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第十六話
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「なるほどよく分からん」
咲良が純麗の部屋で一通りの説明を終えたあと、亜利沙はそう言った。
「さっきと言ってること同じじゃん」
遙香がクッキーを食べながらコメントする。
「いやまぁ、言ってることは分かるけど。どこからどこまでがホントなのか分からん」
「それは私たちも同じだから心配しないで」
咲良もチョコレートを頬張りながらしゃべる。
「明らかに普通じゃないことだと思うんやけど。……何で自分らは平然とお菓子平らげてるん?」
咲良と遙香は顔を見合わせる。
「それはまあ……」
「おいしいから?」
「うん」
今二人が食している菓子は、「友達が泊まりに来る」と言ったら急遽父親が用意したものだ。因みにいいところのお菓子である。
「答えになっとらん……」
ため息をつく亜利沙。
「学校では普通に警戒してたやん?」
問われた遙香は依然お菓子をモグモグと頬張りながら答えようとする。
「ひょふへひへひひひはいほふへふはほひへはいほほはへひはいふふへひょ」
「何言ってるか分からん!」
遙香は亜利沙に突っ込まれて口の中にあるものを食べきってから再度答えた。
「直接的に被害を受けるかもしれないものは警戒するでしょ」
「いや、それも今更だと思うよ」
咲良が助言すると、遙香はあっさり頷いた。
「そうだよね」
(いや、それは警戒するべきや……)
遙香の学校での奇妙な行動は置いといて、いつ襲われるかもしれない状況では警戒して然るべきだ。しかし、亜利沙にもう突っ込む気力は残されていない。
「……分かった。納得できない部分はあるけど、二人が決めたことなら協力するよ」
「ん。ありがと」
と、咲良がお礼を言ったところで、遙香はなぜか正座になった。
「さて、と」
そして、神妙な顔つきなる。
「何や?」
「ここに女子が三人います」
「せやな」
「女子が集まればやることは一つ」
「おい、やめ―」
「恋バナ大会スタートおおお」
「おー」
亜利沙が制止しようとするも、悲劇は止められなかった。
「じゃあ、まずは……私から!」
「お前からかい!」
乗り気過ぎる言い出しっぺに突っ込みが入る。
咲良が今度はクッキーに手を出しながら言った。
「大村君でしょ?」
「お前が言うんかい!」
「どこがいいの?」
遙香はモジモジしながら咲良の質問に答える。
「背が高いでしょ? それから、つり目がちなところがかっこいいかなって」
「なるほど、確かにあのつり目はかっこいいかも」
「何や、普通に恋とかしてるんやな……」
咲良は納得し、亜利沙はこの手の話をあまりしたことがないために、お茶を飲みながらどちらともつかないコメントをした。
「と、いうことで次は亜利沙!」
「ぶがっ」
亜利沙はお茶でむせそうになった。
「ケホッ……う、ウチはそういうのはあんまり……」
「逃げるのはナシだよ」
意外なことに咲良が逃げ道を塞ぎにかかる。
「き、貴様! ポーカーフェイスで大人しいと思っとったらとんだ悪魔やないか!」
「いいから言う」
誤魔化そうとしても無駄だった。咲良と遙香が詰め寄る。
「わ、分かったから……ええと……この人が好きいうのはないんやけど……強いて言うなら……さっき、咲良のお父さん見て……ちょっといいかなって……」
ガタンッ。
部屋の扉の外から大きな音がした。
「…………」
亜利沙の血の気が引いていく。
場を覆う沈黙。
その沈黙を破る悪魔がいた。
「お父さーん、良かったねー」
ガタ、スタスタスタ。
何かを置く音と、誰かが立ち去る音がした。
「外道……! この悪魔!」
叫ぶことで気をそらそうとした亜利沙だったが、その顔は真っ赤に色づいていた。
「次! 次や! 咲良の番や!」
外から新たなお菓子を回収してきた咲良に向かって亜利沙が責め立てる。
「私はそういうのいないかな」
「は?」
「好きな人とかいないし」
「ちょっと待て! 人に恥かかせといてそんな言い訳通用するか!」
「そうだよ、咲良も言わなきゃ!」
遙香が加勢に入ったところで、咲良は「しょうがない」という風に口を開いた。
「本当にいないんだけど、まぁ、今はこのケーキが恋人かな」
「いや、そんな言い方してもかっこよくもないし誤魔化せてないからな!?」
「あーおいしいなー」
ケーキを頬張る咲良。
「あ、ずるい! そのモンブラン狙ってたのに! いいもん、私はこのティラミスをもらうから!」
「こら、遙香は引きずられたらあかんやろ!」
「おいしい!」
「亜利沙いらないんだったらもらっちゃうよ」
明らかにいいところのケーキを頬張る二人。
「…………」
先程のショックが尾を引いていたこともあり、亜利沙はもうやけくそになった。
「ええーい! お主らのケーキ、全て味見してくれるわ!」
亜利沙は咲良と遙香のケーキ目がけてフォークを突き刺しにいった。
静かな夜だった。
遙香と亜利沙はすでに隣で眠りについている。
正直、先ほどまでのやりとりに意味などない。それでも、皆漠然とした不安を振り払うように明るく振る舞った。近くに味方がいることで安らかな時を過ごせる。また明日から離ればなれになるとしても、今はこの安らぎを感じていよう。そう思いながら、咲良はまぶたを閉じた。
ザザ……。
翌日、咲良が目を覚ますと、遙香はまだベッドで眠っていた。
そこで、咲良は小さな違和感を覚えた。
(何だろう?)
確か昨日は遙香が泊まりに来て、お喋りをした。そのあと、ベッドに二人は暑いし狭いからと、遙香をベッドに寝かせて自分は下に布団を敷いて寝た。
(どこも、おかしくない)
おかしくはないのだが、何だか釈然としない。
「……ん。咲良? もう起きてたんだ。どうかしたの……?」
そうこうしてるうちに遙香が起きた。
「ううん、何でもない」
「……そう……あれ、何かいい匂いがする?」
「たぶん、お母さんが朝食作ってくれてるんじゃないかな」
「!」
急に遙香が目を見開いた。
「よし、食べに行こう!」
「そうだね……」
何か釈然としない気がしつつも、咲良は遙香とともに階下へと降りていった。
その日、一人の少女が世界から消えた。
咲良が純麗の部屋で一通りの説明を終えたあと、亜利沙はそう言った。
「さっきと言ってること同じじゃん」
遙香がクッキーを食べながらコメントする。
「いやまぁ、言ってることは分かるけど。どこからどこまでがホントなのか分からん」
「それは私たちも同じだから心配しないで」
咲良もチョコレートを頬張りながらしゃべる。
「明らかに普通じゃないことだと思うんやけど。……何で自分らは平然とお菓子平らげてるん?」
咲良と遙香は顔を見合わせる。
「それはまあ……」
「おいしいから?」
「うん」
今二人が食している菓子は、「友達が泊まりに来る」と言ったら急遽父親が用意したものだ。因みにいいところのお菓子である。
「答えになっとらん……」
ため息をつく亜利沙。
「学校では普通に警戒してたやん?」
問われた遙香は依然お菓子をモグモグと頬張りながら答えようとする。
「ひょふへひへひひひはいほふへふはほひへはいほほはへひはいふふへひょ」
「何言ってるか分からん!」
遙香は亜利沙に突っ込まれて口の中にあるものを食べきってから再度答えた。
「直接的に被害を受けるかもしれないものは警戒するでしょ」
「いや、それも今更だと思うよ」
咲良が助言すると、遙香はあっさり頷いた。
「そうだよね」
(いや、それは警戒するべきや……)
遙香の学校での奇妙な行動は置いといて、いつ襲われるかもしれない状況では警戒して然るべきだ。しかし、亜利沙にもう突っ込む気力は残されていない。
「……分かった。納得できない部分はあるけど、二人が決めたことなら協力するよ」
「ん。ありがと」
と、咲良がお礼を言ったところで、遙香はなぜか正座になった。
「さて、と」
そして、神妙な顔つきなる。
「何や?」
「ここに女子が三人います」
「せやな」
「女子が集まればやることは一つ」
「おい、やめ―」
「恋バナ大会スタートおおお」
「おー」
亜利沙が制止しようとするも、悲劇は止められなかった。
「じゃあ、まずは……私から!」
「お前からかい!」
乗り気過ぎる言い出しっぺに突っ込みが入る。
咲良が今度はクッキーに手を出しながら言った。
「大村君でしょ?」
「お前が言うんかい!」
「どこがいいの?」
遙香はモジモジしながら咲良の質問に答える。
「背が高いでしょ? それから、つり目がちなところがかっこいいかなって」
「なるほど、確かにあのつり目はかっこいいかも」
「何や、普通に恋とかしてるんやな……」
咲良は納得し、亜利沙はこの手の話をあまりしたことがないために、お茶を飲みながらどちらともつかないコメントをした。
「と、いうことで次は亜利沙!」
「ぶがっ」
亜利沙はお茶でむせそうになった。
「ケホッ……う、ウチはそういうのはあんまり……」
「逃げるのはナシだよ」
意外なことに咲良が逃げ道を塞ぎにかかる。
「き、貴様! ポーカーフェイスで大人しいと思っとったらとんだ悪魔やないか!」
「いいから言う」
誤魔化そうとしても無駄だった。咲良と遙香が詰め寄る。
「わ、分かったから……ええと……この人が好きいうのはないんやけど……強いて言うなら……さっき、咲良のお父さん見て……ちょっといいかなって……」
ガタンッ。
部屋の扉の外から大きな音がした。
「…………」
亜利沙の血の気が引いていく。
場を覆う沈黙。
その沈黙を破る悪魔がいた。
「お父さーん、良かったねー」
ガタ、スタスタスタ。
何かを置く音と、誰かが立ち去る音がした。
「外道……! この悪魔!」
叫ぶことで気をそらそうとした亜利沙だったが、その顔は真っ赤に色づいていた。
「次! 次や! 咲良の番や!」
外から新たなお菓子を回収してきた咲良に向かって亜利沙が責め立てる。
「私はそういうのいないかな」
「は?」
「好きな人とかいないし」
「ちょっと待て! 人に恥かかせといてそんな言い訳通用するか!」
「そうだよ、咲良も言わなきゃ!」
遙香が加勢に入ったところで、咲良は「しょうがない」という風に口を開いた。
「本当にいないんだけど、まぁ、今はこのケーキが恋人かな」
「いや、そんな言い方してもかっこよくもないし誤魔化せてないからな!?」
「あーおいしいなー」
ケーキを頬張る咲良。
「あ、ずるい! そのモンブラン狙ってたのに! いいもん、私はこのティラミスをもらうから!」
「こら、遙香は引きずられたらあかんやろ!」
「おいしい!」
「亜利沙いらないんだったらもらっちゃうよ」
明らかにいいところのケーキを頬張る二人。
「…………」
先程のショックが尾を引いていたこともあり、亜利沙はもうやけくそになった。
「ええーい! お主らのケーキ、全て味見してくれるわ!」
亜利沙は咲良と遙香のケーキ目がけてフォークを突き刺しにいった。
静かな夜だった。
遙香と亜利沙はすでに隣で眠りについている。
正直、先ほどまでのやりとりに意味などない。それでも、皆漠然とした不安を振り払うように明るく振る舞った。近くに味方がいることで安らかな時を過ごせる。また明日から離ればなれになるとしても、今はこの安らぎを感じていよう。そう思いながら、咲良はまぶたを閉じた。
ザザ……。
翌日、咲良が目を覚ますと、遙香はまだベッドで眠っていた。
そこで、咲良は小さな違和感を覚えた。
(何だろう?)
確か昨日は遙香が泊まりに来て、お喋りをした。そのあと、ベッドに二人は暑いし狭いからと、遙香をベッドに寝かせて自分は下に布団を敷いて寝た。
(どこも、おかしくない)
おかしくはないのだが、何だか釈然としない。
「……ん。咲良? もう起きてたんだ。どうかしたの……?」
そうこうしてるうちに遙香が起きた。
「ううん、何でもない」
「……そう……あれ、何かいい匂いがする?」
「たぶん、お母さんが朝食作ってくれてるんじゃないかな」
「!」
急に遙香が目を見開いた。
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