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第三十話
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「遙香!」
全てを諦め、眠りについた遙香を呼ぶ声がした。
(もう、何も考えたくない)
遙香はそれに応えない。
(私はこのまま凛と純麗、朱音さんと眠り続ける)
「遙香!」
再び深い眠りに入ろうとする遙香。
だが。
「いい加減にせえや!!」
パチーン。
大きな音と共に、衝撃が遙香の頭を襲った。
「……痛い……」
そしてもう一発。
「何寝ぼけとるんや!」
パチーン。
「だから痛いって!」
遙香は飛び起きると同時にとりあえず抗議した。
「やっと起きたか!」
遙香は頭をさすりつつ、自分を攻撃した犯人を探す。
しかし、真っ暗なツタの中では見つけられるはずもない。
「…………だれ?」
「ウチや、ウチ!」
その声には聞き覚えがあった。
「あれ……どこかで聞いたような……」
「はよ、思い出さんかい!」
「亜利沙や亜利沙! 中西亜利沙!」
「……亜利……沙?」
そこで遙香はポンと手を打つ。
「ああ、亜利沙ね。何でここにいるの? ていうか、今までどこにいたの?」
「死にかけとった」
「え!? 大丈夫なの?」
驚いて見えない亜利沙を探そうと手を動かす遙香。
そして、何かに当たった感触がした。
パチーン。
三度目の衝撃。
「痛っ! 何するの!」
「それはこっちのセリフや! どこ触っとんねん!」
「どこなの?」
「そんなんはどうでもええんや!」
「……どっちなの……」
「ちょっと手伝ってや!」
手を引っ張る亜利沙。
しかし、その手を遙香は振り払った。
「……ごめん。もう、私は何もしたくないし、何も考えたくない……」
「そんなん、分かっとる……」
少しだけテンションを落とした亜利沙が言う。
「凛も朱音も純麗もみんな死んでしまったんやろ? でもな、まだ助けなきゃいけない人がいるんや」
「助けなきゃいけない人……?」
「咲良や」
「咲良なら、そこでツタの中にいるよ……」
「いや、いないんや」
「……どういうこと?」
「咲良は……自分を消してしまったんや……」
遙香はそれを聞いて目をつぶった。
「ああ……そうか……咲良はそれを選んだんだね……もう本当に、私は一人になっちゃったんだ……」
咲良は自死を選んだ。
悲しすぎて涙も出ない。
そんな遙香に、亜利沙は聞いた。
「ウチは?」
「え?」
「ウチは、遙香の大切なものの中に入ってないんか?」
「そんなこと…………!」
「ええんや。まだ仲良くなって日も浅い」
「…………」
「でも」
亜利沙ははっきりと告げる。
「ウチはいつの日か、遙香と咲良の、本当の意味での親友になりたい」
「…………」
「ウチな、遙香と咲良のこと好きなんや」
姿は見えなくても、亜利沙が微笑んでいるのが分かった。
(でも)
「でも、もう遅いんだよ……私たちには何も残ってない……」
「ある」
「……?」
「ここにあるやんか」
亜利沙はこの場を覆っているツタに手を這わせる。
「これが、このツタが遙香なんやろ」
「ツタ?」
「みんなを助けたいっていう遙香の思いなんやろ?」
「…………」
「遙香ならできる。頼む……咲良を救って欲しいんや……!」
「でも、咲良は死んじゃったんだよ……?」
「咲良は死んでへん」
「え?」
「上手く説明できひんけど、咲良は一人ぼっちでどこかに閉じこもってるんや」
「…………」
「お願いや、遙香!」
「……咲良は本当に生きてるの?」
「せや!」
遙香はそっと目を開く。
「…………かな」
一度諦めてしまった自分に、まだ救えるものがあるのだろうか。
「私に、できるかな?」
亜利沙は力強く肯定する。
「できる! 遙香はバカだから逆にできるんや!」
「…………」
やる気になり始めた所で酷いことを言われた。
「亜利沙ってやっぱり果てしなく失礼だよね…………。……うん、でも迷いは消えた。私はバカだから深く考えてもしょうがない」
そして、遙香は自らの手の中にある凛の頭をなでた。
(ごめんね)
遙香が覆っていたツタを取り払うと、目的を達成したからかすでに敵の姿はなかった。
彼女は凛をそっと横たえると、両手をかざした。すると、まるで手向けのようにアジサイの花が咲き乱れた。
「終わったら、お母さんとお父さんの所に連れて行ってあげるからね」
穏やかな笑みを向けると、遙香は亜利沙の方を見た。
「…………亜利沙」
「やめて。言いたいことは分かっとるから」
「何でパジャマで裸足なの……?」
「やめてって言ったやん!」
亜利沙がサーバーから削除されたとき、彼女はパジャマを着ていた。そのことが影響しているのかもしれない。
「それはおいといてどうすれば咲良を救えるの?」
「……切り替え早いな」
「それが私の唯一の取り柄だもん」
「自分で唯一言って胸張られても反応に困るんやけど」
微妙な表情をする亜利沙だったが、いつまでも咲良を一人にしておくことはできない。
「遙香はただ咲良を取り戻したいって願えばそれでええんや」
「え、そんなことでホントに救えるの?」
「ソースは秘密だけど聞いた話を総合するとたぶん」
「……たぶん?」
「あ、あれや! 遙香は考えたら終わりや! 単純でバカなんが力になるってことや!」
「……失礼過ぎる」
亜利沙の言いように半目になる遙香だったが、とりあえず彼女を信じることにした。この辺が単純と言われる所以だ。
遙香はツタを出したときのように願う。
ただ、純粋に咲良に戻ってきて欲しいと。
(咲良、戻ってきて!)
全てを諦め、眠りについた遙香を呼ぶ声がした。
(もう、何も考えたくない)
遙香はそれに応えない。
(私はこのまま凛と純麗、朱音さんと眠り続ける)
「遙香!」
再び深い眠りに入ろうとする遙香。
だが。
「いい加減にせえや!!」
パチーン。
大きな音と共に、衝撃が遙香の頭を襲った。
「……痛い……」
そしてもう一発。
「何寝ぼけとるんや!」
パチーン。
「だから痛いって!」
遙香は飛び起きると同時にとりあえず抗議した。
「やっと起きたか!」
遙香は頭をさすりつつ、自分を攻撃した犯人を探す。
しかし、真っ暗なツタの中では見つけられるはずもない。
「…………だれ?」
「ウチや、ウチ!」
その声には聞き覚えがあった。
「あれ……どこかで聞いたような……」
「はよ、思い出さんかい!」
「亜利沙や亜利沙! 中西亜利沙!」
「……亜利……沙?」
そこで遙香はポンと手を打つ。
「ああ、亜利沙ね。何でここにいるの? ていうか、今までどこにいたの?」
「死にかけとった」
「え!? 大丈夫なの?」
驚いて見えない亜利沙を探そうと手を動かす遙香。
そして、何かに当たった感触がした。
パチーン。
三度目の衝撃。
「痛っ! 何するの!」
「それはこっちのセリフや! どこ触っとんねん!」
「どこなの?」
「そんなんはどうでもええんや!」
「……どっちなの……」
「ちょっと手伝ってや!」
手を引っ張る亜利沙。
しかし、その手を遙香は振り払った。
「……ごめん。もう、私は何もしたくないし、何も考えたくない……」
「そんなん、分かっとる……」
少しだけテンションを落とした亜利沙が言う。
「凛も朱音も純麗もみんな死んでしまったんやろ? でもな、まだ助けなきゃいけない人がいるんや」
「助けなきゃいけない人……?」
「咲良や」
「咲良なら、そこでツタの中にいるよ……」
「いや、いないんや」
「……どういうこと?」
「咲良は……自分を消してしまったんや……」
遙香はそれを聞いて目をつぶった。
「ああ……そうか……咲良はそれを選んだんだね……もう本当に、私は一人になっちゃったんだ……」
咲良は自死を選んだ。
悲しすぎて涙も出ない。
そんな遙香に、亜利沙は聞いた。
「ウチは?」
「え?」
「ウチは、遙香の大切なものの中に入ってないんか?」
「そんなこと…………!」
「ええんや。まだ仲良くなって日も浅い」
「…………」
「でも」
亜利沙ははっきりと告げる。
「ウチはいつの日か、遙香と咲良の、本当の意味での親友になりたい」
「…………」
「ウチな、遙香と咲良のこと好きなんや」
姿は見えなくても、亜利沙が微笑んでいるのが分かった。
(でも)
「でも、もう遅いんだよ……私たちには何も残ってない……」
「ある」
「……?」
「ここにあるやんか」
亜利沙はこの場を覆っているツタに手を這わせる。
「これが、このツタが遙香なんやろ」
「ツタ?」
「みんなを助けたいっていう遙香の思いなんやろ?」
「…………」
「遙香ならできる。頼む……咲良を救って欲しいんや……!」
「でも、咲良は死んじゃったんだよ……?」
「咲良は死んでへん」
「え?」
「上手く説明できひんけど、咲良は一人ぼっちでどこかに閉じこもってるんや」
「…………」
「お願いや、遙香!」
「……咲良は本当に生きてるの?」
「せや!」
遙香はそっと目を開く。
「…………かな」
一度諦めてしまった自分に、まだ救えるものがあるのだろうか。
「私に、できるかな?」
亜利沙は力強く肯定する。
「できる! 遙香はバカだから逆にできるんや!」
「…………」
やる気になり始めた所で酷いことを言われた。
「亜利沙ってやっぱり果てしなく失礼だよね…………。……うん、でも迷いは消えた。私はバカだから深く考えてもしょうがない」
そして、遙香は自らの手の中にある凛の頭をなでた。
(ごめんね)
遙香が覆っていたツタを取り払うと、目的を達成したからかすでに敵の姿はなかった。
彼女は凛をそっと横たえると、両手をかざした。すると、まるで手向けのようにアジサイの花が咲き乱れた。
「終わったら、お母さんとお父さんの所に連れて行ってあげるからね」
穏やかな笑みを向けると、遙香は亜利沙の方を見た。
「…………亜利沙」
「やめて。言いたいことは分かっとるから」
「何でパジャマで裸足なの……?」
「やめてって言ったやん!」
亜利沙がサーバーから削除されたとき、彼女はパジャマを着ていた。そのことが影響しているのかもしれない。
「それはおいといてどうすれば咲良を救えるの?」
「……切り替え早いな」
「それが私の唯一の取り柄だもん」
「自分で唯一言って胸張られても反応に困るんやけど」
微妙な表情をする亜利沙だったが、いつまでも咲良を一人にしておくことはできない。
「遙香はただ咲良を取り戻したいって願えばそれでええんや」
「え、そんなことでホントに救えるの?」
「ソースは秘密だけど聞いた話を総合するとたぶん」
「……たぶん?」
「あ、あれや! 遙香は考えたら終わりや! 単純でバカなんが力になるってことや!」
「……失礼過ぎる」
亜利沙の言いように半目になる遙香だったが、とりあえず彼女を信じることにした。この辺が単純と言われる所以だ。
遙香はツタを出したときのように願う。
ただ、純粋に咲良に戻ってきて欲しいと。
(咲良、戻ってきて!)
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