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第十一章
夢の途中のメモリアル③
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全国大会まではまだ日にちがあったので、哲坊・昴・小田ちゃんと、のんびり各駅停車の旅(と、いう程の物ではないが)に出かけた。
四人掛けの座席に向かい合って座り、小田原名物の鯛飯を、
「めで鯛、めで鯛」
などとベタな事を言い合いながら、パク付く。昴の奴はビールまで買い込み、皆に振舞っていた。宛らお座敷列車やな。車も便利だが、こういう事が出来るのは電車ならではだ。
そういえば今年成人式に参加していたなぁと、日頃の疲れと酒で、あっという間に眠りについた哲坊の寝顔を見て思い出した。
あの事故から二年と六ヶ月が過ぎた。
小田ちゃんが面白がって、自分にもたれ掛かっている哲坊の鼻の頭をぷにぷにと押さえる。
「やめとき。口で息をされて、酒臭い寝息出されたらたまらんわ」
「ふふ。江戸さんは優しいですね」
こんな口の悪い女の何処が優しいねん、と思いながら、車窓に目を移す。「山田ラジオ店」という看板が目に入った。今時ラジオ店とは。何を売っているのだろう。おそらく今はパソコンとか、家電一般を扱っているのだろうか。
そういえば、この辺りは昔からの家屋が多い。
「江戸さん、ほら、空の色、凄く綺麗ですよ!」
小田ちゃんが、興奮気味に教えてくれたので見てみると、確かに都会では見た事のない様な青い空だった。
余程感動したのか、いつもより少し低い声で、小田ちゃんが突然語り出した。
「まどろみから目を覚ますと、普段は人前で手を繋ぐ事すら嫌がる彼女の顔が、僕の肩にもたれ掛かってきた。さすがの彼女の貞操も、睡魔と電車の揺れには勝てなかったらしい。ほのかな髪の香りと心地良い重さ、可愛らしい寝顔が、僕の鼻と心を惑わせる。
ふと窓の外を見た時、僕は一瞬自分の目を疑った。
空の色が青い。
もちろん晴れた空というやつは青い物だが、同じ雲一つない青空でも、都会のそれとは全く似て異なる。
透明度が違う。
東京から一時間離れるだけでこうも違う物なのか。それとも僕の高揚した気持ちがそう見せるのか、分からない。
丁度茅ヶ崎辺りだったのだが、どこかのロックバンドが「茅ヶ崎バンザイ」と叫ぶ気持ちが分かる様な気がした。
夏の終わりの空でさえこの見事さである。
真夏の絶頂期の空と太陽には、どれ程の魔力が込められているのだろうか。
男と女がまるで魔法にかかった様に恋に落ち、狂った様にお互いの唇と体をむさぼり合う訳である。
目的地まではまだ時間がある。僕は彼女を起こさない様に(起きて僕からどうか離れない様に)、息を殺して、そっと目を閉じた…」
以前に読んだ、小説の一節だそうだ。よう覚えとるなぁ。
車窓の進行方向に、たわわに花びらを付けた桜が見えて来た。今日の陽気で、開花がピークを迎えた様だ。
強い風が吹いたらしく、桜の木が突然大きく揺れた。そしてまるで打ち出の小槌でも振った様に、花びらをまき散らした。
花びらが窓に吸い寄せられて来る。
「何だか、幼稚園の窓みたいですね」
私、そういえば桜組だったんですよ、と小田ちゃんが無邪気に笑う。
「アメリカへ行ったのは、そのあとなんか?」
「はい。小中学校は向こうでした。江戸さん、良く知っていますね?私、話しました?」
「そこで寝とるヤツが言うとったわ」
大人のウチは昴の足下にあるビニール袋の中からビールを二本拝借した。
「花見や」
栓を開け、一本を小田ちゃんに渡した。
次に自分の分も開けて、乾杯!と、小田ちゃんと缶を合わせた。
そして、花びらの付いた窓にもコンッと乾杯すると、普段よりも多めに最初の一口を飲んだ。
車内に太陽の光が射し込んで来た。住宅街を抜けて、再び海がみえた。すると余程眩しかったのか、昴が目を覚ました。
「ふぁ~。メッチャ眩しいですね。ブラインド降ろしましょうよ。あ、桜の花びらやないですか。何か、おつ、ですねぇ」
昴は、一度ブラインドを降ろそうとしたがその手を止め、しばらく窓に張り付いた花びらに見入っていた。そして、じゃあ僕も、と言いながらビールの栓を開ける。
「あ、昴、ごちそうさん。ビール、もろたで」
まあ、こんな事を気にする奴ではないが、一応、断りを入れておく。
「ああ、どうぞどうぞ。あ、小田さんも。ビール、ガンガン行って下さいよ」
もう一本、どうですか?と言いながら、小田ちゃんにビールを差し出す。彼女は、有り難うございます、と言いながらも、今開けたところなので、まだ結構です、とやんわり断った。
アルコールの臭いが、結構充満してきた。
昴が、そういえば、と切り出した。
「いや~、夢を見ていましたよ。普段は人前で手を繋ぐ事すら嫌がる彼女の顔が、ボクの肩にもたれ掛かってきてですね…」
「起きとったんかい!」
小田ちゃんが、私、ちょっと…と、恥ずかしさのあまり、席を立とうとする。
「今更かい!あんたこの前の神社といい、思い詰めたら後先考えへんタイプやな」
哲坊の寝顔は、思いっ切り目尻が垂れ下がっていた。
「いや~、たまにはこんなんもエエですね~。駅弁食ってビール飲んで」
何処を見て回った、という訳ではない。最後、車内から富士山を眺めたら、誰からともなく引き返そう、という事になり、そこで降りてしばらく富士山を堪能して、次の上りの電車で来た駅を戻っただけだった。雰囲気は居酒屋で話しているのと変わらない。店が動いているかそうでないかだけだった。
でもただそれだけの事だけど楽しかった。
昴は、缶ビールを片手にまだ余韻を楽しんでいる。
酔っぱらいの千鳥足ではないが、左右に蛇行して何だか危なっかしい。こんな調子なので、皆で昴を自宅まで送り届ける事にした。ウチは酔った人に肩を貸す様な感覚で、酒客の車椅子のハンドルを握った。
「お京~さん、らいじょうぶ、らいじょ~うぶ、ぼかぁ~酔ってません!」
テンプレ過ぎやろ。車椅子には、飲酒運転の取り締まりは無いんやろうか?
「あ、ここ、ここ!お京さん!」
昴が、不必要な大声でウチに向かって叫んだ。
「僕が、車椅子になって、一番辛いと思った場所が、この公園なんです」
昴が、語り始めた。
「あそこに滑り台があるでしょう?あ、ちょっと行ってみましょうか」
自分で行きますわ、と言い、車輪を漕ぎ出した。
昴に続いて、滑り台の所までやって来た。
「普通の滑り台より広いでしょう?親と子が一緒に滑られる様になっているんですわ」
ウチは、街灯に照らされて、鈍く輝いているステンレスの遊戯施設に触れてみた。無機質特有の、ひんやりとした感じが手に伝わって来た。
「娘とここに来た時、丁度一組の親子が一緒に滑っていたんです。で、それを見た娘が、ねぇパパ、おもしろそう!私もしたい!あれやって!と…」
昴は微笑みながら続けた。
「もちろん、悪気があって言った訳ではなく、本当にして貰えると思って言ったのでしょう。僕は自分の事は何を言われても例え馬鹿にされても平気やと思っとったんです。車椅子も自由に使えるし、バスケにも出逢って、結婚して子供にも恵まれて、生活に困らないくらいの収入もあり、自分に自信も持てていました。幸せでした。ただこれはショックでしたね。僕はこの子に、普通の父親なら当たり前にしてあげられる事がしてあげられないんやな、と。自分がまるで父親として欠陥商品の判子を押された様に思えてきたんです。今まで頑張ってきた事が全部ひっくり返された様な…」
ウチは改めて昴に謝りたい気持ちを抑えて、昴の話を最後まで聞く事にした。
「妻や子供には、気にさせまいとなんとか平静を装っていたんですけどね。仕事場の上司、クラス担任の先生には様子がおかしい事がすぐにバレましてね…」
昴は小学校の体育専科教員で、副担任も兼任している。
「この事を話しましたら、ただ一言、『あなたには、あなたにしか出来ない事があるはずよ』って。それで、僕は何をしたかって言うと、娘をドライブに連れて行きました。ドライブって言うても、車椅子の上に娘を乗せて、いつものランニングコースを一緒に走っただけですけどね。もうキャーキャー言うて、ゴーカートみたい、と大喜びでしたわ」
それで、と昴が話を続けた。
「僕はね、自分がこんなやから、はじめ結婚は諦めようと思っとったんです。自分のせいで、彼女に不憫な思いをさせるのが辛かったんです。でも、彼女の事がどうしても好きだったから、僕はこう言ったんです」
昴は、思いっ切り息を吸い込むと、夜空に向かって大声で叫び出した。
「人は、誰でも幸せになる為に生まれて来たと思う!だから、僕の中にも幸せな部分は必ずあると思う!でも、僕は障害者や!だからあなたにあげられる幸せの形はもしかしたら…いや、きっと他の人とは違う形をしていると思う!そして僕は変わりもんやから、他にも色々人と違う所があるかもしれへん!でも、僕にあげられるありったけの幸せを、あなたにあげたいと思ってる!僕は、あなたといられる事が最高の幸せです!だから、もしそんな僕の幸せを受け取って、共有してもらえるんやったら、僕と結婚して下さい!」
ヒューッ。
ウチはなんか嬉しくなって、昴の頭をどついていた。
「痛っ!何するんですか!」
「あ、悪い、悪い。いや、つい思わず…」
いや、それ絶対に悪いって思ってないですよね?と頭をさすりながら、照れ臭そうに昴が続けた。
「何でこんな話をしたかと言うとですね、まあ、だから全国大会頑張りましょう、と。役員さんの開会式の挨拶やないですけど、全国に向けて、世界に向けて、皆様、羽ばたいて行きましょう。そして、ボクらの『御』活躍が、障害を持った方の一筋の光となる様に良いプレーをしましょう、という、僕の決意表明でした、以上!」
飲みかけのビールを、夜空に向かって乾杯!という仕草をして、昴はそれを一気に飲み干した。
どうやらこいつは、語り上戸の様だ。
この二ヶ月後に行われた内閣総理大臣杯で、昴のチームと哲坊のチームはまたもワンツー・フィニッシュを飾った。但し、今度はお返しとばかりに、昴のチームがワンで、哲坊のチームがツーだった。
そして昴は順当に、哲坊は初めての車椅子バスケ日本代表に選ばれた。
四人掛けの座席に向かい合って座り、小田原名物の鯛飯を、
「めで鯛、めで鯛」
などとベタな事を言い合いながら、パク付く。昴の奴はビールまで買い込み、皆に振舞っていた。宛らお座敷列車やな。車も便利だが、こういう事が出来るのは電車ならではだ。
そういえば今年成人式に参加していたなぁと、日頃の疲れと酒で、あっという間に眠りについた哲坊の寝顔を見て思い出した。
あの事故から二年と六ヶ月が過ぎた。
小田ちゃんが面白がって、自分にもたれ掛かっている哲坊の鼻の頭をぷにぷにと押さえる。
「やめとき。口で息をされて、酒臭い寝息出されたらたまらんわ」
「ふふ。江戸さんは優しいですね」
こんな口の悪い女の何処が優しいねん、と思いながら、車窓に目を移す。「山田ラジオ店」という看板が目に入った。今時ラジオ店とは。何を売っているのだろう。おそらく今はパソコンとか、家電一般を扱っているのだろうか。
そういえば、この辺りは昔からの家屋が多い。
「江戸さん、ほら、空の色、凄く綺麗ですよ!」
小田ちゃんが、興奮気味に教えてくれたので見てみると、確かに都会では見た事のない様な青い空だった。
余程感動したのか、いつもより少し低い声で、小田ちゃんが突然語り出した。
「まどろみから目を覚ますと、普段は人前で手を繋ぐ事すら嫌がる彼女の顔が、僕の肩にもたれ掛かってきた。さすがの彼女の貞操も、睡魔と電車の揺れには勝てなかったらしい。ほのかな髪の香りと心地良い重さ、可愛らしい寝顔が、僕の鼻と心を惑わせる。
ふと窓の外を見た時、僕は一瞬自分の目を疑った。
空の色が青い。
もちろん晴れた空というやつは青い物だが、同じ雲一つない青空でも、都会のそれとは全く似て異なる。
透明度が違う。
東京から一時間離れるだけでこうも違う物なのか。それとも僕の高揚した気持ちがそう見せるのか、分からない。
丁度茅ヶ崎辺りだったのだが、どこかのロックバンドが「茅ヶ崎バンザイ」と叫ぶ気持ちが分かる様な気がした。
夏の終わりの空でさえこの見事さである。
真夏の絶頂期の空と太陽には、どれ程の魔力が込められているのだろうか。
男と女がまるで魔法にかかった様に恋に落ち、狂った様にお互いの唇と体をむさぼり合う訳である。
目的地まではまだ時間がある。僕は彼女を起こさない様に(起きて僕からどうか離れない様に)、息を殺して、そっと目を閉じた…」
以前に読んだ、小説の一節だそうだ。よう覚えとるなぁ。
車窓の進行方向に、たわわに花びらを付けた桜が見えて来た。今日の陽気で、開花がピークを迎えた様だ。
強い風が吹いたらしく、桜の木が突然大きく揺れた。そしてまるで打ち出の小槌でも振った様に、花びらをまき散らした。
花びらが窓に吸い寄せられて来る。
「何だか、幼稚園の窓みたいですね」
私、そういえば桜組だったんですよ、と小田ちゃんが無邪気に笑う。
「アメリカへ行ったのは、そのあとなんか?」
「はい。小中学校は向こうでした。江戸さん、良く知っていますね?私、話しました?」
「そこで寝とるヤツが言うとったわ」
大人のウチは昴の足下にあるビニール袋の中からビールを二本拝借した。
「花見や」
栓を開け、一本を小田ちゃんに渡した。
次に自分の分も開けて、乾杯!と、小田ちゃんと缶を合わせた。
そして、花びらの付いた窓にもコンッと乾杯すると、普段よりも多めに最初の一口を飲んだ。
車内に太陽の光が射し込んで来た。住宅街を抜けて、再び海がみえた。すると余程眩しかったのか、昴が目を覚ました。
「ふぁ~。メッチャ眩しいですね。ブラインド降ろしましょうよ。あ、桜の花びらやないですか。何か、おつ、ですねぇ」
昴は、一度ブラインドを降ろそうとしたがその手を止め、しばらく窓に張り付いた花びらに見入っていた。そして、じゃあ僕も、と言いながらビールの栓を開ける。
「あ、昴、ごちそうさん。ビール、もろたで」
まあ、こんな事を気にする奴ではないが、一応、断りを入れておく。
「ああ、どうぞどうぞ。あ、小田さんも。ビール、ガンガン行って下さいよ」
もう一本、どうですか?と言いながら、小田ちゃんにビールを差し出す。彼女は、有り難うございます、と言いながらも、今開けたところなので、まだ結構です、とやんわり断った。
アルコールの臭いが、結構充満してきた。
昴が、そういえば、と切り出した。
「いや~、夢を見ていましたよ。普段は人前で手を繋ぐ事すら嫌がる彼女の顔が、ボクの肩にもたれ掛かってきてですね…」
「起きとったんかい!」
小田ちゃんが、私、ちょっと…と、恥ずかしさのあまり、席を立とうとする。
「今更かい!あんたこの前の神社といい、思い詰めたら後先考えへんタイプやな」
哲坊の寝顔は、思いっ切り目尻が垂れ下がっていた。
「いや~、たまにはこんなんもエエですね~。駅弁食ってビール飲んで」
何処を見て回った、という訳ではない。最後、車内から富士山を眺めたら、誰からともなく引き返そう、という事になり、そこで降りてしばらく富士山を堪能して、次の上りの電車で来た駅を戻っただけだった。雰囲気は居酒屋で話しているのと変わらない。店が動いているかそうでないかだけだった。
でもただそれだけの事だけど楽しかった。
昴は、缶ビールを片手にまだ余韻を楽しんでいる。
酔っぱらいの千鳥足ではないが、左右に蛇行して何だか危なっかしい。こんな調子なので、皆で昴を自宅まで送り届ける事にした。ウチは酔った人に肩を貸す様な感覚で、酒客の車椅子のハンドルを握った。
「お京~さん、らいじょうぶ、らいじょ~うぶ、ぼかぁ~酔ってません!」
テンプレ過ぎやろ。車椅子には、飲酒運転の取り締まりは無いんやろうか?
「あ、ここ、ここ!お京さん!」
昴が、不必要な大声でウチに向かって叫んだ。
「僕が、車椅子になって、一番辛いと思った場所が、この公園なんです」
昴が、語り始めた。
「あそこに滑り台があるでしょう?あ、ちょっと行ってみましょうか」
自分で行きますわ、と言い、車輪を漕ぎ出した。
昴に続いて、滑り台の所までやって来た。
「普通の滑り台より広いでしょう?親と子が一緒に滑られる様になっているんですわ」
ウチは、街灯に照らされて、鈍く輝いているステンレスの遊戯施設に触れてみた。無機質特有の、ひんやりとした感じが手に伝わって来た。
「娘とここに来た時、丁度一組の親子が一緒に滑っていたんです。で、それを見た娘が、ねぇパパ、おもしろそう!私もしたい!あれやって!と…」
昴は微笑みながら続けた。
「もちろん、悪気があって言った訳ではなく、本当にして貰えると思って言ったのでしょう。僕は自分の事は何を言われても例え馬鹿にされても平気やと思っとったんです。車椅子も自由に使えるし、バスケにも出逢って、結婚して子供にも恵まれて、生活に困らないくらいの収入もあり、自分に自信も持てていました。幸せでした。ただこれはショックでしたね。僕はこの子に、普通の父親なら当たり前にしてあげられる事がしてあげられないんやな、と。自分がまるで父親として欠陥商品の判子を押された様に思えてきたんです。今まで頑張ってきた事が全部ひっくり返された様な…」
ウチは改めて昴に謝りたい気持ちを抑えて、昴の話を最後まで聞く事にした。
「妻や子供には、気にさせまいとなんとか平静を装っていたんですけどね。仕事場の上司、クラス担任の先生には様子がおかしい事がすぐにバレましてね…」
昴は小学校の体育専科教員で、副担任も兼任している。
「この事を話しましたら、ただ一言、『あなたには、あなたにしか出来ない事があるはずよ』って。それで、僕は何をしたかって言うと、娘をドライブに連れて行きました。ドライブって言うても、車椅子の上に娘を乗せて、いつものランニングコースを一緒に走っただけですけどね。もうキャーキャー言うて、ゴーカートみたい、と大喜びでしたわ」
それで、と昴が話を続けた。
「僕はね、自分がこんなやから、はじめ結婚は諦めようと思っとったんです。自分のせいで、彼女に不憫な思いをさせるのが辛かったんです。でも、彼女の事がどうしても好きだったから、僕はこう言ったんです」
昴は、思いっ切り息を吸い込むと、夜空に向かって大声で叫び出した。
「人は、誰でも幸せになる為に生まれて来たと思う!だから、僕の中にも幸せな部分は必ずあると思う!でも、僕は障害者や!だからあなたにあげられる幸せの形はもしかしたら…いや、きっと他の人とは違う形をしていると思う!そして僕は変わりもんやから、他にも色々人と違う所があるかもしれへん!でも、僕にあげられるありったけの幸せを、あなたにあげたいと思ってる!僕は、あなたといられる事が最高の幸せです!だから、もしそんな僕の幸せを受け取って、共有してもらえるんやったら、僕と結婚して下さい!」
ヒューッ。
ウチはなんか嬉しくなって、昴の頭をどついていた。
「痛っ!何するんですか!」
「あ、悪い、悪い。いや、つい思わず…」
いや、それ絶対に悪いって思ってないですよね?と頭をさすりながら、照れ臭そうに昴が続けた。
「何でこんな話をしたかと言うとですね、まあ、だから全国大会頑張りましょう、と。役員さんの開会式の挨拶やないですけど、全国に向けて、世界に向けて、皆様、羽ばたいて行きましょう。そして、ボクらの『御』活躍が、障害を持った方の一筋の光となる様に良いプレーをしましょう、という、僕の決意表明でした、以上!」
飲みかけのビールを、夜空に向かって乾杯!という仕草をして、昴はそれを一気に飲み干した。
どうやらこいつは、語り上戸の様だ。
この二ヶ月後に行われた内閣総理大臣杯で、昴のチームと哲坊のチームはまたもワンツー・フィニッシュを飾った。但し、今度はお返しとばかりに、昴のチームがワンで、哲坊のチームがツーだった。
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