だから」
恭平の口の端が、片方だけ持ち上がる。美佐が思い詰めた目をして、恭平を睨んだ。
「わかるでしょ」
「ああ」
本気で惚れた相手ならどんな狡い手を使ってでも、ほんのわずかな享楽を求める隙があれば、手に入れたいと望んでしまう。その気持ちが、痛いほどに通じた。
「だったら」
「俺に、本気で惚れてんのか」
「でなきゃ、言わないよ」
美佐の唇が、硬く引き結ばれた。全身をこわばらせる彼女の姿に、恭平は心の奥に鈍く重い痛みを感じた。
譲への想いを誤魔化すために、俺は何人の好意を利用して来たんだろうな。
付き合ってきた相手の中には、恭平をアクセサリーのように思う相手もいた。そういう相手は、とても楽だ。うわべだけで付き合える。けれど、美佐のような相手も中にはいた。まっすぐに恭平を見て、恭平を愛し求め、愛されたいと願う相手がいた。
「ありがとうな」
今まで、そんなことを言ったことなど一度も無かった。美佐の体に喜びが広がっていく。それが隅々に行き渡る前に、恭平は希望を打ち砕いた。
「オマエとは、付き合えねぇ」
美佐の喜色が、凍った。
「え?」
「本気なんだろう? 俺に。だから、付き合えねぇ」
気にしたことなど無かった。好きになってくれなくてもいいから、という言葉の上に胡坐をかいて、その言葉に乗せられた相手の気持ちなど、恭平は一度も考えたことが無かった。
「悪ぃな」
けれど、今はその気持ちが痛いほどよくわかる。
かりそめでも付き合える。そのことが、どれほど嬉しいか。せめて体の繋がりだけでもと求める気持ちの、それが叶った後の喜びと虚無の混ざり合う心地。相手からの想いに対する渇望と、それを相手に告げたときの反応に対する期待と恐怖。
「じゃあな」
「送ってくれないんだ」
甘さを消した美佐の声に、去りかけた恭平の足が止まった。
「私、一人暮らしだよ」
「大胆だな」
「恭平君だから」
恭平の口の端が、片方だけ持ち上がる。美佐が思い詰めた目をして、恭平を睨んだ。
「わかるでしょ」
「ああ」
本気で惚れた相手ならどんな狡い手を使ってでも、ほんのわずかな享楽を求める隙があれば、手に入れたいと望んでしまう。その気持ちが、痛いほどに通じた。
「だったら」
「俺に、本気で惚れてんのか」
「でなきゃ、言わないよ」
美佐の唇が、硬く引き結ばれた。全身をこわばらせる彼女の姿に、恭平は心の奥に鈍く重い痛みを感じた。
譲への想いを誤魔化すために、俺は何人の好意を利用して来たんだろうな。
付き合ってきた相手の中には、恭平をアクセサリーのように思う相手もいた。そういう相手は、とても楽だ。うわべだけで付き合える。けれど、美佐のような相手も中にはいた。まっすぐに恭平を見て、恭平を愛し求め、愛されたいと願う相手がいた。
「ありがとうな」
今まで、そんなことを言ったことなど一度も無かった。美佐の体に喜びが広がっていく。それが隅々に行き渡る前に、恭平は希望を打ち砕いた。
「オマエとは、付き合えねぇ」
美佐の喜色が、凍った。
「え?」
「本気なんだろう? 俺に。だから、付き合えねぇ」
気にしたことなど無かった。好きになってくれなくてもいいから、という言葉の上に胡坐をかいて、その言葉に乗せられた相手の気持ちなど、恭平は一度も考えたことが無かった。
「悪ぃな」
けれど、今はその気持ちが痛いほどよくわかる。
かりそめでも付き合える。そのことが、どれほど嬉しいか。せめて体の繋がりだけでもと求める気持ちの、それが叶った後の喜びと虚無の混ざり合う心地。相手からの想いに対する渇望と、それを相手に告げたときの反応に対する期待と恐怖。
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