妖育―忠義の果てにー

水戸けい

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てはじめ

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 ◇

 正面の壁から視線を感じる。

 取調室のように覗き穴があるのだろうと、リュドラーは正面の壁をにらみつけた。薄いシャツと股間を固定する奇妙なベルトのみを身に着け、脚を大きく開かれた状態ではなんの迫力もないだろうが、そうするほかに自分の気持ちをなだめるすべを、リュドラーは持っていない。

 威嚇をしようと考えたわけではない。ただ、騎士としての精神が屈服することを拒んでいる。それだけだった。

(悪趣味だ)

 しかしこれから、その悪趣味にまみれた生活をするのだと、リュドラーは深く長い呼吸を意識する。

「手をあげてください」

 仕立屋の言う通りにリュドラーが手を上げると、従僕が大きな手でリュドラーの手首を掴み、イスの背に括りつけた。なるほど、そのために背もたれが高いのかと納得をする。

 腕を持ち上げたリュドラーの背筋が伸び、胸筋が前に突き出される。押し出された胸筋の厚みを、覗き穴の向こうでトゥヒムが凝視していた。

 背後に立った従僕が、リュドラーのシャツをまくり上げる。リュドラーは羞恥に身じろいだ。

「じっとしていてください」

 手袋をはめた仕立屋がイスの右側に膝をつき、リュドラーの股間に手を伸ばす。

「っ……」

 なめらかな手袋に充血している陰茎の先端を撫でられて、リュドラーは息を呑んだ。仕立屋は触れるか触れないかの強さで、リュドラーの陰茎を指先でなぞる。淡々と浮かぶ快感を堪えるために、リュドラーは全身に力を込めた。むき出しの太ももが膨らみ、肉の筋がクッキリとした線となる。

 トゥヒムは息を詰めて、その様子をながめていた。ゆらゆらと蝶のように、仕立屋の指がリュドラーの陰茎の周囲を舞っている。リュドラーは奥歯を噛みしめ、顔を険しくして体中を緊張させている。

「彼は快楽に堪えているんだ」

 サヒサの声に、トゥヒムも体を硬くした。ジワリジワリと股間が熱くなり、心音が大きくなっていく。

 興奮しているトゥヒムに、サヒサはほくそ笑んだ。

 仕立屋の指に根元をくすぐられ、リュドラーはうめいた。快楽がジワジワと肌身を這い上ってくる。これは仕立てにかこつけたショーなのだと、リュドラーは壁の向こうから注がれる視線を浴びながら考えた。

 性奴隷としての、はじめての仕事だ。

 快楽という名の苦痛に耐えるリュドラーを隣室で楽しんでいるのはサヒサと……、もうひとりは誰なのか。

(誰でもいい)

 関係ない。

 自分はただ、この状況をおとなしく受け入れるしかないのだから。知ったところで、どうすることもできやしない。

 仕立屋の手が蜜嚢を掴む。こね回されて、リュドラーは足の指を握った。

「んっ、ぅ……」

 喉の奥から音がこぼれる。革のベルトで固定されていた陰茎が、さらなる刺激に膨らんだ。ギチ、と革が食い込み、傘が張り出す。仕立屋は眉ひとつ動かさずに、リュドラーの蜜嚢を揉み続けた。

「ふっ、ぅ……、う、んっ、ん」

 うめくリュドラーの姿に、トゥヒムの股間は大きく膨らみ脈打ちはじめた。ドクリ、ドクリと心臓と共に熱い血潮をみなぎらせる己の雄にとまどいながらも、視線を外せない。それどころか、もっと近くでながめたいと思っている。

(私は――)

 自分自身にとまどうトゥヒムの股間を、サヒサの手がそっと包んだ。

「ヒッ」

「しぃっ。……静かに」

「……、放してくれ」

「ずいぶんと興奮しているね」

「……」

「恥ずかしがることはない。それだけ彼が魅力的だという証拠だ。――自分の目に狂いはなかったのだとわかって、うれしい限りだよ」

「仕立てをすると言っていたんじゃないのか」

「しているだろう?」

「私には、そうは見えない」

「あれは、採寸をしているのだよ」

「手でリュドラーの……、その、アレを触ってわかるものなのか」

「ああして彼を大きくして、普段の状態との差異を調べるのだ」

「それならば、早々に高めてやればいいだろう。あんなふうに、苦しめなくとも……」

「ジワジワとなぶられる彼を見たいとは、思わないのかね」

 トゥヒムは口をつぐんだ。

「正直なことだ」

「あっ」

 股間を強く握られて、トゥヒムは可憐な息をこぼした。サヒサはまた「静かに」と言って、トゥヒムの股間を手早く取り出す。

「彼の興奮と君の興奮を重ねながら、楽しみたまえ」

 サヒサはハンカチをトゥヒムの口に押し込んで声をふさぎ、彼の手を股間へと導いた。

「リュドラーだけに淫靡な体験をさせるのは、かわいそうだろう?」

 トゥヒムはサヒサの手が離れても、自分の股間から手を退けなかった。

 蜜嚢や根元を刺激され、褐色の肌に淫靡な熱を浮かべるリュドラーの表情が険しくなった。隆々とそそり立った陰茎は革の戒めに抑え込まれ、窮屈だと訴えている。

「っ、う……、く、んぅ」

 先端にプクリと透明な液が浮かんでようやく、仕立屋はリュドラーから手を離した。ひとまず責め苦は終了かと、リュドラーは息を吐く。仕立屋はナイフを取り出し、リュドラーの陰茎をつまむと、彼を戒めている革を切った。

「っ!」

 リュドラーとトゥヒムが同時に息を呑む。パラリと革が落ち、見事に脈打つリュドラーの陰茎のすべてが人目にさらされる。

 ケガはしていないようだと、トゥヒムは胸をなでおろしつつ、立派なリュドラーの男の証を見つめた。あれは自分のものとおなじくらい、熱いのだろうか。

(触れたい――)

 トゥヒムはリュドラーのものと自分のものとを重ねたい衝動にかられた。そんな自分にうろたえて、股間を握りしめる。ドッドッと心臓がうるさいくらいに鳴り響いた。

 劣情を浮かべるトゥヒムの視線は、滾った自分を持て余すリュドラーにまっすぐに注がれる。

 仕立屋はメジャーを取り出し、クルクルとリュドラーの陰茎に巻きつけて太さや長さを測った。蜜嚢の大きさも確認した仕立屋が目で合図をすると、イスの背後に控えていた従僕が、そのままの位置から腕を伸ばしてリュドラーの太ももを抱え上げた。

「なっ……」

 膝を肩まで持ち上げられたリュドラーの尻が、向かいの壁に向けられる。仕立屋は蜜嚢の裏から尻穴までの長さを計り、メモを記すと指を当ててその部分をクルクルとくすぐった。

「っ、ふ……、んっ、んぅ」

 股間を刺激されるのと同等の、あるいはそれ以上の快感が湧き上がる。リュドラーは息を詰めた。力を込めすぎた体が小刻みに震える。陰茎の先からは次々に快楽のしずくがあふれ出て、脈打つ幹を伝い落ちた。

 たくましく、誰よりも頼りがいのあるリュドラーが、なすすべもなく震える姿に、トゥヒムは興奮した。無力な小動物のように震えるリュドラーの、なんとあわれで愛らしいことか。

 トゥヒムの手は自然と動き、己の欲を高めた。くわえたハンカチ越しに乱れた息が漏れる。それをサヒサは楽しそうにながめた。

「っ、く……、ぅ、うっ、んぅ、う」

 リュドラーは喉の奥で声を潰して快楽に耐えた。絶頂を切望する陰茎から全身へと、妖艶な熱が広がっていく。脈打つ己をわしづかみ、思うさましごきたい。溜まった精を解き放ち、忘我の域に達したい。

 その願いに屈しないよう、リュドラーは意識を他へ逃がそうとする。それを壁から注がれる視線に阻まれた。熱のこもった視線に見つめられ、興奮がさらに高まる。喉奥に快楽の塊がせりあがり、陰茎からはとめどなく先走りがあふれ出る。それは下生えを濡らして、窓から差し込む陽光を反射しキラキラと輝いた。

(うつくしい……)

 トゥヒムはうっとりとリュドラーを見つめた。目の前の光景が母親の言うような「恥ずべきもの」だとは思えない。陶然と頬を紅潮させるトゥヒムの耳に、サヒサがささやく。

「人の欲というものは、とても純粋なものなのだよ。それを芸術として昇華させ、楽しむために性奴隷はいるのだと自分は考えている。――リュドラーは芸術品として、これから調教をされるのだ。すばらしいとは思わないかね」

 リュドラーに夢中なトゥヒムは返事をしなかった。そんな余裕もないほどに、目に映る光景に惹き込まれている。

 リュドラーの脚を抱えた従僕が、指を伸ばして乳首をつまんだ。

「っ、う」

 股間の刺激に引きずられ、硬く凝っていたそこは新たな刺激に喜んだ。尖りの周囲を指の腹でなぞられると、えもいわれぬ心地よさに見舞われる。

「は、ぁ……」

 息を漏らしたリュドラーの唇に、トゥヒムは己の熱を突き立てたい衝動にかられた。

 リュドラーの肌が、壁の向こうから注がれる視線の強まりに過敏に反応する。

 殺気に反応するように、淫靡な視線を受け止めてしまう自分をリュドラーは呪った。体中に充満する淫らな熱はもう、抑えきれないほどに高まっている。

 このままでは声を放ってしまう。

 いいようにされることを承諾した身でありながら、口惜しさを浮かべるリュドラーの乳首を、従僕は黙々とこねつづけた。仕立屋は小瓶を取り出し、その中の液体を手のひらにこぼした。ふわりと香ったそれは、リュドラーの部屋に置かれている蜜酒とおなじ匂いがした。

 ゾク、と薄暗く魅力的な予感がリュドラーの身を襲う。
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