妖育―忠義の果てにー

水戸けい

文字の大きさ
上 下
20 / 37

自覚の浸透

しおりを挟む
 恍惚とするリュドラーの姿に、トゥヒムは求めるように目を細めて唇を開いた。

「触れたいかね」

 サヒサの言葉にトゥヒムはうなずく。

「あれの所有権は君にある。だが、まだ扱いきれるほどの技術を君は有していない。そしてあれも、充分な働きができるほど教育をされてはいない。――わかるかね」

「触れてはならないというのか」

 ティティに下肢を撫でられて、ちいさく震えるリュドラーの姿を強い瞳で見つめるトゥヒムは、己の股間を握るサヒサの手を忘れていた。直に肌を刺激するなんの情愛も持たない相手より、離れた場所にいる親しい男のなまめかしい姿に、トゥヒムは興奮を覚えていた。

 守られるばかりの弱々しいヒナであったトゥヒムの目に、支配欲が燃えている。それに気づいたサヒサは唇をゆがめて、ティティを呼んだ。

「ティティ。……どうだ」

 快楽にまつ毛を震わせるリュドラーを楽しんでいたティティは、薄氷さながらの冷たい笑みを浮かべて振り向いた。

「未熟ながら、させようと?」

 トゥヒムの屹立したものに視線を向けて、ティティはリュドラーの頬に頬を寄せた。浅く荒いリュドラーの息遣いに目を細め、ティティはトゥヒムの視線を意識しながらリュドラーの頬に唇を這わせた。

「リュドラーは私のものだ!」

 低くうめいたトゥヒムは、ティティを敵視した。それを楽しみながら、ティティはリュドラーの胸を指でなぞった。

「……っ、トゥヒム様」

 淫らな熱に視界を揺らすリュドラーは、サヒサに抱きすくめられているトゥヒムに腕を伸ばそうと身じろいだ。手かせがきしみ、リュドラーの望みを阻む。

 ティティはリュドラーの手かせを外して、彼の手を取り赤子を導くようにトゥヒムの傍へ引いた。膝を滑らせ進むリュドラーを、トゥヒムは強い渇望を浮かべて見つめる。

「ああ、リュドラー」

「トゥヒム様」

 トゥヒムは両手でリュドラーの頬を包み、顔を近づけた。淫靡に濡れた瞳に、トゥヒムの腰の奥に潜む獣がうなりをあげる。

「私にまた、してくれないだろうか」

 ささやくトゥヒムの瞳に激しい劣情を見たリュドラーは、熱っぽくほほえんだ。口内が快感にうずいている。それをトゥヒムの熱で慰めてもいいのだと、リュドラーはトゥヒムの腰に手を伸ばし、顔を伏せた。

「んっ、ふ……」

(熱い。ティティのそれよりもトゥヒム様のほうが、ずっと熱い。これが、トゥヒム様の欲の形なのか)

 一度目よりも冷静に把握できる自分に、リュドラーは多少の驚きを持ちながらトゥヒムを口腔で愛した。トゥヒムの指はリュドラーの髪をかきあげ、褒めるように梳いている。

(愛玩……、なるほど。これが、そういうことなのか)

 性奴隷は愛玩動物だと言ったサヒサの言葉が、トゥヒムの指使いで実感に代わった。

(愛され奉仕する存在が、性奴隷なのか)

 リュドラーは想いのままにトゥヒムを口内に引き入れて、舌を這わせた。喉の奥まで?み込んで、唇をすぼめて上下する。しゃぶればしゃぶるほどトゥヒムの熱は上がり、先走りがあふれ、脈打った。高ぶるトゥヒムの反応に、リュドラーもまた興奮を強くする。

「ああ……、リュドラー」

 技術はティティと比較にならないほどに稚拙だが、トゥヒムにとっては極上の奉仕だった。リュドラーの唇から、己の欲が見え隠れしている。濡れた唇がごまかしようもない箇所を包み、愛してくれている。

 胸が詰まるほどの喜びに包まれて、トゥヒムはリュドラーの髪に唇を寄せた。

「ああ、あ……、リュドラー、ぁあ」

 耳を打つトゥヒムの呼気に、リュドラーもまた胸をときめかせていた。口内の熱が愛おしくてたまらない。もっと恍惚の声を聞かせてほしいと励むリュドラーの背後に、ティティが回った。ティティはリュドラーの陰茎を戒めるハーネスを外し、怒張したそれを解放すると、リュドラーのうなじに口づけながら、彼の先走りで指先を濡らし乳首に触れた。

「んっ、ふ……、ぅ、うう」

 ビクンと震えたリュドラーに、クスクスと笑いながら胸乳を愛撫するティティを、トゥヒムがにらむ。鋭い視線をやんわりと受け止めたティティは、リュドラーのたくましい背中に舌を這わせた。

「ふっ、ん、ぅ……は、ふぅ、んっ、ん」

 ティティの指に翻弄されながら、リュドラーはトゥヒムを愛する。けなげな姿勢にトゥヒムはますます胸を熱くさせ、リュドラーの髪に頬を寄せた。

 トゥヒムの慈愛に満ちた瞳を、ティティは鼻先で笑い飛ばした。広いリュドラーの背中は熱く、日に焼けた肌が快楽に赤く染まっている。そこに唇を寄せて尖った胸の色づきをもてあそぶティティは、リュドラーがあとすこしで絶頂を迎えると気づいた。

「んっ、ふぅ……、うんっ、んっ、ふ、はぁ……、んっ、ん」

 自分の熱の昂りに合わせて、リュドラーは頭を激しく動かした。トゥヒムの熱と己の熱が、リュドラーの意識の中でひとつになる。口内にあふれる唾液とトゥヒムの先走りを吸いながら、リュドラーは体を揺らして解放の瞬間を追いかけた。

「ぅ……、くっ」

 トゥヒムが腰を震わせる。

「ぐぶっ……、ん、ぐぅう」

 口の中に放たれたトゥヒムのかけらを逃すまいと、リュドラーは苦労しながら嚥下した。

「はぁ……、は……、うっ」

 飲み干したリュドラーが顔を上げると、ティティが胸の尖りを強く絞った。のけぞったリュドラーを、ティティが支える。ティティはリュドラーの耳裏に舌を這わせつつ、トゥヒムに向けてニヤリとした。ムッとしたトゥヒムに、ティティは視線でリュドラーの下肢を示した。

(ああ、リュドラー)

 屹立し濡れそぼった陰茎が震えている。

(私だけが、心地よくなってしまったのか)

 そしてそれをティティは教えてくれたのかと、トゥヒムは恥じた。サヒサの手が背後からトゥヒムの顎にかけられる。

「このまま、ながめているといい。リュドラーの肉体は思う以上に呑み込みがはやくて、教育のしがいがあるな」

「それは、どういう……」

「見ていればわかる」

「っは、ぁあ、あ……、ふ、んぅう」

 濡れたティティの指で胸先をいじられるリュドラーは、膝を開いて下肢に手を伸ばそうとした。それを控えていた従僕が止める。擦り合わせようとした太ももも掴まれて、リュドラーは下唇を噛んだ。

「んっ、んぅ、うっ、うう……」

 手足を左右から従僕に掴まれたリュドラーの、脈打つ陰茎にトゥヒムの視線が絡みつく。

(ああ、トゥヒム様が俺のあさましい箇所を熱心にご覧になられている)

 羞恥に官能を掻き立てられて、リュドラーは次々に先走りをあふれさせた。

「ふふ……、かわいくて大切な主様に見られるの、気持ちがいいんだね?」

 耳元でティティがささやく。

「もっと、最高の気持ちにさせてあげるよ」

「ふぁっ、は、ぁ、ああっ」

 激しく動くティティの指に翻弄されて、リュドラーは喉をそらして首を振った。胸乳に生まれた刺激が肌を走って、下肢に集まり陰茎を震わせる。

「はっ、ぁう、う……、っあ、あっ、あ、あ……、ああ――ッ!」

 嬌声が小刻みになったところで乳首をひねられ、強い刺激に目の奥で火花を見たリュドラーは、腰を突き出し溜まっていたものをすべて噴き上げた。

 触れられぬままに達したリュドラーに、トゥヒムは目を丸くする。

(なんて、愛らしいのだろう)

 たくましく力強いリュドラーが可憐に見えて、トゥヒムはとまどいつつも胸奥にドロリと広がる愉悦を認めた。

「君の性奴隷は、愛らしいな」

(私の、もの――。これは、私の性奴隷)

 サヒサの言葉を反芻するトゥヒムは、知らず知らず笑んでいた。

「さあ、そろそろ就寝の時間だ。ずっと愛撫を受けていたリュドラーも、疲れているだろうからな。休ませてやるとしよう」

 サヒサが手を叩くと、従僕が素早くトゥヒムの衣服の乱れを整えて抱き上げた。

「彼の世話はまかせたよ、ティティ」

 長すぎたおあずけの果てに与えられた絶頂に、呆然としているリュドラーを抱えたティティはまぶたでうなずく。

 サヒサが従僕を引き連れて去るのを見送り、ティティは「ふうっ」と息を吐いた。

「まったく。こんなにかわいい人の世話だとは、思わなかったな。――これから、楽しくなりそう」

 ひとりごちたティティは、余韻に浸るリュドラーに頬を寄せた。
しおりを挟む

処理中です...