ひとりよがりなFalse Face

水戸けい

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譲はあわてて着替えを済ませた。

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「でっ」

「いちいち反応するなよ。かわいーなぁ」

 くすくす鼻を鳴らす晴彦を睨み付けながら、それでも目じりに笑みが浮かぶのを抑えきれず、譲は噛み痕を隠す様に首元を整えて上着を羽織った。

◇◆◇

 最後の客を見送り、ざっとテーブルを拭き終えた譲は座布団をまとめて端に立てかける。ビールやチューハイ樽の栓を閉じて、サーバーに洗浄用の水の入った樽を着け、チューブ内のビールを洗い出す。チューハイのサーバーも同じように洗浄し、水樽の栓を閉め、ガスの栓もきつめに閉じた。外せる部分は全て外し洗い場に渡して、サーバーを磨き終える。

「おわりました」

 譲が声をかければ、軽く片手を上げて店長が答えた。

「おう、おつかれ。上がっていいぞ」

「おつかれさまでした」

 更衣室に入れば、すでに持ち場の仕事を終えた他のバイトが着替えをしていた。その中に交じり上着を脱げば

「あっ」

 声を上げられ驚いた。顔を向ければ、ニヤニヤと歯を見せるバイト仲間が譲の首と胸を指し示した。

「情熱的な彼女なんだな」

「あっ、いや、これは」

「ごちそうさまー」

 真っ赤になった譲に手を振り、バイト仲間が去って行く。他のバイトが来る前にと、譲はあわてて着替えを済ませた。

「おつかれさまでしたっ」

 足早に店を出て小走りに道を歩く。人通りのほとんど途絶えた夜の町を煌々と照らす看板や街頭、コンビニの灯りがうら寂しく感じられるのは、冬がはじまったからだろうか。

 なんとなくスマホを取り出した譲は、メールの着信を告げるライトの点滅にぎくりとした。深呼吸をしてから画面を開き、恭平の名が記されていることに喉を鳴らし、唇を引き結んで画面を開く。開いた瞬間、目に飛び込んだ言葉に、譲は脳髄が痺れるような衝撃を受け、駆り立てられるように走り出した。

 会いたい。

 それだけが、書いてあった。何の飾りも無く、その一言だけ。それは何よりも強い恭平の叫びとして、譲の胸に響いた。

「はあっ、はあっ」

 全速力で冬の夜気をかき分ける。点滅信号を左右も見ずに通り過ぎ、譲はただひたすら恭平の家へと急いだ。
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