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第二章
バンダナのお京②
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翌日放課後、西澤麻衣が校門の前におった。今日は1人の様や。
「バンダナよう似合うとるな」
「何しに来たんや。ウチは、用はないで」
こいつ一人やったらいらんな、と思い、バンダナを外した。
「今日は昴のお迎えや。昨日おったヤツや。私の従兄弟なんやけど、愛想もええからバイトしてもろうてるんや」
そうか、ほなさいなら、と立ち去ろうとしたら、腕を掴まれた。
コイツ、なんやこの力は…
「まあ、そう言わんと、せっかくやから茶でもしばこうや。『そのへん』で」
ほどなくして、昨日の甲高い声の子が現れた。
「麻衣さん、どうも待たせしました。あ、バンダナのお京さん!昨日はどうも!」
その名前で呼ぶな。しかもなんで口調が既に友達みたいやねん。
「まあ、そういう訳や。ほな江戸、行こか」
どういう訳や。面倒臭い。ホンマに面倒臭い。でもここで騒ぎを起こすのはもっと面倒や。結局またそのへんの西澤の店、イーグルへ行った。
今日は昨日のメンバーはおらへんな。というか、客が誰もおらへんやんか。
「メンバーを店で『遊ばせる』時間は、大体昴の出勤時間までや。ヒマな時間の売上の補填にもなるからな。もちろん混んで来たら帰らせるけどな。今日はあいつら走りに行ったはずや」
「買い出し、行ってきますわ」
と男の子も出て行った。
「親父、ええで。ヒマそうやし、代わる」
「そうか、じゃあ頼むわ。忙しなったら言いや。お友達もごゆっくり」
とお父様も出て行かれた。ちなみに御自宅は上のマンションではなく戸建の別宅だそうで、この流れでお父様が閉店まで帰って来る事は無いとの事。西澤は信用されとるんやろう。見事な人払いやな。
カウンターへ座ると、コーヒーはブルーマウンテン、このミルフィーユも奢りやと出された。明らかに買収工作やろ、これ。
「J高の事か」
察しがええな、と西澤が一瞬ニヤリとして、すぐに緩めた口角と目元を引き締めて話し始めた。
「私らがどういうチームなのかはもう調べてあるんやろ?J高と関係が無い事も、わかっとると思う」
ウチは黙って話の続きを待った。
「J高は府内でも屈指の進学率なんやけど、校内の一部にナショナル・ラブ・グラフィティ(通称・ナショラブ)という組織がおるんや」
初めて聞く名前やった。
「見た目は普通。成績も優秀で素行も良い。学校側とすればこんな模範的な生徒はおらん。ただ、極端に偏ったイデオロギーでな…」
「イデオロギー?昔の学生運動とか、そんな感じなんか?」
「いや、その真逆なんや。学生運動の矛先は国会へ向いとったけど、奴らの矛先は反権力へ向かう。一番の違いは、国会は権力っていう盾を持っとるけど、反権力の多くは身を守る盾を持ってへん、という事や。それをええ事に、自分達と違う考え方を世論の同調圧力なども上手く利用しながら潰していく。しかも自分達は手を汚さず、狡猾に」
なんか難しい話になってきたな。自分と考えが違う奴らは相手にせえへんかったらええのに、なんで排他的やねん、とウチなんかは思うんやけど、あるいは振り切ってメッチャ仲良くなるか。それじゃあ、あかんのかな?話の続きを待った。
「構成メンバーは、自分の学校の生徒と、校外で勧誘した人達。ネットで入会する人も多いみたいやな。年齢は様々で、校内では足が付く様な勧誘・活動はしてへん様や」
部活としても存在しないとの事。
「おたくのT校にも、ナショラブおるで」
三年間おって、全然知らんかった。昴、とかいう子が調べていたとの事。でもなんでウチらの学校に?
「編入や。おたくのT高は医療系大学に強いやろ?そこへの推薦枠も多いからな。編入の為の試験科目も英数国だけ。元々進学校のJ高におったくらいやから難易度は問題無いはずや。T校も欠員を早く埋めたいやろうし、優秀なJ高の生徒やったら大歓迎やろ」
初めからT高へ来れば良かったのに、とも思ったが、逆にウチは医者である親の意向もありこの学校を選んだものの、どうしても医療系大学へ行きたい訳ではなく、つまり入口と出口が変わるかもしれない人なので、あまりとやかくは言えないが。
「それ、ナショラブの活動を拡大したい為に送り込まれたんか?それとも純粋に転入したい人がたまたまそうやったんか?」
「まあ、どっちも、やな。J校内の会員の中から希望を募った結果、選ばれた」
「ウチらの生徒に校門でちょっかいを出してたんは、ナショラブを炙り出しとったんか?それとも、あのカツアゲは資金稼ぎか?」
「あの時、あんたとこの生徒、何か盗られたか?」
そういえば脅されたけど、実害は無かった言うてたな。いや、なんも、と答えると、
「脅かしたんは悪かったな。どれくらい抵抗出来るか、色々とチェックをな…」
「スカウトか?戦力になるか?でも、あんたらのチームは喧嘩せえへんのと違うんか?」
「まあそんなところや。喧嘩はせえへんけど、『友達』は欲しいからな」
不器用かい!なんにせよ感心しないやり方やな。それでウチはまんまと炙り出された訳か。うちは温くなったコーヒーを一口飲んだ。
「あんたが最初に助けた三人がナショラブやった」
マジか。ただあの状況で助けへん訳にはいかんやろ。転入生やったら顔を知らんのも無理はなかった。
「なんで分かった?昴とかいう子か?」
あの騒ぎの時、三人のうちの一人がナショラブ会員のバッチを落としたらしい。それを西澤の子分がウチから逃げながら証拠として回収したとの事。
「昴が全校の教室を回って、このバッチ落とした人いませんかーと、聞いて回ったんや。ナショラブは知らんでも、こういうバッチを持っている人が居る、と学校内で周知させるくらいは出来る」
でも自分達の存在を隠したいのに、そういう目印を付けさせるかな?
「証拠品として回収したのはええけど、リスクもあったんや」
「発信機か?」
「せやねん。私らがバッチを持って帰った事で、ヤツラにこの店を教える事になった」
「でも店は、元々場所もネットで公開しとるやろ?」
「ただ、私らがナショラブを嗅ぎ回っている事は知られていなかった。でもこれで一致してもうた」
「わざと落として行ったんかな?」
「そうかもな。結局知らん顔されて、学校内でナショラブはバレてない訳やし、私らを見付けた訳やからな」
「という事は、今回校内練り歩いた昴君の家も…」
「いや、それは大丈夫や。一旦店で回収した時に発信機を外してから昴に持ち帰らせたさかい」
それを聞いてホッとした。
「麻衣さん、ただいま戻りましたー」
甲高い声が元気良く店に入って来た。
御苦労さん、と西澤は昴君から買い出しの袋を受け取ると、ちょっと休めとコーヒーを出しながら、私の隣のカウンターへ座れと促した。冷めてもうたな、入れ直しや、と私のコーヒーも新しくしてくれた。
あとJ高のナショラブに対して、ウチらのT校近く、N高に「ヒューマン・ライフ・マーケット(通称・ヒトマケ)」という部活があるという。政治の疑問や社会の問題点等を自分達なりに考えて発信しているそうや。ナショラブと違うのは、活動はフルオープンで、校内で堂々と活動している。駅前でビラを配ったり、何とかデモ(内容は顧問の先生と吟味の上)に参加したり、その様子をウェブにアップしたり。何よりも楽しそうな雰囲気が伝わってくる。イーグルのメンバーとは、海岸のゴミ拾いのボランティアで知り合ったそうや。
「え?あんたらそんな事やっとんの?」
失礼ながら、意外な感じで声を出したら、西澤は柔和な笑顔を浮かべながら、近所の人に怖い見た目だけで判断されへんようにな、と言った。
「なんや、偽善かいな。じゃあ、普通の格好をすればええやん?」
と、身も蓋もない事を言うてしもうたかなと思ったら、西澤は、私からやれと言うた訳やないけどな、と前置きして、
「見た目もそうやけど、あとみんなサーフィンをすんねん。せやから砂浜を歩いて足を怪我したくないんやと。自分等の為です、言うとったわ。確かに偽善かもしれんな」
ちなみに昴君は相当の腕前らしい。将来はオリンピックにも出てみたいとの事や。
パン!パリン!
爆竹の様な破裂音と、ガラスが割れる音の方を見ると、窓際の四人掛けテーブルと椅子に、割れた窓ガラスの破片と、砕けた石が散乱しとった。
「奴らや!昴、江戸を裏から帰らせて!」
西澤は、あっちからや、と出口の方を指差しながらカウンターの外へ出て来た。じっと割れた窓ガラスの方を見つめ、次に起こる事態に備え、さっきの穏やかな顔とは真逆の、軍人の様な強ばった表情で泰然自若に身構えながら、あんた、はよう帰れ、と再度落ち着いた低い声でウチらを促した。その声は店を出る以外の選択肢を与えてはくれなかった。ウチは見るからに重そうな鉄製の裏口ドアを両手で押し開け、西澤を残してとりあえず表に出た。
「昴君、これ、初めてか?」
昴でええですよ、お京さん、と屈託なく笑ったあと、すぐに真面目な表情になり昴は話を続けた。
「はい、初めてです。恐らく発信機で店が特定出来たからでしょう。とりあえず、家まで送って行きますわ」
裏口から昴のバイクを停めてある駐車場の入口までは、ビルの構造上店の前の道路に一度出なければならなかった。ドアを出て右を見ると、正面の生活道路が見える。一旦店内に引いて、奴らがおらへんか首だけ覗き込んだ。
「万が一見つかってもええ様に、僕が先に行きます。大丈夫やったら合図しますんで」
昴が相手の目線に少しでも入らない様に、小さく腰を落として慎重に進んだ。
数秒後、昴が手招きした。ウチは小走りで昴のもとへ駆け寄った。
「帰ったんか?」
「そうみたいですね。今回は脅しだけ。これ以上首を突っ込むな、というところでしょうかね」
「ほうか。なら、店に戻ろか」
「え?」
「え?やあるかい。今頃西澤、割れた窓ガラスの掃除をしとるんやろ?あんた誰から給料もろうとんのや?掃除手伝わんかい。ウチもやるさかい」
「そんなん、お京さん送った後でも出来ますやん。今はお京さんの安全が一番大事ですから…」
バシッ!
「えーーー?なんですのん、今の張り手は?」
昴は後頭部を押さえながら口答えをした。
「やかましいねん。その頃にはもう掃除終わっとるわ。ウチの安全や?誰のおかげでこんな面倒な事になっとる思うとんねん?あんたらがウチを巻き込んだせいやろ?」
これから何度となく昴に入れる、これが第一発目のツッコミやった。
店内に戻ると、西澤が割れたガラスを片付けとった。
「麻衣さん、自分やります、ガラスで怪我したら危ないんで!」
「なんや、江戸を送ってこい、言うたやろ?」
いや、その、と昴が答え辛そうにしとったから、
「ああ、どうやら奴ら、もう帰ったみたいやったから、なんか後味悪いし、口直しにコーヒーもう一杯飲んでいこう思うてな」
「え?あんたが追い返したんか?」
「いや、駐車場へ行くのに正面に回ったら、既におらへんかったんや。まあ、ここでいきなり仕掛けてはこんやろ。騒いで顔がバレたらナショラブの存在も公になるかもしらへんからな」
あと、ミルフィーユも頂くわ、と言いながら、掃除をしている西澤に近付き、飛び散った窓ガラスの破片と、投げ込まれたであろう石の欠片を拾い上げた。火薬の臭いがした。
「手が込んどるな」
石に爆竹が仕込んであった様や。
『ムクドリのねぐら対策に使われる爆竹は、漢代に行われていた悪鬼及び疫病の駆逐をする為に、竹を焚火にくべて爆発させた風習に由来するもので…』
カウンターの隅に置いてある小型テレビの中で、アナウンサーが話している。
「ウチらは、悪鬼かい!」
「ナショラブにとっては、思想の違う奴らは自分らを邪魔する悪い鬼なんやろ?」
「そういえば、ガラス、西澤のお父さんにはなんて言おう?」
ちなみにイーグルの名前は、バイクのハンドルの形でもなく、鳥の種類でもなく、ゴルフのスコアの事なのだそうだ。
『バーディは、まあ取れる事もある。アルバトロスは、ほぼ運や。もうちょっと頑張れば取れる上のスコアがイーグルなんや』
ゴルフ好きの、鬼の形相のお父様の手にゴルフクラブ、の如く怒られるのはかまへんけど、本当の事なんか言われへん。信用してもらっているのに嘘を付かなあかんのが心苦しい。
「まあ、忘れ物取りにきたメンバーが、慌てて運転ミスしてバイクがぶつかった、とでもしとくわ」
報連相は、はよせんとな、と言いながら、表の札を準備中にして、ガラス屋の手配を済ませたあと、メンバーの一人に呼び出しの電話をかけている。そして彼女の到着を待って、西澤はお父様に電話をかけて、ホンマ申し訳ないと努めて明るく事情を説明した。姿の見えないお父様に、一生懸命頭を下げているメンバーの人も、付き合わせてホンマ申し訳ない…
「バンダナよう似合うとるな」
「何しに来たんや。ウチは、用はないで」
こいつ一人やったらいらんな、と思い、バンダナを外した。
「今日は昴のお迎えや。昨日おったヤツや。私の従兄弟なんやけど、愛想もええからバイトしてもろうてるんや」
そうか、ほなさいなら、と立ち去ろうとしたら、腕を掴まれた。
コイツ、なんやこの力は…
「まあ、そう言わんと、せっかくやから茶でもしばこうや。『そのへん』で」
ほどなくして、昨日の甲高い声の子が現れた。
「麻衣さん、どうも待たせしました。あ、バンダナのお京さん!昨日はどうも!」
その名前で呼ぶな。しかもなんで口調が既に友達みたいやねん。
「まあ、そういう訳や。ほな江戸、行こか」
どういう訳や。面倒臭い。ホンマに面倒臭い。でもここで騒ぎを起こすのはもっと面倒や。結局またそのへんの西澤の店、イーグルへ行った。
今日は昨日のメンバーはおらへんな。というか、客が誰もおらへんやんか。
「メンバーを店で『遊ばせる』時間は、大体昴の出勤時間までや。ヒマな時間の売上の補填にもなるからな。もちろん混んで来たら帰らせるけどな。今日はあいつら走りに行ったはずや」
「買い出し、行ってきますわ」
と男の子も出て行った。
「親父、ええで。ヒマそうやし、代わる」
「そうか、じゃあ頼むわ。忙しなったら言いや。お友達もごゆっくり」
とお父様も出て行かれた。ちなみに御自宅は上のマンションではなく戸建の別宅だそうで、この流れでお父様が閉店まで帰って来る事は無いとの事。西澤は信用されとるんやろう。見事な人払いやな。
カウンターへ座ると、コーヒーはブルーマウンテン、このミルフィーユも奢りやと出された。明らかに買収工作やろ、これ。
「J高の事か」
察しがええな、と西澤が一瞬ニヤリとして、すぐに緩めた口角と目元を引き締めて話し始めた。
「私らがどういうチームなのかはもう調べてあるんやろ?J高と関係が無い事も、わかっとると思う」
ウチは黙って話の続きを待った。
「J高は府内でも屈指の進学率なんやけど、校内の一部にナショナル・ラブ・グラフィティ(通称・ナショラブ)という組織がおるんや」
初めて聞く名前やった。
「見た目は普通。成績も優秀で素行も良い。学校側とすればこんな模範的な生徒はおらん。ただ、極端に偏ったイデオロギーでな…」
「イデオロギー?昔の学生運動とか、そんな感じなんか?」
「いや、その真逆なんや。学生運動の矛先は国会へ向いとったけど、奴らの矛先は反権力へ向かう。一番の違いは、国会は権力っていう盾を持っとるけど、反権力の多くは身を守る盾を持ってへん、という事や。それをええ事に、自分達と違う考え方を世論の同調圧力なども上手く利用しながら潰していく。しかも自分達は手を汚さず、狡猾に」
なんか難しい話になってきたな。自分と考えが違う奴らは相手にせえへんかったらええのに、なんで排他的やねん、とウチなんかは思うんやけど、あるいは振り切ってメッチャ仲良くなるか。それじゃあ、あかんのかな?話の続きを待った。
「構成メンバーは、自分の学校の生徒と、校外で勧誘した人達。ネットで入会する人も多いみたいやな。年齢は様々で、校内では足が付く様な勧誘・活動はしてへん様や」
部活としても存在しないとの事。
「おたくのT校にも、ナショラブおるで」
三年間おって、全然知らんかった。昴、とかいう子が調べていたとの事。でもなんでウチらの学校に?
「編入や。おたくのT高は医療系大学に強いやろ?そこへの推薦枠も多いからな。編入の為の試験科目も英数国だけ。元々進学校のJ高におったくらいやから難易度は問題無いはずや。T校も欠員を早く埋めたいやろうし、優秀なJ高の生徒やったら大歓迎やろ」
初めからT高へ来れば良かったのに、とも思ったが、逆にウチは医者である親の意向もありこの学校を選んだものの、どうしても医療系大学へ行きたい訳ではなく、つまり入口と出口が変わるかもしれない人なので、あまりとやかくは言えないが。
「それ、ナショラブの活動を拡大したい為に送り込まれたんか?それとも純粋に転入したい人がたまたまそうやったんか?」
「まあ、どっちも、やな。J校内の会員の中から希望を募った結果、選ばれた」
「ウチらの生徒に校門でちょっかいを出してたんは、ナショラブを炙り出しとったんか?それとも、あのカツアゲは資金稼ぎか?」
「あの時、あんたとこの生徒、何か盗られたか?」
そういえば脅されたけど、実害は無かった言うてたな。いや、なんも、と答えると、
「脅かしたんは悪かったな。どれくらい抵抗出来るか、色々とチェックをな…」
「スカウトか?戦力になるか?でも、あんたらのチームは喧嘩せえへんのと違うんか?」
「まあそんなところや。喧嘩はせえへんけど、『友達』は欲しいからな」
不器用かい!なんにせよ感心しないやり方やな。それでウチはまんまと炙り出された訳か。うちは温くなったコーヒーを一口飲んだ。
「あんたが最初に助けた三人がナショラブやった」
マジか。ただあの状況で助けへん訳にはいかんやろ。転入生やったら顔を知らんのも無理はなかった。
「なんで分かった?昴とかいう子か?」
あの騒ぎの時、三人のうちの一人がナショラブ会員のバッチを落としたらしい。それを西澤の子分がウチから逃げながら証拠として回収したとの事。
「昴が全校の教室を回って、このバッチ落とした人いませんかーと、聞いて回ったんや。ナショラブは知らんでも、こういうバッチを持っている人が居る、と学校内で周知させるくらいは出来る」
でも自分達の存在を隠したいのに、そういう目印を付けさせるかな?
「証拠品として回収したのはええけど、リスクもあったんや」
「発信機か?」
「せやねん。私らがバッチを持って帰った事で、ヤツラにこの店を教える事になった」
「でも店は、元々場所もネットで公開しとるやろ?」
「ただ、私らがナショラブを嗅ぎ回っている事は知られていなかった。でもこれで一致してもうた」
「わざと落として行ったんかな?」
「そうかもな。結局知らん顔されて、学校内でナショラブはバレてない訳やし、私らを見付けた訳やからな」
「という事は、今回校内練り歩いた昴君の家も…」
「いや、それは大丈夫や。一旦店で回収した時に発信機を外してから昴に持ち帰らせたさかい」
それを聞いてホッとした。
「麻衣さん、ただいま戻りましたー」
甲高い声が元気良く店に入って来た。
御苦労さん、と西澤は昴君から買い出しの袋を受け取ると、ちょっと休めとコーヒーを出しながら、私の隣のカウンターへ座れと促した。冷めてもうたな、入れ直しや、と私のコーヒーも新しくしてくれた。
あとJ高のナショラブに対して、ウチらのT校近く、N高に「ヒューマン・ライフ・マーケット(通称・ヒトマケ)」という部活があるという。政治の疑問や社会の問題点等を自分達なりに考えて発信しているそうや。ナショラブと違うのは、活動はフルオープンで、校内で堂々と活動している。駅前でビラを配ったり、何とかデモ(内容は顧問の先生と吟味の上)に参加したり、その様子をウェブにアップしたり。何よりも楽しそうな雰囲気が伝わってくる。イーグルのメンバーとは、海岸のゴミ拾いのボランティアで知り合ったそうや。
「え?あんたらそんな事やっとんの?」
失礼ながら、意外な感じで声を出したら、西澤は柔和な笑顔を浮かべながら、近所の人に怖い見た目だけで判断されへんようにな、と言った。
「なんや、偽善かいな。じゃあ、普通の格好をすればええやん?」
と、身も蓋もない事を言うてしもうたかなと思ったら、西澤は、私からやれと言うた訳やないけどな、と前置きして、
「見た目もそうやけど、あとみんなサーフィンをすんねん。せやから砂浜を歩いて足を怪我したくないんやと。自分等の為です、言うとったわ。確かに偽善かもしれんな」
ちなみに昴君は相当の腕前らしい。将来はオリンピックにも出てみたいとの事や。
パン!パリン!
爆竹の様な破裂音と、ガラスが割れる音の方を見ると、窓際の四人掛けテーブルと椅子に、割れた窓ガラスの破片と、砕けた石が散乱しとった。
「奴らや!昴、江戸を裏から帰らせて!」
西澤は、あっちからや、と出口の方を指差しながらカウンターの外へ出て来た。じっと割れた窓ガラスの方を見つめ、次に起こる事態に備え、さっきの穏やかな顔とは真逆の、軍人の様な強ばった表情で泰然自若に身構えながら、あんた、はよう帰れ、と再度落ち着いた低い声でウチらを促した。その声は店を出る以外の選択肢を与えてはくれなかった。ウチは見るからに重そうな鉄製の裏口ドアを両手で押し開け、西澤を残してとりあえず表に出た。
「昴君、これ、初めてか?」
昴でええですよ、お京さん、と屈託なく笑ったあと、すぐに真面目な表情になり昴は話を続けた。
「はい、初めてです。恐らく発信機で店が特定出来たからでしょう。とりあえず、家まで送って行きますわ」
裏口から昴のバイクを停めてある駐車場の入口までは、ビルの構造上店の前の道路に一度出なければならなかった。ドアを出て右を見ると、正面の生活道路が見える。一旦店内に引いて、奴らがおらへんか首だけ覗き込んだ。
「万が一見つかってもええ様に、僕が先に行きます。大丈夫やったら合図しますんで」
昴が相手の目線に少しでも入らない様に、小さく腰を落として慎重に進んだ。
数秒後、昴が手招きした。ウチは小走りで昴のもとへ駆け寄った。
「帰ったんか?」
「そうみたいですね。今回は脅しだけ。これ以上首を突っ込むな、というところでしょうかね」
「ほうか。なら、店に戻ろか」
「え?」
「え?やあるかい。今頃西澤、割れた窓ガラスの掃除をしとるんやろ?あんた誰から給料もろうとんのや?掃除手伝わんかい。ウチもやるさかい」
「そんなん、お京さん送った後でも出来ますやん。今はお京さんの安全が一番大事ですから…」
バシッ!
「えーーー?なんですのん、今の張り手は?」
昴は後頭部を押さえながら口答えをした。
「やかましいねん。その頃にはもう掃除終わっとるわ。ウチの安全や?誰のおかげでこんな面倒な事になっとる思うとんねん?あんたらがウチを巻き込んだせいやろ?」
これから何度となく昴に入れる、これが第一発目のツッコミやった。
店内に戻ると、西澤が割れたガラスを片付けとった。
「麻衣さん、自分やります、ガラスで怪我したら危ないんで!」
「なんや、江戸を送ってこい、言うたやろ?」
いや、その、と昴が答え辛そうにしとったから、
「ああ、どうやら奴ら、もう帰ったみたいやったから、なんか後味悪いし、口直しにコーヒーもう一杯飲んでいこう思うてな」
「え?あんたが追い返したんか?」
「いや、駐車場へ行くのに正面に回ったら、既におらへんかったんや。まあ、ここでいきなり仕掛けてはこんやろ。騒いで顔がバレたらナショラブの存在も公になるかもしらへんからな」
あと、ミルフィーユも頂くわ、と言いながら、掃除をしている西澤に近付き、飛び散った窓ガラスの破片と、投げ込まれたであろう石の欠片を拾い上げた。火薬の臭いがした。
「手が込んどるな」
石に爆竹が仕込んであった様や。
『ムクドリのねぐら対策に使われる爆竹は、漢代に行われていた悪鬼及び疫病の駆逐をする為に、竹を焚火にくべて爆発させた風習に由来するもので…』
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「ウチらは、悪鬼かい!」
「ナショラブにとっては、思想の違う奴らは自分らを邪魔する悪い鬼なんやろ?」
「そういえば、ガラス、西澤のお父さんにはなんて言おう?」
ちなみにイーグルの名前は、バイクのハンドルの形でもなく、鳥の種類でもなく、ゴルフのスコアの事なのだそうだ。
『バーディは、まあ取れる事もある。アルバトロスは、ほぼ運や。もうちょっと頑張れば取れる上のスコアがイーグルなんや』
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「まあ、忘れ物取りにきたメンバーが、慌てて運転ミスしてバイクがぶつかった、とでもしとくわ」
報連相は、はよせんとな、と言いながら、表の札を準備中にして、ガラス屋の手配を済ませたあと、メンバーの一人に呼び出しの電話をかけている。そして彼女の到着を待って、西澤はお父様に電話をかけて、ホンマ申し訳ないと努めて明るく事情を説明した。姿の見えないお父様に、一生懸命頭を下げているメンバーの人も、付き合わせてホンマ申し訳ない…
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キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
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