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「俺は、オマエとは付き合わない」
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手早く着替えて更衣室を出れば、期待をしている美佐の目があった。
「年内は、誰とも付き合う気はねぇぞ」
ぶっきらぼうに言えば、美佐は寂しげに目を伏せた。
「うん、知ってる」
しおらしい姿に、恭平は乱暴に鼻を鳴らした。
「そういや、俺の事はなんでも知ってるんだったな」
俺が譲に惚れているなんて、知らないくせに。
「うん。知ってるよ。恭平君の事は、なんでも知ってる」
皮肉なニュアンスを含む恭平の言葉に、少し得意げに、けれど控えめに美佐が呟く。
「なら、諦めろ」
「彼女じゃなくていいんだ」
そう来たかと、恭平は心中で舌打ちした。
「ただ、恭平君の慰めになれたらいいなって」
ちらりと恭平を見て、すぐに逸らした美佐の目の奥に罠が見える。
――下半身から攻めるって手も、あるんだし。
それを、美佐は実行しようとしているのだろう。以前の恭平ならば、譲と仮の恋人になる前の、始める前から諦めていた恭平ならば誘いに乗っていた。譲でないのなら、誰でも同じだと。
「俺は、オマエとは付き合わない」
付き合えない。譲の唇を知ってしまった今、譲と仮の恋人でいられる今、今後がどうなるか不明なままの今、譲以外の相手に触れるなど考えられない。
「それでも、いいよ。一回だけでも、いいんだ」
美佐の目には、自信があった。引き込めば恭平を手に入れられるという、自信が見えた。恭平はその強さを、うらやましいと感じた。
あの時に、俺もそういう目と覚悟を持てていたのなら。
「後悔は、しねぇんだな」
射抜くように睨めば、視線を合わせたまま美佐が頷く。
「いい度胸だな」
口の端を片方だけ持ち上げた恭平に、美佐が期待をにじませた。
「お待たせ。帰る準備、出来てるか」
電気を消した自動ドアを手動で開けて、店長が帰ってきた。美佐は気まずそうに目を泳がせ、恭平が店長に返事をする。
「はい。すぐに、出れます」
「おう。待たせて悪かったな。それじゃ、俺はまだ本社に報告あるから」
せかせかと奥に来た店長が、おつかれと二人を労い店長室に入った。
「おつかれさまです」
「おつかれさまでぇす」
「年内は、誰とも付き合う気はねぇぞ」
ぶっきらぼうに言えば、美佐は寂しげに目を伏せた。
「うん、知ってる」
しおらしい姿に、恭平は乱暴に鼻を鳴らした。
「そういや、俺の事はなんでも知ってるんだったな」
俺が譲に惚れているなんて、知らないくせに。
「うん。知ってるよ。恭平君の事は、なんでも知ってる」
皮肉なニュアンスを含む恭平の言葉に、少し得意げに、けれど控えめに美佐が呟く。
「なら、諦めろ」
「彼女じゃなくていいんだ」
そう来たかと、恭平は心中で舌打ちした。
「ただ、恭平君の慰めになれたらいいなって」
ちらりと恭平を見て、すぐに逸らした美佐の目の奥に罠が見える。
――下半身から攻めるって手も、あるんだし。
それを、美佐は実行しようとしているのだろう。以前の恭平ならば、譲と仮の恋人になる前の、始める前から諦めていた恭平ならば誘いに乗っていた。譲でないのなら、誰でも同じだと。
「俺は、オマエとは付き合わない」
付き合えない。譲の唇を知ってしまった今、譲と仮の恋人でいられる今、今後がどうなるか不明なままの今、譲以外の相手に触れるなど考えられない。
「それでも、いいよ。一回だけでも、いいんだ」
美佐の目には、自信があった。引き込めば恭平を手に入れられるという、自信が見えた。恭平はその強さを、うらやましいと感じた。
あの時に、俺もそういう目と覚悟を持てていたのなら。
「後悔は、しねぇんだな」
射抜くように睨めば、視線を合わせたまま美佐が頷く。
「いい度胸だな」
口の端を片方だけ持ち上げた恭平に、美佐が期待をにじませた。
「お待たせ。帰る準備、出来てるか」
電気を消した自動ドアを手動で開けて、店長が帰ってきた。美佐は気まずそうに目を泳がせ、恭平が店長に返事をする。
「はい。すぐに、出れます」
「おう。待たせて悪かったな。それじゃ、俺はまだ本社に報告あるから」
せかせかと奥に来た店長が、おつかれと二人を労い店長室に入った。
「おつかれさまです」
「おつかれさまでぇす」
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