ひとりよがりなFalse Face

水戸けい

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期間内は、恋人として過ごす。

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 耳を疑った。

「えっ」

「一番に、なりたいから。なんて」

 照れくさそうに冗談めかした譲の声音に突き動かされ

「好きだ」

 恭平の口から想いが零れた。

「えっ」

「好きだ。譲」

 驚き、顔を上げた譲の顔が、ゆっくりと滲むような笑みに変わっていく。春の日だまりのようなそれに、恭平の心は満たされた。

「ありがとう」

 静かな声音に冷たい風と距離を感じて、恭平の胸が凍える。

 ありがとう――?

 心の中で嘆息し、恭平は自嘲した。「俺も」ではなく「ありがとう」。譲は、自分よりもよほど大人なのかもしれない。この状況で流されずに、やんわりと受け止めながら距離を置いた。

 枝野晴彦の存在が蘇り、恭平は奥歯を噛みしめ眉間にしわを寄せた。痛みに溢れた喘ぎを、喉奥に留める。

 知らないうちに、譲は自分よりもずっと、大人になっていた。子どもじみた恭平の「今の、オマエの恋人は、誰だ」に、本田薫ではなく恭平の名を口にしたのは、そういうことなのだろう。

 期間内は、恋人として過ごす。

 遊びであっても譲は本気で挑もうとしたのだろう。譲はきっと、こんな展開になるとは思っていなかったのだ。けれど、こうなってしまった。もしかしたらあの時、枝野晴彦に謝罪に行っていたのではないか。遊びのつもりが、キスまでしてしまっている。けれど本当に愛しているのは、一人だけだから、と。

 そんなふうに見たことのない枝野晴彦に言う譲を想像し、恭平は胸をかきむしられた。

 だから、枝野晴彦はあれほど挑戦的な声をしていたのだ。

 ――疑似の期間限定でも、譲と恋人になってるっていうのが、俺としては面白くない。

 宣戦布告のような言葉と、譲の肌に残した所有の印。あれはきっと、そういうことだ。譲の話は、きっと、そういうことなのだろう。恋人が嫉妬をしているから、というようなことを言おうとしていたに違いない。

 そこに、恭平が嫉妬をむき出しにして、今の譲の恋人は自分だと主張した。律儀で真面目で気弱な譲は、何も言えなくなってしまったはずだ。練習期間を設けると言いだしたのは、譲なのだから。彼女を途切れさせたことのない恭平が、その期間は誰とも付き合わないと決めた。だったら、自分も枝野晴彦とのことは期間が終わるまでは何も言わず、恭平の恋人として過ごすべきだ。きっと、譲はそう考えたのだろう。
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