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第十五話
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あれだけのことがあったので騒ぎになっているかもしれないと思ったが、そうではなかった。警察が事情を伝えてあったらしく、学校からは咲良の様子を心配する電話がかかってきたのみだ。事件が朝のショートホームルーム前に起きたことも理由の一つだろう。おそらく、今回も操られていた生徒たちは教室で起きたことを覚えてはいないはずだ。
加えて、これはまだ捜査中で詳しいことは公開されていないが、純麗が襲われたのが自宅だということも起因している。被害者が意識不明の重体にもかかわらず、詳細が公開されていないのは、もしかしたら既に犯人は捕まっているか特定されているからかもしれない。警察からも「安全は確保されているから今のところ口外は避けてほしい」と電話があった。やはり、犯人の目星はついているのだろう。本人に記憶があるかどうかは分からないが。
そして、登校してから気がついた。大事な事を忘れていたことに。なぜ思い出したかといえば、今まさに目の前で防災訓練のごとく自らの机の下で周囲を警戒している者を見つけたからだ。
周囲の生徒は特に気にした様子がない。
「ごめん、忘れてた」
サラッと謝罪をしたことにより咲良の存在に気づいた例の者。彼女は机の下からニュッと手を伸ばして咲良を引きずり込んだ。
「うわっ」
まるで妖怪のような仕草に驚く咲良。
「周囲にアンノウン多数。されど、現在攻撃性は認められず」
おかしなことを言い出した少女、秋山遙香に咲良は目が点になる。
「何してるの?」
遙香は周囲の警戒を怠らずに答える。
「何って敵を警戒してるんだよ」
「何で?」
「何でって一昨日あんな事があったばかりでしょ。逆に何で咲良は平然としてるのよ」
「ああ、確かに」
言われて、今すぐにクラスメイトたちが牙をむくかもしれない可能性に思い至る。
(考えても仕方がないことだけど)
今更感は否めない。
「もしかして、からずっとこんなことやってるの?」
「当然だよ! 私がどんなに怖い目にあったと思ってるの! あのあと一人で大変だったんだから!」
そう。咲良と朱音がいなくなったあと、他の生徒の意識が戻るまで遙香が孤独なサバイバルを繰り広げていたことは誰も知らないのである。
「それはそうと咲良の方は大丈夫だったの?」
「ああ……」
色んな事があり過ぎてどこから話せばいいのか分からなかった。
「ちょっと時間かかるから放課後に」
「分かった」
遙香が頷いたとき、上から声がかかった。
「何やってるの?」
よそ行きの声が聞こえた。
「亜利沙!」
咲良が小さく叫ぶと同時に横からまたしてもニュッと手が伸びた。
「おわっ」
二人目の犠牲者だ。
「何すんや!」
思わず西の言葉が口から出る亜利沙。
「無防備過ぎるよ」
そう言った遙香の真意が分からず、咲良に助けを求めるように視線を戻す。
もう手遅れだということを首を横に振って示す咲良。
「うん。まぁ色々あるだろうことは分かったけど……何でみんなスルーしてるの?」
亜利沙が疑問を口にすると、そばで聞いていた亜利沙の友人が答える。
「秋山さん、昨日もずっとそうしてたからさすがにみんなもう何も反応しなくなったよ」
「あー」
納得する亜利沙。
「とりあえず、詳しい話は放課後でいい?」
先程の咲良と同じ結論に行き着く亜利沙。
「うん」
「ところでそろそろ腕離してくれない?」
結局、亜利沙は担任が来るまで解放してくれなかった。
「じゃあ、もう体調はいいんだ」
放課後、近くの公園でそれぞれの状況を話すことになった三人。まずは、亜利沙が自分の無事を伝えた。
「せや。ちと訳分からんくなってたけど大丈夫や」
ひとまず安堵する咲良と遙香。
「で、遙香の方は?」
「私? 私は何ともないけど」
「いや、あんな奇怪な行動しといて何ともない訳ないやろ」
両目を細める亜利沙に、咲良が助け船を出す。
「それは、私にも関係してくることだから私が話すよ。というか、そろそろ今までのことも話さなきゃいけないと思ってた」
「ん。お願い」
咲良は今までのこと、一昨日の学校でのこと、そのあとのことをかいつまんで話した。
「すみれ……」
遙香は親友の容態を知ってトーンを落とす。
「先生から体調を崩してるとは聞いてたけど……」
次に、咲良は自分と朱音のことを話した。
「そっか、思い出したんだね……」
「遙香は知ってたの?」
「すみれが『うちの妹はダブルでかわいい』って自慢してたからね」
「あはは……」
「じゃあ、当面は凛ちゃん……もとい朱音ちゃんに会うのが目標かな?」
「そうだね。でも、朱音が会いに来てくれるのを待とうかなって思う。焦っても仕方ないって分かったし……」
「それがいいかもね」
「うんうん、そうやね! ……ってそんな訳あるかーい!!」
ちゃぶ台があったら確実にひっくり返されていただろう。亜利沙の引っ張りに引っ張ったツッコミが炸裂した。
「まぁ、そうだろうね」
冷静にツッコミを受け止める咲良。
「何も分からん! ウチが納得できるように説明してや!」
「分かる分かる。その気持ちよーく分かるよ。私もそうだったから」
いかにも、「経験者は語る」というようにしみじみと頷いてみせる遙香をほっといて咲良が言う。
「丁寧に説明してたら夜になっちゃうよ」
「でも、それを聞かんと始まらんやろ?」
「そうだけど……あ、じゃあうち来る?」
「行く!」
「何で遙香が返事しとんねん……」
弱々しいツッコミが入る。
「私はいいけど、行ってもいいん?」
「いいよ。友達泊まるの久しぶりだし嬉しいよ」
「泊まりかい!」
いつの間にかお泊まり会が決定していた。
「二人の相手してるとツッコミが追いつかん……」
亜利沙の嘆きは空気に溶けていった。
加えて、これはまだ捜査中で詳しいことは公開されていないが、純麗が襲われたのが自宅だということも起因している。被害者が意識不明の重体にもかかわらず、詳細が公開されていないのは、もしかしたら既に犯人は捕まっているか特定されているからかもしれない。警察からも「安全は確保されているから今のところ口外は避けてほしい」と電話があった。やはり、犯人の目星はついているのだろう。本人に記憶があるかどうかは分からないが。
そして、登校してから気がついた。大事な事を忘れていたことに。なぜ思い出したかといえば、今まさに目の前で防災訓練のごとく自らの机の下で周囲を警戒している者を見つけたからだ。
周囲の生徒は特に気にした様子がない。
「ごめん、忘れてた」
サラッと謝罪をしたことにより咲良の存在に気づいた例の者。彼女は机の下からニュッと手を伸ばして咲良を引きずり込んだ。
「うわっ」
まるで妖怪のような仕草に驚く咲良。
「周囲にアンノウン多数。されど、現在攻撃性は認められず」
おかしなことを言い出した少女、秋山遙香に咲良は目が点になる。
「何してるの?」
遙香は周囲の警戒を怠らずに答える。
「何って敵を警戒してるんだよ」
「何で?」
「何でって一昨日あんな事があったばかりでしょ。逆に何で咲良は平然としてるのよ」
「ああ、確かに」
言われて、今すぐにクラスメイトたちが牙をむくかもしれない可能性に思い至る。
(考えても仕方がないことだけど)
今更感は否めない。
「もしかして、からずっとこんなことやってるの?」
「当然だよ! 私がどんなに怖い目にあったと思ってるの! あのあと一人で大変だったんだから!」
そう。咲良と朱音がいなくなったあと、他の生徒の意識が戻るまで遙香が孤独なサバイバルを繰り広げていたことは誰も知らないのである。
「それはそうと咲良の方は大丈夫だったの?」
「ああ……」
色んな事があり過ぎてどこから話せばいいのか分からなかった。
「ちょっと時間かかるから放課後に」
「分かった」
遙香が頷いたとき、上から声がかかった。
「何やってるの?」
よそ行きの声が聞こえた。
「亜利沙!」
咲良が小さく叫ぶと同時に横からまたしてもニュッと手が伸びた。
「おわっ」
二人目の犠牲者だ。
「何すんや!」
思わず西の言葉が口から出る亜利沙。
「無防備過ぎるよ」
そう言った遙香の真意が分からず、咲良に助けを求めるように視線を戻す。
もう手遅れだということを首を横に振って示す咲良。
「うん。まぁ色々あるだろうことは分かったけど……何でみんなスルーしてるの?」
亜利沙が疑問を口にすると、そばで聞いていた亜利沙の友人が答える。
「秋山さん、昨日もずっとそうしてたからさすがにみんなもう何も反応しなくなったよ」
「あー」
納得する亜利沙。
「とりあえず、詳しい話は放課後でいい?」
先程の咲良と同じ結論に行き着く亜利沙。
「うん」
「ところでそろそろ腕離してくれない?」
結局、亜利沙は担任が来るまで解放してくれなかった。
「じゃあ、もう体調はいいんだ」
放課後、近くの公園でそれぞれの状況を話すことになった三人。まずは、亜利沙が自分の無事を伝えた。
「せや。ちと訳分からんくなってたけど大丈夫や」
ひとまず安堵する咲良と遙香。
「で、遙香の方は?」
「私? 私は何ともないけど」
「いや、あんな奇怪な行動しといて何ともない訳ないやろ」
両目を細める亜利沙に、咲良が助け船を出す。
「それは、私にも関係してくることだから私が話すよ。というか、そろそろ今までのことも話さなきゃいけないと思ってた」
「ん。お願い」
咲良は今までのこと、一昨日の学校でのこと、そのあとのことをかいつまんで話した。
「すみれ……」
遙香は親友の容態を知ってトーンを落とす。
「先生から体調を崩してるとは聞いてたけど……」
次に、咲良は自分と朱音のことを話した。
「そっか、思い出したんだね……」
「遙香は知ってたの?」
「すみれが『うちの妹はダブルでかわいい』って自慢してたからね」
「あはは……」
「じゃあ、当面は凛ちゃん……もとい朱音ちゃんに会うのが目標かな?」
「そうだね。でも、朱音が会いに来てくれるのを待とうかなって思う。焦っても仕方ないって分かったし……」
「それがいいかもね」
「うんうん、そうやね! ……ってそんな訳あるかーい!!」
ちゃぶ台があったら確実にひっくり返されていただろう。亜利沙の引っ張りに引っ張ったツッコミが炸裂した。
「まぁ、そうだろうね」
冷静にツッコミを受け止める咲良。
「何も分からん! ウチが納得できるように説明してや!」
「分かる分かる。その気持ちよーく分かるよ。私もそうだったから」
いかにも、「経験者は語る」というようにしみじみと頷いてみせる遙香をほっといて咲良が言う。
「丁寧に説明してたら夜になっちゃうよ」
「でも、それを聞かんと始まらんやろ?」
「そうだけど……あ、じゃあうち来る?」
「行く!」
「何で遙香が返事しとんねん……」
弱々しいツッコミが入る。
「私はいいけど、行ってもいいん?」
「いいよ。友達泊まるの久しぶりだし嬉しいよ」
「泊まりかい!」
いつの間にかお泊まり会が決定していた。
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亜利沙の嘆きは空気に溶けていった。
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